プロローグ
12月24日。この日は一体何の日か知らない者は殆ど居ないだろう。
ある者は家族と、またある者は恋人と幸せなひと時を味わうことができる極上の聖誕祭。
しかし、この世は表裏一体。光の裏には闇がある事を忘れてはならない。
幸せな聖誕祭を光とするのなら、独り身で寂しく過ごす闇の部分も存在する事になる。
そして東京都新宿、ここにも聖誕祭の闇が潜んでいた。
煌びやかなイルミネーションに彩られた巨大クリスマスツリーの真下に暗い顔の少年が一人。
力なく垂れ下がる右腕にはスマートフォンが握られているのがわかる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・来ない。」
だるそうな様子でスマートフォンを覗き込み、時刻を確認する。
<11:27>
「マジで来ない・・・理恵のやつバックれたの・・・か?いやでも真面目な理恵がバックれるなんて・・・ありえないよなぁ?」
さらに時刻を確認する。
<11:28>
「っ!そうだよ。きっと遅れてるんだ!クリスマスだから電車やバスが混んでいるんだよ!」
まあかれこれ予定から4時間経っているのは・・・気にしない!混雑しているのは仕方ない!
〜〜10分経過〜〜
「たたたたたたたたた大変だなぁ!クリスマスラッシュは!きっと子供の為に残業早く終わらせて帰ろうとしているパパさん達がいっぱいなんだろうなぁ!でもどうやってもこの時間じゃ子供寝てるからもう諦めて居酒屋でやけ酒してキャバクラで女はべらしてピンドン飲みまくってお会計10万です♡とかいわれた挙げ句朝帰りして嫁にめっさ怒られながらさっさと早朝出勤してきなさい!」
〜〜さらに5分経過〜〜
「ううううううにゃあああああああああああああ!!!!!!理恵はきっと俺とのデートが待ち遠しくて昨晩寝るに寝れずに午後9時に起床して約束の時間間に合わないなぁ〜☆とかいいながら何着ていこうか現在進行形で悩んでいる最中だと思うんだだから俺は全く焦らず整然と可愛い理恵を待てば良いのだ大丈夫だよ理恵
俺は太陽が登っても君を待ち続けるから・・・って俺はなにキモいこと言ってんだ。」
しかし、この後も俺は待ち続けたが理恵が来る事はなかった。
俺はおもむろにスマホを見る。相変わらずメールもLINEもこないスマホを・・・だ。
<12:00> デジタル時計が冷たくイブの終わりを告げ、クリスマスの始まりを宣言する。
「・・・帰るか。」
懐にスマホをしまいながら俺は歩き出す。悲しさと悔しさで胸がねじ切れそうだったが、堪える。
ここでこの醜い衝動を吐き出してしまえたらどんなに楽だろうか。
いっそ吐き出してやろうか。
いや、ダメだ。それだけはダメだ。そんなことをすれば俺は本当に負け犬だ。
もうとっくに冷たくなったカイロを握りしめながら立ちすくむ。
視界がかすみ、目頭が熱くなってくる。目尻にはもう涙が浮き出て来ていた。
「・・・っ!・・・うぅっ!・・・ちくしょうっ!なんで・・・なんでだよ・・・っ!」
どうして、どうして、と何度も何度も問う。理恵に、自分に。
そんな悲しみの絶頂を迎え、涙が溢れる瞬間。
ヴヴヴヴウヴヴヴヴ!!!!!
「っ!?」
懐のスマホが鳴り響く。
「まさか・・・。理恵から!?」
俺は期待のあまり少しもたつきながらスマホを取り出す。
スマホの画面には<新信あり>の四文字。
はやる気持ちを押さえながらメールを開いていく。
新着メールは主題なかったが本文は書いてあり至って普通のメールだった。
ただ一つおかしい点があったとするならば
『あなたの欲しいものはなんですか?』
—————————————————送信者がサンタだったことだ。