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Red.  作者: れむ
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第二章  血を引く者

「お前……最近何かあったか?…」


(え?何かって……)


「あったと言えばあった……けどー…」


俺は、曖昧に答えながらも聞き覚えのあの日のことを思い出す。

はぁー、と深くため息をつくじいちゃん。

そして、ゆっくりと語り始めた。


「……ヴァンパイアって、知ってるか?」

「え?ヴァンパイア?ってー…あれだろ?人の生き血を吸って生きるって言うー…」

「そうだ」

「……??それと俺とが何の関係があるって言うんだよ?」

「…大有りさ。千桐、お前さっきのこと覚えてないだろう?」


(……さっきの…こと…??)


「……俺…さっき…」


自分の両手を見つめながら考え込む。

(……満月を見て……それから……)

思い、出せない…。


「…この世界にはな、千桐。ごくまれに『普通』ではないやつもいる」


(…え)


「それ…どーゆー」

「もしも……」


俺の問いも最後まで聞かず、続ける。


「………存在(いる)って言ったら…??」

「…は…?そんなわけないだろ?」


突然とんでもないことを言い出すじいちゃんに吹き出しかける俺。

だが、じいちゃんのその表情は(かお)は、相変わらず真面目だ。

(……なんなんだよ?…それがほんとの話とでも言うのか…?)


「……嘘…なんだろ?」


少し、半信半疑になりながらも聞き返す。


「……お前も……そうだと…言ったら、信じるか…?」

「……は…?」


(俺…が…?嘘だ…)


「……お前は……目覚めたんだ……ソレに」


さらに、付け加えるじいちゃん。

(……嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だー…!!)

頭を抱えてしゃがみこむ。

そして……気づいてしまった……。

その手が紅く染まっていたこと。

目の前のじいちゃんの肩にちょうど俺くらいの手形がついていること。

ふと映った窓ガラスの俺の口から二本の鋭い牙が月明かりに光っていたこと。




満月を見つめたまま少年は、動かない。


「おい、千桐…?」


頭を抱えて震える孫におじいさんは、呼び掛けながらそっと手を伸ばす。

近づいてきた手をグッと掴んで離さない少年。

少年がゆっくりとこちらをみる。

その瞳は、普段とは違って紅く輝き、とても虚ろな瞳をしていて、微かに開いている口の隙間から二本の鋭い牙が光る。


「………千桐?…千桐!?」


呼び掛けてみるが、反応はない。

ただ宙を見つめて何かにとり憑かれているかのように右へよったり左によったりしながらフラフラと歩いてくる。


「…が…ほしい……血…」

そう繰り返しながら、おじいさんの肩に両手をかけて、近寄ってくる。 カッと口を開いて、襲いかかる少年に思わず腕を前につき出すおじいさん。

そのまま噛みついて、おじいさんの腕に牙が…突き刺さる。

ツー…と流れ出す紅い血液。

しばらくすると少年がパッと口を離した。


「ふ…うまくないだろ……」

「……うぅ………」


うなされながら、ゆっくりとしゃがみこむ少年。

そして、急にフッと倒れこんでそのまま意識を失ってしまった。

倒れこんだ少年をそっと仰向けにしてあげて、安らかに寝息をたてる少年の頭をなでて、そっとこう付け加えた。


「俺も……ヴァンパイアだからな……」








「…俺……ホントに…?」


震えながら、床にへたりこむ千桐。

「………。」


(そろそろ、話さなければいけないのかも…しれんな…)

目の前でまだ現実を受け止めずにいる孫を見て、おじいさんはそう思った。


「……お前は…間違いなくヴァンパイアだよ。そう、先祖代々…な」

「……え?」

「……じいちゃんたちは、元々……ヴァンパイア…だ…」


そういって立ち上がって、月明かりに照らされる窓ガラスに歩みより、月を見上げるようにこう呟く。


「……あの時、までは…な」




ー…それは、今から何十年も前のこと。

セルビアで、不思議な怪奇事件が起きた。

『死人が…夜な夜な人の血を求めて 大地をさ迷う』

そんな見出しで、たくさんの雑誌やTV局が大きく取り上げた。

そして、原因不明の事件についには政府も動き出す社会問題にまでなった。

彼の名は、ラデス=カルア。

彼もまた、普通の人間であった。

顔立ちが綺麗で、心優しくお人好しな彼は街の中でもとても人気だった。

けれど、凶悪な事件に巻き込まれて無念の死を遂げる。

それからというもの、ラデスは血を求め、さ迷い歩いた。

「………血を……人の……血を…」

整った顔立ちに、紅き瞳。

鋭い牙を持った男。

彼こそが、初代のヴァンパイア、と呼ばれた男だった。

彼は、毎晩生きた人の血を吸った。

異性も同姓も関係も、ない。そんな人間たち(ひとびと)を…。

撃たれても、刺されても、死ぬことは叶わない。

永遠の命のループ。

やがて、不死のヴァンパイアは人間を愛することでその生涯を終えてきた。

好きだから愛するのではなく、永き生涯に終止符を打つために相手に愛を求める。

しかし、その時ばかりは……そうもいかなかったけれど。









ー…そんな時代から幾年もたった現代。

人間を愛し、ヴァンパイアと人間の間の子が生まれる。

ソレを何度も繰り返してきて次第にヴァンパイアの血は薄れていった…。

そして、32代目。

「……父さん、俺にヴァンパイアの力は…ないよ…」

「………ああ。お前は………」

ーーーーーーーーーーーーー『人間だ』ーーーーーーーーーーーーー

ついに、わずかにヴァンパイアの血をその身に宿しながらも、人の血を求める本能を失ってしまった。

「…お前は、全部忘れて…『人間』として……普通に生きろ…」

父である王の言葉に、彼は一度だけ頷いて父を残して一人平和な国、日本へとたった。

……そして、普通の人間として女の人を愛した。

そして、二人は『普通』の子供を産んだ。


「……それで、よかったのに…。そのまま『人間(ひと)』であればよかったのに………!!」

眉間にシワを寄せ、思い詰めるような顔で悔しげにもみえる表情を浮かべた。

「え?じいちゃん?」

「……もう目覚めてしまったんだ……。」

「……でもさ今まで普通だったじゃんかよ!?満月なんて何回も見てきた!!」

「あぁ……。だから俺も何も言わなかった。お前が普通に生きていけるように…。でも、お前が襲われて…僅かに眠っていたその血が目覚めたんだ…」

「……そんな…」

辛かった。

ただひたすらに。

そんな感情しか湧かない。

何気なくみたじいちゃん。

そっと手をおいたじいちゃんの肩が、震えているのがわかる。

怖いんじゃない、悲しい…んだ。

「千桐、じいちゃんとセルビアに来ないか?」

「え……。でも……」

「じゃあ…聞くが、ここでどうやって生きていく?」

「え…どうって……」

(……セルビアに行ったら、もうほとんどみんなとは会えなくなる…。それは嫌だ……)

俺は、黙りこむ。

「……月を見る度に、人を襲うのか?父さんも、母さんも、知り合いも、そうじゃない人も…」

「……!!それはっ……」

「……よく、考えろ。千桐。ここに俺達ヴァンパイアの居場所は…あるか?」

「…………」

(俺が…ここに残ることを望めば……誰かが傷つく…。なら俺は……)

「………分かった。行くよ……」

「……そうか。」

(…………ソレを、望んではいけないんだ…)


目覚めてしまったからとはいえ、その決断はとても辛かった。

これからも一緒に過ごしていけると思っていた家庭も、文句を言い合えると思っていた友人も彼が傷つけてしまわぬように、彼自身から離れなければならないのだから。

(……やはり 千桐には重すぎたな……この運命(さだめ)は…)

気を落として、静かに泣く孫を目の前に心が痛む。

(……何か、あるはずだ。ヴァンパイアの運命から逃れる方法が…!!)

セルビアならきっと、情報があるはずだ。


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