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Red.  作者: れむ
3/13

第一章    続

翌朝、俺はいつも通りの通学路を歩く。

玄関では、母さんに


「まだ落ち着いたばかりだし、学校は明日からにしたら…?」


とも言われたけれど、そんな心配も押しきって半ば無理矢理に出てきた。

(…だって…家にいたら気になって仕方ねーし……)

ブツブツ一人で呟いていると、後ろから肩をポンと叩かれた。


「なーにブツブツ言ってんの?」


そう言って笑ったのは、同じく推薦で一足先に合格が決まった友達の桜川雅(サクラガワ ミヤビ)だった。


「……ってことは………」


俺は、雅の後ろをチラッと覗く。


「もちろん、ボクもいる~!!」


隠れていた雅の背中からもう一人、楽しげに出てくる。


「やっぱり……」

「ねーねー!!びっくりした?びっくりした??」


そう聞いてくるのは、桑崎(カザキ) (ナギ)

僕らは、3人仲良しだ。

いやもうほんとに……。


「………雅に、凪ねぇ……。」


俺は、冗談を込めてはぁ…とため息をついて見せる。

途端に、二人が突っかかってくる。


「おい、千桐。なんかバカにしてるだろ!!」

「いや…別に」


俺は、しれっと答える。


「どう思う、凪」

「うーん…むかつく」


雅の怒りに煽られるように、凪が頬を膨らませる。


「だよな」


雅は、ゴゴゴゴ…。凪は、ムッと…。

二人に効果音をつけるとこんな感じで、違う雰囲気を出しているが、二人の思いは、一つ。

俺に対する『怒り』を燃やしているのは、確かだ。

先に走り出す俺を、追いかけてくる二人。

ほんとに仲がいい……… この二人は。

苦笑いを浮かべながら俺は二人から逃げて一つの事実に気がつく。

(やっぱり……見えてない……か…)

幾らあんなバカだって、この位の異変は気づいていれば口にする。

今ここで確信した。

この包帯は、俺以外の人には見えていない。

そして、そのしたの傷も…。

昨日、そのまま夕食を食べたが母さんも父さんも一度として、顔色を変えたりすることはなかった。

互いに「傷がなくてよかった…」と、繰り返すように話していた。



結局、謎がとけないまま教室に飛び込んでいつも通りに授業が始まった。











(…ふぅ…今日も疲れたなぁ……)

そんなことを考えながら、靴を脱いでいると俺の横にあまり見かけない男性用の靴がもう一つ置いてあるのに気がついた。

(ひょっとして…お客さん……?)

俺は音をたてずに、ゆっくり歩いて客間をそっと覗いてみる。

お母さんと…あの後ろ姿どこかで……

過去の思い出をハイスピードで巡らせて一人だけ思い当たる人物に遭遇した。


「……じいちゃん!?……あ」


会話が弾んでいた二人が同時にこっちを向く。


「あら、千桐。おかえり」

「あぁ た ただいま…え どうしたの?」


俺は、疑問をたくさん浮かべる。

というか、目の前の存在を疑った。

じいちゃんは、父さんが結婚してからはセルビアで暮らしていて一度も日本には戻ってこなかったらしい。

だから、会うときは俺たちが毎年の夏休みにセルビアにいったときだけ。

今年は、俺だけ推薦の準備なんかで行けなかったけれど。


「元気そうだな……千桐…」


俺の顔すら見ずに、フッと笑って見せる。


「じいちゃんこそ、ついにセルビアに嫌気がさしたのか?」


そう言ってからかう。


「そんなわけないぞ!!じいちゃんは最後までセルビアにいる」


目を閉じて、ふんと言い切って見せる。


「そーかいそーかい。若々しいと思うよ?その元気☆でもじゃあなんで日本なんかにいるのさ?」


すると、母さんが横から口を挟んで言う。


「今の家がガタが来たそうでね、新しい家を再建するから、その間うちに泊まることになったのよ」


(…へぇ―…あれもついにガタがきたかぁ…)

俺は、じいちゃんの家を思い出して考える。

じいちゃんのいえは、はっきり言って変わっている。

それはもうなにもかもが。

まず、森のなかにたっている時点でおかしいと思う。

そして、何より室内。

一見すると、綺麗な家だが綺麗すぎて逆に怖い。

なんていうか、ものが少なくて、生活感がないような感じ。

特に鏡なんかの姿を写すものは、奥の部屋に紫色の布をかけたものが一つあるだけ。

極めつけは、屋根裏部屋にコウモリが巣を作っている。

その家が、そろそろなくなる。

変に寂しさを感じながら、懐かしくも感じた。

そんなとき、プルルル……。

廊下に固定電話の音が鳴り響く。


「あらあら、誰かしら?ちょっと……」


失礼しますね、と小さく付け加えて母さんがパタパタと電話を取りに向かう。

そんな母さんの様子を見送りながら、俺は自分の部屋の階段を上った。








「……チ……リ……ギリ……」


誰かが何かいっている……??


「……チギリ~??」

ハッとして、顔をあげると辺りはもう真っ暗だった。

どうやら俺は、部屋に入ってきてベットで寝転んでるうちに眠ってしまったようだった。


「チギリ~??聞いてるの~??」


下から母さんのせかす声がする。


「はい―!!」


ちょっとやけくそになりながら、階段をかけ降りる。

すると、ちょうど母さんが靴をはいているところだった。


「………何?」


少し不機嫌に聞いてみる。


「あぁ 千桐。母さんたち、ちょっと出掛けてくるからね、テーブルに夕飯置いてあるからじいちゃんと先に食べておいて」


それだけ言うと、鞄を握ってあわただしく家を出た。

リビングにいくと、ちょうどじいちゃんが自分のご飯をよそっていた。

せっかくなので俺も一緒に食べることにした。

じいちゃんが座って、俺は向かいの席に座る。

しーんと気まずい沈黙が流れる。

(…ヤバイ、なんだ。この空気……)

重すぎる空気に、俺は何か話題作りにとTVのスイッチを押した。

ついたチャンネルは、『天気予報』。

普段なら、何かやっていないかとチャンネルを変えまくるけれど、ただ音声を流していたい今は、チャンネルなどどうでもよかった。


「明日雨かぁー…、セルビアは今どんな天気なんだろうね?」


何とか話をしようと頑張る俺。

しかし、じいちゃんは…


「……………」


こんな感じで、だんまりとしてまるで無反応。

ついに、俺はあきらめて一人で天気予報に向き直る。

『……続いて、今夜のお天気です。

今日は快晴でしたから、藤城の街では綺麗な満月が見られるでしょう。皆さん、この機会に空を見上げてはどうですか?』

お天気お姉さんの高い声が、TVから流れてくる。


「満月かぁ……もう何年も見てないかなぁ…」


俺は、心のなかで思ったつもりだったけど、気がつくと声に出してしまっていた。

(満月かぁ……)

なんとなくだけど、無性に満月が見たくなる。

俺は、引き寄せられるようにカーテンの開いた窓に歩み寄る。


「……カーテンを閉めなさい」


――ビクン。

いきなりの声に肩が少し反応する。

ついさっきまで何も話さなかったじいちゃんが怒っているような鋭い口調で俺に言う。


「あぁ うん。でも少しだけ見てから…ね……」


そういって俺は、笑いながら窓の外に浮かぶ月を見上げた。

……ドクン!!

いきなり鼓動が、速度を増す。

体が思うように動かない…。

(……あれ?なんか………変……俺…?)

なんだか満月から目が離れない…。

(……満月……満月…満月……)

淡く黄色い光を放つ満月……。

さらに、耳鳴りまでなる。

頭の奥から、聞こえるような声がする…。

『……(ザザザ…)君……でしょ?』

途切れ途切れに駆け巡る声に時おりノイズ音が走る。

『……だよ…ひ…(ザザザ…)…の…』

(………なんだ…コレ…)

やがて、激しい頭痛までが襲ってくる。

その痛さは、尋常ではなかった。







開いた目には俺の家の天井が映る。

(………………?)

ほんのすこし頭痛のする頭を起こして、呟く。


「あれ…?俺、一体何して……じいちゃん?」


ふと横でボソボソとしているじいちゃんを見つけて呼んでみる。


「じいちゃん?」

「あ…目が覚めたか………って、あ!」


じいちゃんが顔をあげるなり、俺をみてそういった。


「え……何ッ!?」

「お前…その首筋…………」


じいちゃんがそれきりまた、黙る。

(…俺の…首筋……?首筋って……まさか………!!)

俺は、本当にまさかと思いながらも恐る恐る思い当たった推測を口にする。


「………見えるのか、じいちゃん…!!」

「あ あぁ…。それよりお前…ちょっと…動くな…」


そう言って俺の近くに来ると首筋に巻かれた包帯の結び目に手をかける。

以前のように、スルスルとほどかれていく包帯…。

(…じいちゃん…ほんとに見えてる………!!)

誰も見えなかっただけに、逆に見えていることに驚く俺。


「…………やっぱりか……!!」


俺の傷痕を見ながら、じいちゃんが言う。


「……やっぱりって……??」


キョトンとする俺に、真正面に向き直って真面目な顔つきでいった。


「いいか……。落ち着いて、よく聞くんだ…」


いつになく真剣で、真面目なじいちゃんに圧倒されて、

俺は言葉も出せず、ただコクンコクンと何度も頷き続けた。




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