01 朝食の香りに誘われて
彼は朝、目を覚ますと日課である住居の見回りを始める
寝床から軽やかに飛び降り、彼のために設けられた出入口から廊下に出ると朝食のいい香りがしてきた
香りに誘われてリビングの前までやってきた
扉を開けてくれるように一声あげる
「よう、虎太郎。早いな」
扉を開けてくれた同居人の足の間をするりと抜けて、リビングに入る
「おはよ、虎太郎」
もう一人の同居人だ。朝食の準備をしている
彼なりに挨拶をすると振り返りソファへ向かう
ソファの端は日当たりが良好で、彼の一番お気に入りの場所
そこで丸くなっているうちに暖かい日差しのせいで、ウトウトと眠気に誘われるまま瞼を閉じた
「また寝たのか、こいつは」
「しょうがないよ、指定席だから。それより一兄、時間大丈夫なの?」
「何言ってんだ美紗。まだ5分ある」
「あれ5分遅れてるよ」
「早く言えよ!」
虎太郎はふと目を覚まし大きくあくびをした
今日はどこへ行こうかな……
ソファから降り尻尾をぴんと立て玄関へと歩いていった
彼は長い尻尾と艶やかな毛並みを持つ、黒猫である
「虎太郎、お前も出掛けるのか?いいよなぁ猫は気楽でよ」
同居人の声に足を止めいつもより低い位置にある顔を見上げる
バタバタと出ていった同居人を見送ると、反対方向に歩きだした
塀の上にご近所さんを見つけた。飛び上がり一言二言挨拶をかわす
今日は公園に行くことにしよう――