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五つ葉のクローバー  作者: 真桜
五つ葉のクローバーを探しに
32/34

携帯を買いに

書きたい事がまとまらず、数日、書いては消し、書いては消しで、思いっきり悩んでました。更新が遅れてすみません。これからは、移植に向けての瑠夏の不安や劉生のつらさを書かなくてはいけなくて・・・・・どんなことばにすれば、と、悩みが尽きません。でも、ふたりの想いを書いていこうと思いますので、読んで下さい。

 12月28日


 冬休み前半最後の補習が終わった。


 劉生は、終了を告げるチャイムが鳴り終わると同時に席を立った。カバンを肩にひっかけると急ぎ足で教室を出た。


 瑠夏は校門前で待っていると言っていた。昨日、この寒い中、外で待つのは厳禁だと口をすっぱくして何度も言ったから、ちゃんと車の中で待っていてくれるだろう。


 それでも、劉生は急ぎ足で歩いた。






 クリスマスの翌日から2日間、瑠夏は父方の実家に遊びに行っていた。


 一緒に過ごしたクリスマスの日、瑠夏からそのことを聞いた。


 2日間も瑠夏に会えないと思うと劉生の気持ちは沈んだ。


「会えないけど、毎日、電話かメールで話せるでしょ。」


 瑠夏の声に、劉生はうなった。


「電話って、携帯でってこと?」


「そうだけど?」


 何でそんなこと聞くのかって顔で瑠夏が首をかしげる。


「あ~、俺・・・・」


「あっ、そういえば劉生の携帯の番号もアドレスも知らないんだ、私。まだ教えてもらってない。」


「うん、そうだね。その・・・俺、さ。」


「ん?」


 劉生は、はあっと小さく息をはいた。


「俺、さ。携帯を持っているには持っているんだけど、使ったこと、ない。」


「は?」


「いや、だから、携帯電話って、使ったことない。」


「一度も?」


「自分のは、一度も。」


 劉生が真顔で答えるのを瑠夏は目を丸くして見ていた。


 今どき、携帯を使ったことのない高校生って、世の中に何%くらいいるのかな?


 絶対、圧倒数、少ないよね?


 あ~、でも、一般論が通じないのが劉生のいいとこかな?


 これまで携帯の話題が出なかったってことも不思議なんだけど、携帯を持ってないって聞くとそれも必然かなって思えちゃう。


「でも、持っては・・・いるんだよね?」


「ああ、母さんから中学校入学の時に渡された。」


「ちゅ、中学校入学の時?高校じゃ、なく?」


「ん。俺が全く使う気配を見せないから、それからはなにも言わない。」


 瑠夏は唖然とした。


 ここまで筋金入りに携帯嫌い?それじゃ、携帯で話そうなんて言っても、劉生が困るだけか。


「じゃあ、家電使う?」


「家電?」


 しまった。


 つい、略語使っちゃった。絶対劉生には通じないよね。


「家電って、家の電話のこと。」


「ああ、でも、うち電話は1階のリビングにしかないから、なにかと面倒だよ。けっこうコール数多くしないと誰も取らないし。」


 劉生が渋い顔でそう言った。


 そりゃ、そうだろう。


 今どき、誰でも携帯で連絡取り合ってるはずだから、家の電話なんてあまり使われないんじゃないのかな。


 それにしても・・・・・


 この間、劉生のお父さんに携帯・・から電話もらったよね。ということは、劉生ん家、他の人は携帯を使っているはず。なのに、劉生は・・・・・


 瑠夏は、盛大にため息をついた。


「だって、家電でなきゃ、劉生と話せないんでしょ?だったら、私がかける時間を決めるか、劉生が家電から電話くれればいいじゃない。それだと、離れている時でも話はできるよ。」


「ああ、まあ、そう・・・だね。」


「ほんとはさ、Wi-Fiとか使って、顔を見ながら話できるといいなと思ってたんだけど、そんな次元じゃないんだね、劉生は。」


「顔を見ながら電話で話できるの?」


 案の定、びっくりした顔で劉生が訊ねてきた。


「まあ、今の時代は・・・ね。それもできるよ。」


「・・・・・俺の携帯でも?」


「・・・・・劉生の携帯を見てないから、何とも言えないけど、もし、中1の時以来、携帯を変えてないってんじゃ、できないかも。」


「それ、どうやったら、わかる?」


「携帯見ればすぐわかるけど・・・・・」


 劉生は、舌打ちをした。


 今から家に帰って確かめて、もし、そんな機能がついていなければ、明日からの2日間、瑠夏の顔を見ながら電話っていうことはできないんだ。


 劉生が、残念そうにため息をつくのを見て、瑠夏は、慌てて慰めた。


「でも、でも、話はできるよ。家電でも、劉生がその気になってくれれば、今もってる携帯でも。あっ、でも、劉生の携帯、基本料金払っているかな?」


 顔は見れても話せるって、期待を持たせておいて、また落ち込ませてしまう。


 瑠夏は、言ってしまってちょっと後悔した。


 でも、家に帰ったらわかることだものね。それに、最悪、家電は使えるだろうし。こうなれば、そっちのほうで話をすすめたほうがいいかも。


「劉生・・・?」


 俯いたまま黙っている劉生に、おずおずと声をかけた。


 劉生は、ぶつぶつと独り言を言っていたが、おもむろに顔をあげ、瑠夏に訊いた。


「俺にも、今からでも携帯使いこなせるかな?」


 劉生のことばに瑠夏は驚いた。


「どうして?今まで興味なかったんでしょ?」


「会えない時でも瑠夏と顔を見て話ができるって聞いたら、興味がわいた。てか、真剣に使えるようになりたい。」


 そう言われて瑠夏は嬉しかった。


 私のために慣れない携帯を使ってくれるの?


 ほんとに?


「嬉しい・・・劉生。」


 はにかむ笑顔に、劉生は顔を赤くした。


 瑠夏に嬉しいと言われて、俄然やる気が高まった。


「瑠夏、とりあえず、瑠夏の携帯使って、携帯での通話の仕方と、メールの仕方と、それから、一応、顔を見ながらってののやり方を教えて。」


 瑠夏は、通話とメールのやり方を教えた。だが、Wi-Fiやテレビ電話の機能については、劉生の機種ができるかどうかもわからないので、保留にしておいた。


 劉生は、瑠夏の電話番号とアドレスをメモした紙をパスケースに慎重に挟みこんだ。


 失くしたら、2日間はどうすることもでいない。


 その日、家に帰ると、劉生はすぐにクローゼットにしまってある携帯を取り出した。


 さっそく、瑠夏の教えてもらった通りに電源を入れて、それから、瑠夏の番号を入れて通話ボタンを押した。


 だが、携帯は、うんともすんとも言わない。


 何度か試したが、結果は同じだった。


 劉生は、がっくりと肩を落とした。


 やっぱり、携帯は止められていたのだ。


 考えてみれば、あたりまえか。全く使わないのに、そのまま基本料金だけを払い続けるわけがないよな。


 手の中の携帯を眺めながら、何度目かのため息をついた時、ドアをノックする音が聞こえた。


「はい。」


 携帯を持ったまま、ドアのほうを向くと、母の静香が顔を覗かせた。


「劉生、おじいちゃんからの伝言があるんだけど。あら?携帯、使うの?」


 劉生が手にした携帯を見ながら静香が訊いた。


「あ、うん。ちょっと使ってみようかと思って。」


 使おうと思った理由を聞かれたらたまらない。


 劉生は、適当に口を濁して携帯を箱にしまおうとした。


「あら、めずらしい。でも、ごめんなさい。その携帯、止めてあるのよ。劉生は使わないのだと思って。劉生が使うと言うなら、明日、手続きしてきましょうか?」


「ほんと?頼むよ、かあさん。」


 滅多に頼みごとをしない劉生がそういうのを聞いて、静香は面食らったが、なにも言わずに頷いた。


「で、じいさんからの伝言って?」


「ああ、瑠夏ちゃんが退院したら、私のことは忘れてしまったのかって。淋しがってたわよ、おじいちゃん。ここしばらく劉生が顔を見せないって。」


「明日、補習が終わってから行くって、言っといて。」


「わかった。じゃあ、午前中には通話できるようにしておくから。でも、劉生、その携帯、だいぶ型が古いけど、それでいいの?」


 携帯の型の新旧なんて、正直、どうでもよかったのだが、顔を見ながらってやつとメールができないと困る。この携帯でそれができるかは、訊いとこう。


「かあさん、これでメールとか、顔を見ながら話すってこと、できる?」


 自分の携帯を静かに差し出すと、静香はそれを受け取って調べた。


「これでは、メールはできるけど。顔を見ながらって、テレビ電話とかインターネット通話ができるとかってことを言ってるのよね?」


 か、かあさんのほうが、携帯の機能について詳しい。なんだ、そのインターネット通話ってやつは。瑠夏からも聞いたことないけど。


 劉生が戸惑っているのを見て、静香は苦笑した。


 この子は、ほんとに。


 劉生が、どれだけ人とつかがるための機器に無関心だったのか、わかる気がした。


 その劉生が、自分からその機器を使いたいと言ってきたのだ。


 静香は、夫さえも一目置いている瑠夏という子に会ってみたいと思った。


「劉生、その携帯では古すぎて。何なら携帯を買い替えたら?あなたに顔を見ながら話ができる機能を教えてくれた子なら、きっと、一緒に選んでくれると思うわ。その子に頼んでみたら?どの携帯がいいか一緒に選んでくれって。」


 劉生は、ひったくるように静香から携帯を取ると、くるりと背を向けてしまった。背中を向けた劉生の耳は、真っ赤になっている。


 この子ったら、瑠夏ちゃんのことを指摘されたと思って、恥ずかしがってるんだわ。


 静香は、思わず笑みを浮かべた。


 声を出したら、ますます意固地になりそう。


 静香は肩をすくめて、部屋を出た。出る前に、劉生に一声かけた。


「明日、携帯が使えるようになったら、メールで知らせるから。じゃ、早くお風呂入ってしまってね。」


 ぱたん

 

 ドアが閉まって、階段を下りる音が聞こえた。


 劉生は、ほうっと、大きく息を吐いた。


 携帯ひとつ使えるようになるのに、こんなに手間取るなんて。


 こんなことなら、もらった時からバンバン使っていればよかった。


 結局、その日は瑠夏に連絡をすることはできなかった。


 明日は、朝早くから出かけるって言ってたからな。


 とにかく、携帯が使えるようにならなければ、瑠夏には連絡が取れない。


 劉生は、便利なんだか、不便なんだかよくわからない携帯を手に持ってベッドに仰向けになった。


「この小さな携帯が、いつでもどこでも、瑠夏と繋がることができるんだ。便利といえば便利だよな。だけど、使いこなせるようになるには、訓練が必要なんだ。それは、不便といえば不便なんだけど。」


 黒い携帯を眺めながら、そう呟いた。






 翌日


 補習中に、カバンに入れた携帯が大きなコール音を発して、劉生は、こっぴどく注意された。


 放課後以外、携帯禁止なんてきまり、はじめて聞いた。


 そんなきまりもあったんだ。


 劉生は、補習担当の教師に携帯を取り上げられ、放課後、職員室に取りに行く羽目になった。


 あんなに説教されたのに、取りに行った時に、また、説教された。


 一度言えばわかるっつうの。


 いいかげん、うんざりしてそう思ったが、表面上は神妙に聞いていた。これ以上、反抗的な態度をとって、足止めを食らうのはごめんだ。


 携帯が戻って、取り上げられたことを瑠夏に話すと、瑠夏は、受話器の向こうで大笑いしていた。


『りゅ、劉生ってば、もしかしなくてもサイレントの機能もバイブ機能もしらない?』


 なんだ?そのサイレントだのバイブだのってのは?


 なかなか笑い止まない瑠夏にムッとして、劉生は携帯を握りしめたまま、黙っていた。


 沈黙が続いていることに瑠夏は、笑いを止めた。


『ごめん、劉生、劉生は携帯初心者なのに、笑っちゃって。』


「いいよ、俺がなにも知らないのはほんとのことだし。」


『だいじょうぶ。劉生なら、すぐに使いこなせるようになるって。私がきっちりと教えてあげるから。』


「うん、頼む。」


『まかせて。教えたら、顔を見ながら話そうね。』


 瑠夏のことばに、劉生は困ってしまった。


 かあさんの話だと、俺の携帯では顔を見ながらってのはできないんだよな。


「瑠夏・・・頼みがあるんだけど。」


『なに?』


「あのさ、俺、その顔を見ながら話すために携帯を変えようと思うんだ。だけど、どれがいいのかなんて、さっぱりわかんないから、買うのつき合ってくれる?」


『・・・・・・・・・・』


 すぐには返事がなかった。


 やっぱ、そんなこと頼むの、ずうずうしかったかな?


「や、瑠夏、い・」


『明日、返事する。ごめんね。すぐにはウンって言えなくて。お母さんに携帯ショップに行っていいか聞いてみるね。』


「あっ・・・・・」


 劉生は、心の中で舌打ちした。


 そうだった。


 瑠夏は、簡単に外を出歩いてはいけないんだった。暮れの街なんて人ゴミ、瑠夏の体には悪いに決まっている。


「瑠夏、ごめん。いいよ。」


 慌てて断ろうとすると、受話器の向こうから瑠夏の怒った声が聞こえた。


『どうしてすぐ、そう言うの?私は、明日まで返事を待ってって言ったのよ?好きな人の買い物に付き合いたいって思っている私の気持ち、劉生にはわからないんだ。』


 っ!


 瑠夏の声が震えていた。


 いろんな制限があって、もどかしい思いをしているのは瑠夏自身なのに。俺は、瑠夏の気持ちも考えずに・・・・・


 ばかだ、俺。


「瑠夏・・・ごめん。俺・・・」


『いい、謝らなくて。私がこんな、』


「俺、待つから。明日、瑠夏の返事、楽しみにしてる。」


 瑠夏に、自分を否定することばを言って欲しくなかった。ちゃんとわかっているつもりだったのに。上辺だけだったんだと、自分で自分を殴りたくなった。


「瑠夏、聞いてる?明日、瑠夏の返事、待ってるから。」


『・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん。』


 わずかに耳に届くくらいの声だったが、瑠夏の返事が聞こえて、ほっとした。


「ほんと、楽しみにしてるから。」


『・・・・・・劉生、』


「ん?」


『ありがとう。』


 お礼なんか言われること、何にも言ってないのに。


 瑠夏にそう言わせた自分に、腹が立った。


 二度と、瑠夏にこんな思いなんかさせない。


 つぎに失態や失言をしたら、俺は、まじで自分をぶん殴ろうと心に誓った。






 携帯で話した翌日。


 瑠夏から、30分程度ならいいと、本橋さんに許可をもらったことがメールで届いた。


 わずかな時間だが、瑠夏とふたりきりで買い物できる。


 嬉しくて、学校の中庭でガッツポーズをとってしまった。


 そして、補習最終日、劉生は、逸る心を抑えながら校門を目指して急いでいた。


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