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五つ葉のクローバー  作者: 真桜
第2章 つながる心
26/34

やっと会えた1

この話は、書いてみたらちょっと長くなってしまいました。なので、2つに分けます。前の話でふたりが合えるまであと1話って書いたのに、すみません。

 ふたりで話していた病室に携帯のバイブ音が響いた。


 瑠夏は、キャビネットから携帯を取り出して、液晶画面の表示を見た。


 だれ?


 表示ナンバーは、登録されたものじゃなかった。


 見慣れないナンバーに怪訝な顔をしたが、とりあえず出て見ることにした。


「はい。」


『本橋瑠夏さん?』


 聞き慣れない男の人の声に警戒心が強まる。


 だれ?


 聞いたことのない声。


 切ったほうがいい?


 不安を感じて瑠夏は、携帯を耳から話そうとした。


『劉生の父ですが、こんな遅い時間に申し訳ない。』


 えっ?


 劉生のお父さん?


 瑠夏は、慌てて携帯を耳にあて直した。


「あの、もしもし、は、はい。本橋瑠夏です。こんばんは。」


『こんばんは。今、大丈夫ですか?』


「はいっ。ぜんぜん大丈夫です。」


『よかった。もう寝ているかと心配したのだが。』


「いえ、まだ起きてました。」


『瑠夏さんに謝らなければいけないんだ。』


「は?謝る・・・ですか?私は、石田さんに謝られることなんかないですけど・・・」


 石田と聞いて、悠が反応した。


 小さな声で、


「電話、石田君から?」


と訊ねた。


 瑠夏は、ゆっくり首を横にふると、まってと悠を手で制した。


 悠は、こくんと頷くと瑠夏が話しかけるまで待つことにした。


『いや、実はね、劉生、昨日帰ってきてたみたいなんだ。さっき、妻からそう聞いた。あいつは、離れにひとりで住んでいるから、普段でもめったに顔を合わせなくてね。まだ会ってはいないんだけど。申し訳ない。瑠夏さんには、劉生が帰ってきたら連絡を入れると約束していたのに、遅くなってしまった。弁解させてもらえるなら、昨日の朝から出張に出ていてさっき戻って来たばかりなんだ。』


「そんな、かえってこっちのほうが申し訳ないです。お忙しいのに連絡していただいて。でも、おじいさんからも連絡なかったですから、劉生君、まだ病院には顔を出してないんですね。」


『ああ、そのようだな。妻もそう言っていた。瑠夏さん、私が・・・いや、あいつは私には耳を貸さないだろうから、妻から病院に行くようにさせようか?』


「あっ、いえ、いいです。私、明日の朝には一時退院するんで、きっとすれ違いになります。あっ、でも、おじいさんは、きっと劉生君が来るのを待っているはずだから、おじいさんのところには行ってもらった方がいいかと。」


 泰生の低い笑い声が耳に届いた。


 笑い声は、劉生に似てる。


 電話の相手は泰生なのに、瑠夏は胸がきゅんとなった。


 劉生の声を聞いてるみたい。


 瑠夏の顔が自然にほころぶ。


『ありがあとう、父のことを思ってくれて。じゃあ、瑠夏さんが劉生に会うのは、瑠夏さんがまた病院に戻ってからでいいのかい?』


「ああ、えっと、そう・・・ですね。」


 瑠夏はことばを濁した。


 お父さんに劉生の学校で待ち伏せするなんて言えない。


『そうですか。じゃあ、こちらからは、劉生には今まで通り、父のところには見舞いに行くようにとだけ伝えておきます。』


「はい、そうして下さい。あの、」


『ん?なんですか?』


「わざわざ連絡いただいて、ありがとうございました。」


『いえ、どういたしまして。私は、瑠夏さんと話せて楽しかったですよ。』


 やっぱり、劉生の声に似てる。お父さんの声をきいていると気持ちが落ち着くみたい。


「こちらこそです。私もうれしかったです。それじゃ・・あっ、あのっ」


 瑠夏は、言うべきかどうか少し躊躇った。


『瑠夏さん?どうしたんですか?』


 泰生の声を聞いて、やぱり言おうと決めた。


「あの、少し時間いいですか?」


『ええ、大丈夫ですよ。』


「えっと、その、ですね。私・・・私とこうして話してる石田さんって、とても話しやすいです。劉生君がどうして石田さんと距離を置こうとしてるのかわからないんですけど、私には、劉生君も石田さんもどちらも同じくらい優しくてちゃんと相手のことを考えられる人だと思うです。だから・・・石田さん、劉生君と腹を割って話し合ったりできないですか?」


 しばらく沈黙が続いた。


 しまった。私、調子に乗り過ぎたんだろうか。


 いくら劉生に声が似ていて話しやすかったとはいえ、こんな親の子の関係に踏み込んだような話をしてはいけなかった。


 瑠夏は、言ってしまって後悔した。


 石田さんに謝って、もう、電話を切ろう。


 瑠夏が口を開きかけた時、電話口から泰生の声が聞こえた。


『・・・・・私が話しやすいと瑠夏さんが感じるなら、それは、私の劉生に対する偏見が少しなくなったからかもしれない。』


「・・・・・・・・・・・」


『ほんの3か月前の私なら、瑠夏さんとこうして話してなんかいなかったでしょう。それどころか、劉生のことを自分で考えるのも嫌だった。あいつのことが話題に上る時は、いつも何か問題がおこって、私が尻拭いしなければいけないような時ばかりだったから。』


「そんな、劉生・・・君は、お父さんがいうような問題児じゃないですよ。」


『妻と父以外で、劉生のことをそういうのは、瑠夏さんが初めてなんですよ。あいつの兄たちもまあ、私よりは劉生のことをわかっているようだが、普段、ふたりも劉生にはあまり会わないからね。劉生の味方は妻と父だけだった。私はふたりは、身贔屓みびいきだけで劉生を庇っていると思っていたから、瑠夏さんが劉生のことをよく思っているのを聞いて、少なからず驚いた。まあ、それ以外に劉生が普段まわりからどんなふうに思われているのかを知るきっかけがあって、それと瑠夏さんの存在が、私の劉生への評価を変えた。』


「評価だなんて。石田さんは、劉生のお父さんでしょ?父親なら、子どものこと100%信じてあげるものじゃないんですか?評価って言うなら、いつでも100点ですよ。自分の子どものことは。」


 瑠夏は思わず声を荒げていた。


『瑠夏さんのいうことは、もっともだと思います。ありがとう。劉生のことをそんなふうに思ってくれて。あいつは、いや、私とあいつとの距離は、これから少しずつ縮めていけるよう、努力します。』


「あ、いえ、すみません。生意気なこと言って。」


『今日、瑠夏さんと話せてよかった。瑠夏さん、退院したら一度、家にも遊びに来て下さい。また話をしましょう。きっと妻も瑠夏さんと話をしたがるでしょう。それじゃあ、今日はこれで。』


「はい、電話、ほんとにありがとうございました。」


 瑠夏は、携帯を耳から離した。


「今の、石田君のお父さんから?」


 待ってましたとばかりに、悠が訊ねた。


「うん、そう。劉生に会えなくなった時、劉生のおじいさんとお父さんに会って、それで劉生が今、家を出てることを知って、戻ってきたら連絡してほしいって頼んでたから。」


「事情、よくわかんないんだけど、それで、石田君のお父さん、なんて?」


「や、劉生が昨日戻ってきたって。お父さん、昨日から出張に行っていて、さっき戻ってきたことがわかったから連絡くれたって。」


「ふうん。それなら、さ。わざわざ学校でまちぶせしなくても会える方法はあるんじゃない?」


「それは、あると思うけど、でも、今度ばかりは、私が自分から劉生に会いに行きたい。そうしないと、劉生に私の気持ち伝わらないよ。それに、今からいろいろ作戦を練っても、明日のまちぶせより早くは会えないよ。きっと。」


「なるほど・・・・・じゃあさ、明日、どうするか、一緒に考えよっか。」


 悠のことばに瑠夏ははにかんで頷いた。


 さっき、会ったばかりなのに、悠に劉生と同じにおいを感じた。


 初対面でも気構えのいらない気さくさと優しさ。


 病気の再発も移植も不安だらけで憂鬱なだけだったのに、病院に入院してふたりに出会ったのは、すごくラッキーだった。


 偶然だけど、偶然じゃないふたりとの出会いを大切にしたい。


 ふたりは、消灯が過ぎてると、見回りの看護師に注意されるまで、翌日のことについて話し合った。


 でも、時間が超過して看護師に小言をもらったのは、悠の独り言のせいだと瑠夏は譲らなかった。





 翌日のお昼前、瑠夏と悠は別々に手続きを済ませた後、病院のロビーで待ち合わせた。


「じゃあ、お母さん、私、瑠夏のお母さんの車で学校に送ってもらう。学校にはお母さんから電話を入れておいてよね。」


 悠は、学校カバンを母親から受け取った。


「本橋さん、ほんとにいいんですか?うちの子はここから電車で登校させてもいいんですけど。」


 悠の母が、啓子に申し訳なさそうに話しかけた。


「構いませんよ。悠ちゃんに協力してもらっているのは、うちの瑠夏のほうです。逆にこちらがお礼を言いたいんですよ。」


「はあ・・・それじゃ、よろしくお願いします。悠。本橋さんにご迷惑にならないようにね。と・く・に、話をする時には、自分の世界にトリップしないこと。」


 悠の母のことばに瑠夏は吹き出した。


「なんで、瑠夏が吹き出すの。」


 悠が頬をふくらませて瑠夏を睨んだ。


「ごめん。悠のお母さん、悠のこと、よっく、わかってんだなって思って。」


「人を妄想人間みたいに言って。私はそんなにトリップばっかしないし。ただ、石田君が瑠夏の顔を見たらどんな表情するかなって考えるだけだもん。いつもはむっすうとして笑わない石田君がさ、瑠夏には笑うんだって聞いて。えっ、あの顔で?笑ったら、そりゃホラーみたいになっちゃんじゃないの?あの顔に傷があったらフランケンだから、フランケンが笑うって考えたら、真冬の寒さが万年氷の吹き荒れるほど極寒になるほどさっむっって・・・・」


「「悠っ」」


 瑠夏と悠の母が同時にたしなめた。


「もう、そうならないようにって、くぎをさしたばかりなのに。」


 悠の母はため息をついた。


 瑠夏と啓子は、口に手をあてて笑いを堪えた。


 悠は、むうっとした顔をして俯いた。


「じゃ、お母さん、行こう。悠も昼休みに間に合わせて学校行きたいみたいだし。」


「あっ、はい、お願いします。お昼休みに保健室と職員室に事情を話して、午後から授業が受けられるようにしたいですから。」


「それだけじゃ、ないと思うけどね。サッカー部って、昼休みは体育館で筋トレするんでしょ?」


「やっ!それは内緒っっ。」


 悠が慌てて瑠夏の口を塞いだ。


 悠の母は盛大にため息をつき、啓子はくすくす笑った。


「じゃあ、サッカー部の昼練に間に合うように行きましょうか。」


 啓子が笑いを堪えて歩き出すと、瑠夏と悠はそれに続いた。


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