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五つ葉のクローバー  作者: 真桜
第2章 つながる心
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まちぶせ

やっとふたりの距離がまた近くなります。劉生と瑠夏の接近まであと1話です。

 唖然とした顔でこっちを見る悠に瑠夏は困惑した。


 悠って、劉生のこと知ってる?


 瑠夏は、どきどきしながら悠の次のことばを待った。


 ところが、悠はぶつぶつと独り言を呟き始めた。


「いや、同姓同名かもしれないし。あの石田君だよ?ありえないって。でも、劉生って名前は、そんじょそこらに転がってないよね?じゃあ、やっぱり?・・・・ぷっ。石田君と瑠夏だなんて、ベタに美女と野獣だよ?だめだめ、ぜんぜん想像できない。だけどさ・・・この間、話しかけてきた時の石田君の意外性からしたら・・・ありえそうな気も・・・・・いやいやいや、やっぱ、ありえないって。それでもさ・・・・・・まっさかあ。あの顔でだよ?こ~んな華奢な瑠夏と?だけど、世の中意外性ってけっこうあるわけだし・・・・・」


 とうとう悠は、百面相まではじめてしまった。


 これが、渋沢君が言ってた悠の百面相か。たしかに見てて面白いけど・・・・・・

 

 このまま悠に独り言を言わせてたら、ずっと呟いていそう。


 私は、早く自分が望む答えを悠から聞きたいのに。


 もしかしたら、おじいちゃん経由でなくても劉生とつなぎを取れるかもなのに。


「悠、悠、悠っ!」


 瑠夏の怒ったような呼びかけに、悠は、ずり落ちそうになった眼鏡のままびっくり眼でこっちを見た。


「る、瑠夏ってば、いきなり大声出さないでよ。なにを考えてたか忘れちゃったよ~。」


「だって、悠ったら、いきなり独り言はじめて止まんないんだもん。」


「えっ?独り言?誰が言ってたの?」


「悠に決まってるでしょ。」


「私が~?独り言なんて言ってないよ。」


 ぶんぶんと頭をふる悠に、瑠夏は呆れた。


 自分が独り言いってる自覚ないなんて!


「もう、悠の独り言なんかどうでもいい。それより、聞きたいことがる。」


「ん?聞きたいことって、私に?」


 悠が自分を指さして聞いた。


 瑠夏は頷いた。


「ねえ悠、劉生のこと、知ってるの?」


「うっ、えっと、その・・・確認なんだけど、石田劉生って、ものすごくでかくて、目つきが、わ、悪くて?ぶっきらぼう・・・な、人?」


 そうであって欲しくないと言わんばかりに、眉間にしわを寄せて聞いてくる悠に、瑠夏は、そうだけど というように大きく頷いた。


「やっぱり・・・あの、石田君?信じらんない!あ・の・石田君だよ?3年生も卒業生も避けて通るあの・・・」


「悠っ!」


 瑠夏は、また独り言の世界に没頭しそうになる悠をけん制した。


「ふぁいっ。って、なんだっけ、瑠夏が聞きたいことって?」


 瑠夏は天を仰いだ。


 このまま悠から答えを引き出す自信がなくなりそうだ。


 ずっと、答えてもらえないまま、悠の百面相を見るなんて、冗談じゃない。


 さっさと、問いに答えてもらわないと!


「いい、悠。イエスかノーだけ言って。それ以上のことばは言っちゃダメ!」


 悠は、瑠夏の形相にこくこくと頷いた。


「石田劉生を知ってるの?」


「あ~だか・・・」


「イエス、か、ノー、だ・け・」


「うっと・・・イエス・・・」


「どういう関係?」


「どういう関係って。どういう関係もこういう関係もない関係で、ひらたく言うと・・・はて?何て言ったらいいのかな。ん~と・・・高校が・・・」


「は・る・かっ。」


 語気の強い瑠夏のことばに悠はぴっと背筋を伸ばした。


「は、はいっ。」


「なのね、落ち着いて、要点だけを言うように心がけてみよう。要点だけだよ、要点だけ!」


「要点だけね、要点だけ・・・で、石田君を知ってるよってだけでいいんだっけ?」


 はあっ


 今日、何度目のため息だろうか。


 もしかして、レントゲンやMRIではわからなかっただけで、ほんとは悠のたんこぶ、やばいんじゃないでしょうね?記憶障害になってるとか?


 そう思いそうになるくらい、悠と話がかみ合わなかった。


 だけど、私が劉生に会うチャンスをくれるのは、きっと悠なんだろうと思うと、たとえかみ合わなくても、諦めるわけにはいかなかった。


 落ち着いて。悠のペースに巻き込まれないように気をつけて話すのよ。


「悠って、もしかして劉生と同じ高校なの?」


 瑠夏は、さっきの悠の話から推理したことを口にした。


「そうだよ。石田君とは同じ高校。」


「劉生、学校に来てる?」


「え~っ、どうだろ。石田君は理系クラスで、私は文系クラスだから、教室が離れてるからわからない。」


「そう・・・・・」


 劉生、まだ家に帰ってないのかな?


 瑠夏は、がっかりした。


「あっ、でも、昨日は来てたよ。」


「ほんとっ?」


「うん。昨日の朝、今日みたいに花壇で苗を植えてたら、石田君が来て、少し話した。」


「じゃ、じゃあ、今日も来てる可能性あるよね?」


「ある・・・と思う。クリスマスで学校は冬休みに入るけど、そのあと28日までは冬季補習があって、確か石田君もそれを受けるとか言ってたから、たぶん来てるんじゃないかな。補習のスタート、今日からだから。」


「そうなんだ。じゃあ、明日も、その補習ってあるの?」


「あるよ。28日までは毎日。」


「それって、終わるの何時頃?」


「ん~と、だいたい6時くらいかな。基準点に達してなかった時には、その後も続くけど、石田君、ああみえて頭いいんだよ。いつも学年で10番以内。」


「へえ。ちょっと意外。」


 しょっちゅう家出なんかするって聞いたから、そんなに頭がいいなんて思わなかった。


「でしょ。それだけでも意外性高いのに、瑠夏とって・・・・・。ちょっと信じられない。石田君って、瑠夏には優しいの?」


「うん。優しいよ。すごく私のことわかってくれて、一緒にいると落ち着くんだ。それに劉生の傍は、とっても居心地がいい。」


 目を細めて微笑む瑠夏から、瑠夏が劉生をほんとに好きなのだとわかった。


 それじゃ、あの四つ葉のクローバー、瑠夏にあげるつもりなんだ。


 悠は、顔を真っ赤にして、押し花の作り方を聞いてきた劉生を思い浮かべて口角をあげた。






「た、高遠さん。ちょっと、いいかな?」


 これまで全然接点のなかった劉生から、突然声をかけられて、悠は、スコップで土を耕す途中でフリーズした。


 いっ、いっ、いっ、石田君がっ、なんで、私にっ?


 私ってば、自分で知らないうちにまたなんかしでかしたの?


「ごごごごご、ごっ、ごっ、ごめんなさいっ。」


 とにかく謝ろう


 わけはわかんないけど謝ろうと、悠は、鼻の頭が膝につくくらい腰を曲げた。


「ごめんって、なんで謝ってんの?高遠さん、なにも悪いことしてないのに。」


 あれ?


 やっぱり?


 そうだよね。私、石田君に睨まれる心当たりなんか、ないもの。


 でも、それじゃ、なんで私は声をかけられたの?


 とにかく、意味がわかりませんって顔をしてると、石田君は頭をかきながら口を開いた。


「あの、その、俺、高遠さんに聞きたいことがあって。」


「聞きたいこと?私に?」


 悠は、体を小さくしてかしこまってる劉生に、日頃感じていた怖さを忘れて、自然に話しかけていた。


「押し花って、すぐにつくれるかな?」


「え?押し花?」


「うん。高遠さん、園芸部だろ?毎日、花壇の手入れや水かけ頑張ってて、どの部員よりも花のことに詳しそうだから。押し花の作り方も知ってるかなと思って。」


 私が、毎日花や木の世話をしてるの、石田君が知ってるなんてびっくり。


 それに、石田君が私の名前を知ってるのも驚き。


 石田君は、そりゃあ有名だから私でも名前を知ってるけど、私はふつうの女子高校生なのに。


 ま、でも、私が毎日せっせと花壇の手入れをしてるのには、花が好きっていう他に、不純な動機もあるんだけどね。


 まさか、花壇の手入れしながらサッカー部の練習見てるなんて、誰も思わないよね。


 今日も、渋沢君、かっこいいし・・・・


「あの、高遠さん?」


 つい、いつものようにマイワールドにトリップしてしまっていた悠を劉生の声が呼びもどした。


「あっ、はい。えっと、石田君、なんでここに?」


「うっ・・・と、押し花の作り方・・・・・、高遠さん、知ってる?」


「知ってるよ。押し花作るの、最低でも10日くらいかかるけど。」


「10日?ごめん、そんなに待てないんだ。1日か2日で作れないかな?」


「えっ。そんな短い期間でなんか・・・・・まあ、もどきは、なんとかできるかな。その作りたい押し花用の花って、今から摘むの?」


「花じゃ、ないんだ。これ。」


 劉生は、雑誌にはさんである四つ葉のクローバーを見せた。


「1,2,3,4、四つ葉のクローバー?」


「うん。」


「よく見つけたね。へえ、私、見るの、はじめてだよ。」


「その、もどきで、なんとかなるかな?」


 心配そうに聞いてくる劉生に悠は笑った。


「これ、しばらく雑誌にはさんで乾燥させてたんだ。それなら、もどきなら、作れると思うよ。」


「ほんと?よかった。それじゃ、作り方教えて欲しい。」


「いいよ。一緒に来て。」


 悠は、劉生を連れて職員室に行くと、一緒に即席の押し花を作った。


「これ、即席だから、長く置いておくと色はあせてくるよ。」


「それでも、いいんだ。今は、少しでも早く仕上げて、持っていきたいから。」


「それ、だれかにあげるの?」


 悠に聞かれて、劉生は赤くなった。


「うん・・・・」


 小さく頷く劉生に、悠は、喜んでくれるといいね と笑った。






「悠?」


 呼ばれて悠は、はっと瑠夏を見た。


 四つ葉のクローバーのことは、瑠夏には内緒にしとこう。きっと、石田君、瑠夏が喜ぶのを見るの楽しみにしてるよね。


 もしかしたら、サプライズのつもりかもしれないし。


「瑠夏、石田君と仲直りしなよ。」


 悠がそういうと瑠夏は口をすぼめた。


「べつに、けんかしたわけじゃ、ないよ。でも、劉生からはきっと会いに来にくいよね。だから、私から会いに行く。」


「そうなんだ。たぶん、石田君は、自分から会いに来ようかなって思ってると思うだけど。でも、うん、瑠夏から会いに行ったら、石田君、喜ぶよ。」


「で、悠、協力して。」


「は?協力?」


「明日の朝、私を悠の学校に連れていってほしいの。学校の場所がわかったら、さっき悠が言った補習が終わる6時にもう一度、学校に行く。」


「なにしに?」


「劉生をまちぶせする。」


 瑠夏は、にっこりとほほ笑んだ。


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