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五つ葉のクローバー  作者: 真桜
第2章 つながる心
24/34

瑠夏と悠

 シャ、シャ、シャ


 少しずつカーテンが開かれて、眼鏡をかけたショートボブの顔がのぞいた。


 こちらを窺うような瞳は、眼鏡からこぼれおちそうなくらい大きくて、可愛い感じの子だ。


 さっきは、土気色した顔で目を閉じていたから、病人見たいにしか見えなかった。今は頬にも血色が戻っていてほんのりピンク色になっている。いかにも健康そう。


 血色のいい顔が、ちょっぴりうらやましい・・・・・


「あ、あの・・・?」


 おずおずとした声で呼びかけられて、瑠夏は、はっとした。


 いけない、いけない。

 

 ちょっと油断すると、すぐマイナス思考になっちゃう。


「ごめんね。私から声をかけたのに、ぼ~っとしちゃって。せっかく同じ部屋になったんだから、おしゃべりしないかなって。」


「は、はい、私でよければ・・・・」


 おずおずとした表情みると、さっき聞いた会話、ほんとにこの子?って疑っちゃう。全然おとなしめに見えるけど?


 ま、いっか。さっきの様子だと、しゃべっているうちに仲良くなれそうだし。


「私、本橋瑠夏。高2。けっこう長いこと入院してて、同い年くらいの子と話す機会、あんまないから、声かけちゃいました。」


 ちょっと茶目っ気を込めて自己紹介をすると、彼女はくしゃっと顔を崩して笑った。


「私、高遠たかとおはるか。同じく高2。たぶん今晩だけの入院だと思うんだけど、よろしくね。」


「えっと、気を悪くしないでほしいんだけど、さっき、すっごくかっこいい男の子との会話、聞いちゃった。」


 ぺろっと舌を出して肩をすくめると、悠の顔はみるみる赤くなって、ゆでダコみたいだった。


「そそそそそうなんだ。あはははははっ、じゃあ、わかってると思うけど、ちょっとドジって頭ぶつけてひっくり返ってしまったんだ。うっつ、いだっ。」


 悠は照れ隠しに頭をかいて、運悪くたんこぶをなでてしまった。


 ずきずきと痛みが後頭部から頭全体に広がり、思わず涙目になった。


「大丈夫?」


 心配そうな瑠夏の声に、悠は、あははと笑って、また、頭をかいた。


「○△#$&*□っ!っ!っ!」


 ふとんに突っ伏して身悶えする悠に瑠夏は、手を口にあてて吹き出しそうになるのを堪えた。


「あはははっ、いいよ、笑いたいの我慢しなくても。こんなドジ、いつもだから。」


 悠は、涙目で引きつり笑いを見せた。


「ごっ、ごめんっ。さっきの・・・会話を思い・・・だしてっ。」


 どうしよう。


 この子としゃべっていると、腹筋がすっごく鍛えられそう。


「あ~、えっと、さっきの会話って、私と渋沢くんとの・・・?」


「そう。彼の気持ち、わかった気がする。」


 いたずらっぽく笑ってみせると、悠は目を泳がせながら苦笑した。


「あの、高遠さん。あのかっこいい子、わざわざ病院まで付き添ってきてくれるなんて、高遠さんの彼氏?」


 たぶん違うとわかっていたが、あえて、瑠夏はそう聞いた。


「ちっ、違うよ。渋沢君は、自分が蹴ったボールが私にあたったことが原因でたんこぶできたから、責任感じて付き添ってくれただけ。」


「そう・・・なんだ?すごく自然で仲よさそうな会話してたから、てっきり・・・」


「仲、よさそうに聞こえたの・・・?」


 なんだろう?


 高遠さんの顔、困ってる・・・・ううん、つらそうに見える。


「う、うん・・・とても楽しそうな会話で、いいなあって。」


「そう・・・・・。もし、そう聞こえたなら、きっと、あれだ。渋沢君、私のお姉ちゃんとつき合ってたから。去年は、よく家にも遊びに来てたんだよ。私も何度か話したことあって。だからだよ。」


 無理して明るく言ってるって、わかっちゃう。


 高遠さんって、正直過ぎて、自分を隠すの、下手なんだ。


 瑠夏は、そんな悠を思って、無理やり明るい顔をしようとしてみた。


 だけど、瑠夏も人を欺けるほど器用ではなかった。


「あ~、そ、そうなんだ。お姉さんの彼氏・・・か。」


「・・・・・・本橋さん、いいよ、無理しなくても。きっと、ばれちゃってるんだよね。私の気持ちは。」


「えっ、う、ううん、っと、なんのこと?」


 瑠夏は、ことばに詰まりながらも誤魔化そうとした。


「・・・さっき、私と渋沢君の会話、聞いてたんでしょ?で、今の私の態度・・・、はは、自分でもわかってるんだ。きっと、私の気持ちはばれてるんだろうなって。」


 少し悲しそうな悠の眼が瑠夏を見つめる。


「ごめん・・・・・私・・・」


 好奇心から聞いては行けなかったのに、聞いてしまったことへの後悔が瑠夏を責めた。


「あ~っ、もう、湿っぽくなるの、やめよ。はっきり言ってすっきりしたい。私ね、渋沢君に片思いしてる。完全な私の一方通行なの。渋沢君、きっと、今でもお姉ちゃんのこと、好きだから。」


「だって・・・ふたりがつき合ってたの、去年のことなんでしょ?そしたら、もう、ふっきれてるかも・・・・・」


「そんなこと、ないよ。お姉ちゃんって、私よりふたつ上で、今は県外の大学に行ってるんだ。遠恋なんてありえないってお姉ちゃんの方から終わりにしたみたいだけど、お姉ちゃん、夏休みに帰って来た時、連絡とって会ってたもの。ふたりが楽しそうにデートしてたこと、クラスの友達から聞いた。だから、ふたりの仲、まだ終わってないよ。」


 悠の大きな瞳が潤んでる。


 後頭部が痛いからじゃ、ない。


 届かない想いに胸がしめつけられているからだ。


 私は・・・・・


 私の想いは・・・・・私が手を伸ばせば届くのに


「ごめんね。湿っぽくしたくないって、自分で言ったくせに、こんな話になって。」


「ううん・・・今は、片思いかもしれないけど、諦めちゃだめだよ。さっきの会話の流れからして、え~っと、渋沢君、だっけ?彼は、ぜったい、高遠さんに親近感もったはずだもの。高遠さん・・・・う~っ、悠って、呼んでいい?私、姓で呼び合うのって、なんか慣れてなくて。名前で呼びたい。悠も瑠夏って呼んでいいよ。名前、一字違いで、私も悠かに親近感、湧いたから。」


「ああ、うん、名前で呼び合うのは・・・構わないけど、あっ・・と、ありがとう・・・応援してくれて。」


 悠ははにかむように笑った。


「がんばって!絶対、悠を彼女にするほうがお得だよ。」


「ぷっ、お得って、なんか、私って特売品?」


「やっ、違うよ。掘り出し物。絶対手に入れて損しないみたいな?」


 悠が笑った。


 とってもいい笑顔。


 つられて瑠夏も笑った。


「ありがと。んじゃ、諦めずにがんばるよ。そういう、瑠夏は、そういう人、いるんじゃないの?」


「うん・・・・・いる。私にはもったいないくらい、私のこと、想ってくれてる。」


「うっわ。やぶへび?私ってあてられちゃう?」


 悠がニヤニヤしながら聞いた。


「それは・・・違う。私、彼にもう会いに来ないでって言っちゃったの。」


 悠の顔から笑みが消えた。


「なんで?けんかしたの?」


 瑠夏は首をふった。


「怖かったから。」


「怖い?」


「そう。 いつよくなるのかもわからない病気で、制限ばかりたくさんあるから。いつか彼が健康な子のほうがいいって、離れていってしまうのが怖くて、そうなるくらいなら、初めからなかったことにしようって思った。」


「そんなの、おかしいよ。彼が嫌になるかなんてわかんないじゃない。彼は、瑠夏の病気のことわかった上で、好きって言ったんじゃないの?」


 瑠夏はさみしく頷いた。


 悠のことばを心に落としこみながら、堪えていた気持ちがふつふつと表に出てきた。


「だ・・って、この病気のせいで、いろんな物、失くしたんだよ。たくさんの希望を諦めたんだよ。好きって気持ちも・・・心に何重にもカギをかけて封じ込めないと、もう、自分で自分を支えきれなくなりそうだったんだもの。」


 掛け布団を腱が強く浮き出るほど握りしめた瑠夏の手が震えた。


「瑠夏・・・・・」


「ごめん・・・悠にこんな話してもしかたないのに。完全な八つ当たりだよね。ほんと、ごめん。」


「いいよ、瑠夏。八つ当たりって大事なんだよ。ストレスが一気に減るでしょ。」


「ありがとう、悠。」


「お互いさま、お互いさま。で、ストレスついでに聞くけど、瑠夏は、その彼とさよならしたまんまでいいの?」


「はじめはね、そのつもりだった。でも、今までいた人がいないのがね、すっごくさみしくて、気がつくと探しちゃってるんだ。探して、もしかしたら会いに来てくれるかもって、期待して、なのに来てくれないんだってわかったら、辛くて、悲しくなって・・・・・もう、会えないの我慢できないって思った。」


「じゃあ、また会ってって言うつもり?」


「そのつもり。だけど、直接連絡とれないから、この病院に入院してる彼の身内の人に連絡してって、頼んだ。だけど・・・・・」


「だけど?」


「私、一時退院することになってて、明日、家に帰るの。だけど、連絡来ない。」


 瑠夏は顔を歪めた。


「そうなんだ。でも、まだ一日あるよ。きっと来るって。」


「うん。ぎりぎりまで待ってみる。」


「私もぎりぎりまで一緒にいてあげる。」


「悠・・・、ありがとう。」


「やっ、そんなあらたまれると、てれちゃう。うっ、だっだっ。」


 無意識に頭をかいて、また、たんこぶを思いっきりさわってしまった。


 瑠夏は、たまらず笑ってしまった。


 悠もつられて笑った。


「ところでさ、私の片思いの相手の名前は、瑠夏、知ってるでしょ。だったら、私も知らなきゃ、不公平だと思うんだけど。」


 悠が顔に似合わず、ダークな笑みを浮かべた。


「え~っ、じゃあ、名字だけで、いい?私、悠の好きな子、渋沢君ってしか知らないし。」


「そんなこと言わずにフルネームで教えてよお~。私も教えるから。渋沢君、名前はこうって言うんだよ。渋沢昂。かっこいいでしょ。」


「かっこいいって、自分で言う?」


「いいでしょ。瑠夏も認めたとおり、ほんとにかっこいいんだから。それより、瑠夏の相手は?」


「劉生。石田劉生って言うの。」


「はああああああ~っ!石田君だって?」


 眼鏡がずり落ちそうになるくらい驚いてあげた悠の叫び声に瑠夏は目を丸くした。


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