悠との出会い
劉生と瑠夏の親友になる悠、登場です。もっとおとなしめのキャラになる予定だったんですけど・・・・・なんか、書いてるうちに、あれ?みたいなかんじにんっちゃいました。
クリスマスまであと3日。
お母さんにお願いした猶予期間は、明日まで。
もう、会えないのかもしれない。
6階からは、何の音沙汰もない。
もう一度、自分で行って確かめるほうがいいのかな。
瑠夏は迷っていた。
劉生に会いたい。
会えないと思うといっそう会いたい気持ちが強くなる。
なんで、あの時、もう会えないって言ってしまったんだろう。
今さら後悔しても遅いのに。
瑠夏は塞ぐ気持ちを胸に膝を抱えてため息をついた。
コンコンと、ドアをノックする音が聞こえる。
劉生?
瑠夏は思わずベッドから立ち上がった。
「ごめんね、瑠夏ちゃん。今日、一日だけ、この部屋に患者さんをもうひとり入れるね。」
看護師が申し訳なさそうに笑顔を向けた。
「えっ、この部屋、個室じゃ・・・・・」
「ええ、ほんとは個室なんだけど、東病棟の外科が今朝の事故で一時満床になってしまって、救急で運ばれてきた脳震盪を起こした子を受け入れる余裕がないの。こっちの方も満床だから、困ってしまって・・・・・お母さんにはOKもらってあるんだけど、いい?」
「あ、はい・・・そう言う理由なら・・・・・」
看護師は、ホッとした顔をしてごめんと言う仕草で両手を合わせた。
「ありがとう。検査の結果では異常なしだから、今晩一晩だけの入院になると思う。よろしくね。」
そう言うと、看護師は部屋に入り、手早く瑠夏のベッドを壁際に寄せた。
「もう、いいわよ。連れてきて。」
そう言い終わると同時に、ドアが大きく開いて、自分と同じくらいの年の女の子が眠ったベッドが運び込まれた。
女の子の顔は青ざめていて、唇の色がない。
大丈夫なのかな?看護師さんは異状なかったって言ってたけど、苦しそう。
ベッドが瑠夏の反対側の壁に置かれた。
「失礼します。」
低く通る男の人の声に、瑠夏ははっとして入り口に目をやった。
長身で顔立ちの整った男の子が、瑠夏に会釈をして入ってきた。
ライトブルーのジャージを着た目元が涼やかな男の子は、きっと、壮絶なくらいもてるんだろうなと瑠夏は思った。
彼が寝ている女の子の傍に腰かけようとするのを見て、瑠夏は、躊躇いがちに声をかけた。
「あの・・・・・、カーテン、閉めてください。私よりあなたのほうが、カーテンに近いから、お願いしてもいいですか?」
「あ、ああ、はい、いいですよ。」
男の子は、窓際にあるカーテン止めをはずして、シャ~っと、一気にカーテンを閉めた。
隣のベッドとの間にカーテン一枚のうすい壁ができた。これで、少しだけど、プライベートは守れる。
瑠夏は、軽く息を吐くとベッドに横になった。
うらやましいな、あんな風に彼氏に付き添ってもらえるなんて。
瑠夏は、ふと、自分の横に座る劉生の面影を追っていた。
あの時、あんなこと言わなければ、私の傍にだって、劉生が座っていたのに・・・・・
瑠夏は、きゅっと唇をかみしめ、目を閉じた。
しばらく静寂な時が流れた。
「・・・・・・・・・・」
隣で、シーツの擦れる音がした。
「あっ、気づいた?」
呼びかける声がする。
「私、好きだな、渋沢君の声。低いのによく通ってて、いいよね。聞きやすいし。」
「あっ、ありがとう・・・俺の声、ほめてもらって。声をほめられたのなんか、初めてだよ。」
えっ、あの子、起きたと思ったら、いきなり甘々?
瑠夏は面食らった。
うわっ、もしかして、私、あてられちゃうかも。
そう思って、できるだけふたりの会話を聞かないようにと、耳を塞ぎ掛け布団の中に頭を潜り込ませたが、耳はダンボになって、少しの声も聞き逃さないようにと注意を払っていた。
私って、けっこう、野次馬根性強かったんだ。
瑠夏は、意識すればするほど隣に集中する自分に呆れながらも、意図して無視しようとするのをやめた。
こんな狭い個室の中で、聞きたくないと思ったって、どうしようもない。
「いいえぇ、どういたしまして。いいねぇ。お礼を言う声もうっとりするよ。渋沢君、声優になって吹き替えやったら、すっごい人気者になるよ。うん、私が保障する。」
ぷっと、彼が吹き出した。
「なに?なんで?そこ、笑うとこ?ここはぁ~、吹き出すんじゃなくって、『ありがとう、うれしいよ。』くらい言うべきでしょっ。」
彼女が拗ねる。
そのことばに呼応するように、くっくっと、押し殺したような笑い声がした。
「ご、ごめんっ、つい・・・。高遠さんって、意外とおもしろい人だったんだね。それに表情ありすぎ。」
「渋沢君が知ってる私がどんなキャラか知んないけど、これが私なのっ。」
「そうなんだ。わかった。わかったから、そんな、目を閉じながら百面相するの、やめてくれる?俺、笑いをこらえるの、そろそろ限界。」
「私、百面相なんかしてないしっ。これが地なんだってば。もうっ、自分の夢なのに、なんでそんなこと言われなきゃいけないわけ?」
彼が一気に吹き出した。
「わっ、悪いとは・・・思うけど・・・もう、無理。我慢できなかった。」
「もうっ、こんな夢、おわりっ。私、起きるっ!」
女の子が、がばっと起き上がる気配がした。
「わっ、だめだよ、急に起き上がっちゃ。」
慌てた彼の声。
もぞっとシーツの動く音がして、
「そう、まだ横になってた方がいい。」
と、彼は言った。
「ヘンな夢だったなぁ。渋沢君が夢に出てくれるのは全然いいんだけど、なんか言い合いしてたみたいだった。せっかく渋沢君が夢に出てきてくれたのに、もっと甘々なことになってたらよかったのに。」
「高遠さんと俺の甘々なことって、どんなんだろうね?興味あるな、俺。てか、高遠さん、目を開けても、独り言も百面相もやめないんだね。」
「失礼ねぇ。だれ?ひとの事、独り言激しすぎだの、百面相しすぎだのって。夢の中でそう言ったのは渋沢君だったから許すけど、あんたは・・・・」
え?
何か、ふたりの話、かみ合ってない?
瑠夏が眉をひそめていると、彼女が叫んだ。
「しっ、渋沢君っ!」
また彼女の起き上がる気配がした。
「急に起き上がったら、だめだってば。保健室の時みたいに、また気を失っちゃうよ。まだ寝てなきゃ。」
「まだ・・・夢・・・?そ、そうだよね。渋沢君が私の傍にいるなんて、ありえないし。それにしても今日の夢は、すっごくリアル。いつもはうっすらぼんやりとした渋沢君の顔なのに、今日は、写真みたいにくっきりピントが合ってて、渋沢君の手のぬくもりまで感じられる。夢みたい・・・・・・って、夢なんだよね。ほんとだったらよかったのに。いやいやいや!ほんとだったら困るでしょ。あんな言いたいことべらべらとしゃべって。ウン、夢でよかったんだよ。」
ん?
やっぱり、おかしい。
やたら夢って連発してる。
もしかして、付き添っている男の子、彼じゃないの?
あの子、自分が妄想の中で話してるって思ってるの?
「夢じゃないって。俺、正真正銘の渋沢だけど?」
彼がくすりと笑う。
「んなわけないでしょ。だって、なんで渋沢君が私と一緒にいるわけ?こんなオイシイこと、夢以外にあるわけないって。」
「ふう~ん。じゃあ、俺、高遠さんの夢にはけっこう普通に出演してるの?」
「そうそ・・・って!」
「本・・・物?」
隣で女の子が声を詰まらせていた。
少し間をおいて、女の子が奇妙な声をあげた。
「あだっっ。」
「た、高遠さん、なにもそんな思い切りほっぺをつねらなくったって。」
現実だって確かめたくて頬をつねったんだ、あの子。
瑠夏は、口に手をあてて笑いを堪えた。
彼じゃないけど、私も吹き出しそう・・・・・
瑠夏は、すっかり隣でのやり取りに夢中になっていた。
「やっぱり・・・本・・・物・・・?」
「俺が、夢か本物かってこと聞いてんなら、俺は本物だよ。さっきからそう言ってるだろ?」
「なっ、なんでっ?なんで渋沢君のドアップを私は見てんの?ここ、保健室?まさか、自分の家?んなわけないよね、薄桃色のカーテンなんか家にないし。渋沢君も・・・残念だけど、今の我が家にはいないし。」
「はずれ。どれも違うよ。保健室でもないし、高遠さんの家でもない。ここは病院。高遠さん、保健室で気を失ってしまったから、俺と赤西先生で病院に連れてきたんだ。それにしても、高遠さん、ほんと、独り言、好きだね。」
彼が愉快そうに笑った。つられてこっちまで声を出しそうになった。
「あ、あの・・・病院にいるって・・・わ、私、どうしちゃったんだっけ?てか、その・・・渋沢君・・・顔が近すぎて・・・・・そそそそそれに・・・うううううう腕・・・はな、離して・・・・下さい。も、もう、勝手に起き上がったり・・しないから。」
「あれ?なんか、さっきまでの高遠さんの勢い、なくなっちゃった?残念。さっきの方がよかったのに。・・・・・・・高遠さん、ほんとに覚えてないの?ぜんぜん?」
「やっ、全然覚えてないわけじゃない・・・よ?渋沢君の蹴ったボールを鼻でキャッチしたあと、ひっくり返って花壇に後頭部ぶっつけて・・・渋沢君に・・・・・・・」
「俺に?なに?」
「渋沢君に、おっ、おっ、おっ、お姫様だっこ/////////////されて・・・ほっ、保健室に・・・行って・・・、赤西先生に・・・たんこぶ診てもらったまでは・・・覚・・・えてる。」
「ああ、じゃあ、気を失うまでのことはちゃんと覚えているんだね。保健室で高遠さん、急に立ち上がろうとして気を失ったんだよ。気を失うくらい強く後頭部をぶつけたんだって、俺も赤西先生も思って、それで、急いで高遠さんを病院に運んだんだ。病院についてからすぐにMRIの検査をして、それからこの部屋に運ばれた。今、赤西先生が検査の結果が出たかどうか聞きに行ってる。検査の結果がどうあれ、高遠さん、今日一日入院だって。」
「にゅっ、入院なんて大げさなこと・・・大丈夫だよっ。私の頭、石よりも固いから。きっと、割れたのは私の頭じゃなくって、花壇のレンガのほうだって。そうだっ、花壇っ。まだペチュニアの苗を植えている途中だったのに、私が頭ぶつけて壊しちゃったかも。うわっ。修理しなくちゃいけないかな?それより、植えそこなった苗、どうなった?じゃないっ、花壇の修理っ、どうしようっ。花壇のレンガに勝ってしまうって、私の石頭どうよ?」
ぷっ、くっくっくっ・・・・
瑠夏は思わず吹き出した。
吹き出して慌てた。
やばっ。隣に変に思われる。
だけど、そんな心配はいらなかったようだ。
隣では、瑠夏が笑ったのと同時に、彼が盛大に吹き出していた。
私の笑い声、彼の声に消されたんだ。よかった・・・・・
「ごっ、ごめ・・・んっ。笑っ・・ちゃいけない・・・って思っ・・てる、け、ど・・・」
彼は、おそらく口を抑えて笑いを堪えてる・・・・・
「・・・・・私・・・そんなにツボること、言った?」
消え入りそうな彼女の声がした。
気持ちは、わかるなぁ。
慌ててしまって、どんどん会話がどつぼにはまってしまうこと、私もよくあったもの。
瑠夏は、隣にいる女の子に一気に親近感を持った。
「いや言ったっていうか、高遠さんの表情?もろツボった。最高!俺、高遠さんの百面相、クセになりそう。」
「・・・・・・・・・・・」
さっきまで大騒ぎしてたのが嘘のように、隣が静まり返った。
あ~あ、あの子、自己嫌悪に陥ってるんだ。かわいそうに。
瑠夏は、ちょっぴり彼女に同情した。
「ごめん、怒った?」
なだめるような彼の優しい声が聞こえたが、彼女の声は聞こえなかった。
沈黙が続く。
あの子、大丈夫かなあ。
好きな人に、自分は恋愛の対象に見られてないって思ったんじゃないかな。
瑠夏は、沈黙の中に彼女の戸惑いと悲しみを感じ取って切なかった。
しばらくすると、彼と一緒に付き添ってきたらしい先生が入ってきて、検査の結果を伝えた。
先生のほうは用事があるからと先になったが、彼は、彼女の母親が来るまで付き添っていた。
彼女の母親が来るまで、最初の面白い会話が嘘のように、静かな会話が続けられていた。
彼が去り、しばらく付き添っていた母親も病室を後にすると、部屋の中には瑠夏と彼女だけになった。
瑠夏は、思い切ってカーテンの向こうに声をかけた。
「あの、少し話さない?」