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五つ葉のクローバー  作者: 真桜
第2章 つながる心
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さよならは言わない

やっと、みつけました。

 これで最後、と思っていた一か所をしつこいくらいに見渡し、ゆっくりと探し終えた劉生は、諦めを覚悟したため息を吐くと、立ちあがった。


「・・・・・哲郎さん、もう、いいです。もう、じゅうぶん探しました。ここは・・・諦めましょう。」


 さみしく笑う劉生に哲郎はなにも言えなかった。


 先に車に乗ると、ハンドルに額を乗せて劉生の来るのを待った。


 くそっ


 あんなに必死に探してるやつに、幸運の女神は微笑まないのか。あいつのひたむきさを認めてはくれないのか。


 見つからない悔しさと力になれなかった自分の歯がゆさとがないまぜになって、哲郎の胸を乱した。


 劉生は、重い足をひきずって車へと歩みをすすめた。


 ここまで来たのを無駄足だとは思いたくない。明日また、探そう。


 そう自分に言い聞かせた。ヘッドライトが劉生の歩く道を照らしてくれたので、漆黒の闇の中、劉生は危なげなく車までたどり着いた。


 劉生が助手席にまわる前に、もう一度、今日一日探した場所を見渡した。


 暗闇の中、ヘッドライトが照らす明かりを手がかりに原っぱから田んぼの方までぼんやりと輪郭を辿る。


 12月の宵闇の風は、たとえ沖縄といえども冷えたが、劉生はそれを心地いいと感じた。


 ここで四つ葉のクローバーを探したことは絶対忘れない。


 全くの見ず知らずの俺に力を貸してくれた哲郎さんと道昭さんとの思い出の場所だ。探し物は見つからなかったけど、ここまで来れたことに悔いはない。


 思い出の場所を眼に焼き付け、助手席に乗り込むためにボンネットをまわりこもうとした時、ふと、ヘッドライトの先にきらっと光るものが目に入った。


 なんだ?


 ガラスか?


 っ!


 えっ


 ちょっ・・・まてっ


 見間違い?


 いや、あれは・・・・・


「劉生、どうした?」


 がざっと人の動く気配と遠ざかる足音に驚いて哲郎がハンドルから顔をあげると、劉生がヘッドライトの明かりの先に屈みこんでいた。


 哲郎は何事か起ったのかと、慌てて運転席を飛び出した。


「あった!あったよ、哲郎さん!」


 劉生が声を張り上げた。


「ほんとかっ!」


 哲郎は劉生のところへ駆け寄った。


 傍に来た哲郎に劉生は、そっと両手を広げて見せた。


 劉生の手の中に四つ葉のクローバーがおさまっていた。


「ほんとだ。四つ葉のクローバーだ。やったな、劉生。よかったな。」


 哲郎は劉生の背中を強くたたくと肩を組んで喜んだ。


「哲郎さん・・・ありがとう・・・・・お、れ、ひ・・と・・りじゃ・・さが、せ、なかっ・・・」


 劉生の声がくぐもり、さいごまでことばを継げなかった。


「劉生・・・・・」


 哲郎は、空を仰いで落ちそうになる涙を堪えた。


 ふたりはしばらくなにも言わず立ちつくしていた。


 雲間から闇夜を照らすように月が顔を覗かせ、原っぱをほんのりと明るく照らした。やさしい風に乗って木々の葉ずれの音が届く。


 シロツメクサの葉が淡い月の光に照らされ風に誘われ揺れていた。






「四つ葉のクローバーはちゃんと持ったか?」


 空港の出発ロビーで哲郎が聞いた。


「はい、しっかりとこの本にはさんでますよ。さっきも確かめました。」


 劉生は、笑って四つ葉のクローバーを挟んである雑誌をふたりに見せた。


「それ、押し花にして、それからブックエンドか何かにするんだろ。やり方わかるか?たったひとつしかない、貴重なものなんだから、慎重にやれよ。」


 心配そうに言う道昭さんに劉生は笑って頷いた。


「大丈夫です。こういうのに詳しそうな人に聞いてやりますから。」


 そうか と、道昭は微笑んだ。


「哲郎さん、道昭さん、ほんとにお世話になりました。」


 劉生は深々と頭を下げた。


「よせよ。こっちは大きなお世話だって断られたのを無理やり手伝ったんだ。礼を言われる筋合いはないよ。」


 軽口をたたく哲郎に劉生は頭をかいた。


「うっ、それは言わないでください。あの時は、生意気言って申し訳なかったって思ってんですから。」


「哲郎、あんまりこいつをいじめるな。こいつにとっては、四つ葉のクローバーが見つかったのは、単なるきっかけづくりができたにすぎないんだから。これからだろ、お前の本番は。」


 肩に置かれた道昭の手に力がこもる。


「はい、俺、ちゃんと目的を果たして見せます。」


 劉生が力強く頷くと、道昭は、劉生の肩から手を放し、かわりに哲郎の首に腕を巻きつけた。


「こいつも、お前に勇気をもらったからな。後を追わせる。決心ついただろ、哲郎?」


「み、道昭さん・・・。」


 思いがけない道昭のことばに哲郎はことばを詰まらせた。


「探しに行け、哲郎。お前はまだ、あの時から立ち止まったまんまだ。後悔してるんだろう?諦めきれないんだろう?だったら行けよ。旅資金を貯めてるの、知らないとでも思ってんのか。もう、じゅうぶん貯まったろ。おまえに足りないのは勇気だけだった。その勇気、こいつからもらっただろ。」


「・・・・・・・・・」


 苦しそうに顔を歪める哲郎に劉生は手を差し出した。


「哲郎さん、彼女を探しに行くって、俺とも約束して下さい。」


「劉生・・・・」


 躊躇う哲郎の手を無理やり掴むとぐっと力を込めて握った。


「約束して下さい。そして、必ず結果を教えてください。俺も、ちゃんと連絡入れますから。」


「よし、俺がおまえたちの連絡先になってやる。必ずふたりとも俺に連絡を入れてろ。いいな?」


 ふたりの肩に手を置いて道昭が言った。


 劉生は、すぐに頷いた。哲郎は、躊躇うように目を泳がせたが、小さくため息を吐いた後、ぐっと顔をあげ、そして頷いた。


 アナウンスが搭乗の案内を告げた。


 劉生は、カバンを持つとふたりにもう一度頭を下げた。


「さよならは言いません。また、ふたりには会いたいです。かならずもう一度ここに来ます。」


「ああ、待っている。かならず来いよ。今度は四つ葉のクローバーの君と一緒にな。」


 道昭が笑った。


「俺も・・・きっとここに戻ってくる。また会おうな、劉生。」


「はい、必ず。」


 劉生は、ふたりに別れを告げると、搭乗手続き口へと向かった。


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