疲れます
「おいおい。辛気くさい顔をして、疲れたなんて言うもんじゃないよ。疲れた。疲れた。そんな風に口にするから、余計に疲れるんだよ。いや、疲れたように感じるんだよ。何? 忙しかった? 忙殺された? だから疲れただって? 馬鹿だな。そこは、エキサイティングだったとでも言っておくべきだよ。何? へとへとだって。くたくただって? だから、いい風に考えろよ。疲れたってことは、やることが沢山あったってことだろ? はぁ。とか、気のない返事をしているようじゃダメだな。だからな。やることがいっぱいあったってことは、言い換えれば充実していた。という訳だ。実入りの少ない仕事だったとか、嘆いているだけ損だよ。そこでそんな風に考えるから、疲れたなんて言葉出るんだよ。だがな。実りはなくても、お前は色々と経験した訳だ。多くの問題を乗り越えた訳だ。だからこう言い換えみればどうだって言ってるんだ――エキサイティングだったとかさ。良い経験をしたように表現するんだよ。疲れたなんて言わないで、その状況を良いものだった。楽しんだと、前向きに捉えるんだよ。ポジティブですねって? そうだよ。ポジティブに考えればいいんだよ。ポジティブなんかに考えられない? 昼飯すら食べ損ねただって? それだったら一食分食費が浮いたと思っておけよ。だいたいお前はな、悪い風に考え過ぎなんだよ。本来の仕事ができなくって、周囲の雑務に追われたって? いいじゃないか。いつかはしなくちゃならない、用事だったんだろ? どんなに些細なことでもな。実りはなくとも、種は蒔いた訳だ。それにこんな日も経験しておけば、次は同じような目に遭っても大丈夫という訳だ。それとも何か? お前は一日何かを経験しても、何も得ることができないような人間か? 違うだろ? 今日の体験を将来に生かし、自分という人間の人生をより豊かなものにする為には、必要な経験だったと考えるんだよ。社会で仕事とをしていれば理不尽なことの一つや二ついくらでもあるさ。俺の若い頃なんか、こんなもんじゃなかったぞ。今の奴は恵まれているんだ。それが分かっていない。だから少しでも雑務に忙殺されたりすると、疲れたなんて不平を漏らす。いや、そもそもこの程度の仕事で、疲れたとか思う方がおかしい。いやいや、疲れる程仕事ができることに喜びを感じるぐらいでないといけない。疲れこそが日々の充実の証のようなもんだ。一日の疲れを背負って風呂に入り、ぐっすりと一晩寝る。それぐらいが次の日のを朝を迎えるのには丁度いいんだ。心身ともに満ち足りた毎日を送る為には、むしろこのへとへとに疲れるぐらいの状況が必要だと思わないか? 俺は少なくとも思うね。お前もいつか分かってくれると思うけどさ。お前は俺の若い頃に似ているから、ついつい色々と期待してしまうんだよ。そのことでお前には余計な負担が増えているかもしれないな。だがその状況を疲れたなどと言わずに、前向きに捉えて欲しい。俺はお前を買ってるんだ。疲れたなんて、後ろ向きなことは簡単に口にして欲しくないな。まあ、長くなったが、何が言いたいかと言うと、俺はお前を信じているって話だ。だから疲れたなんて言うな。な。分かるだろ。俺の言いたいことは。俺は悪いことは言ってないつもりだけど、どう捉えるかはお前しだいだ。年寄りのたわ言だと思って聞き流してくれても構わない。だが、どっか心の片隅に引っかかるものがあれば良いなと俺なんか思う訳だ。実際ところどうだ。俺の話をどう思う? 何? エキサイティングだったって? そうか。そうか」