婚約者に「顔が好みじゃない」と言われ続けた私ですが、今度こそ愛してくれる人と幸せになります。
カレンシアは誇り高き女性だ。
名門バルト公爵家の娘で、幼いころからオッドリーニ・レンデ公爵令息と婚約することが決められていた。
だから、オッドリーニとは幼馴染である。
何かと両家の交流の時にカレンシアはレンデ公爵家に連れられて行き、家族ぐるみの交流をしてきた。
オッドリーニは金髪碧眼の美男だ。
彼はカレンシアとの婚約を不満に思っていた。
「いくら貴族の責務とはいえ、私はお前との婚約を不満に思っている」
顔を合わせる度にそう言うのだ。
「どこが不満と思っているのですか?」
「顔だ。お前はきつい顔立ちをしている。お前の顔を毎日見て過ごすのかと思うと憂鬱でたまらない」
顔と言われても、確かにきつい顔立ちをしているとカレンシアは思っている。
オッドリーニと同じ金髪碧眼のカレンシア。
美人だとは言われるが……
オッドリーニにそう言われ続けて、悲しかった。
どうしてなんで?顔なんて変えられないわよ。
なのに、顔がきつい?
酷いわ。
泣きたくなる。
しかし、オッドリーニの母であるレンデ公爵夫人には可愛がられ、オッドリーニの妹フレイシアには凄くなつかれていた。
レンデ公爵夫人はカレンシアに対して、
「息子は良く叱っておきますから、本当に申し訳ないわね」
と、手縫いの花の刺繍を入れたハンカチや、可愛い小さな赤い宝石のついたチャームをくれたり、流行の店で取り寄せた焼き菓子をプレゼントしてくれたり、気を使ってくれた。
オッドリーニの妹フレイシアも、目をキラキラさせて、
「カレンシア様がわたくしのお義姉様になるだなんて凄く嬉しいわ。いつもお話をするのが楽しくて。王立学園の事を沢山聞かせて下さるかしら」
カレンシアは幼い頃に母を亡くしている。父バルト公爵に連れられてレンデ公爵家に来るのだ。兄は学業が忙しいと共に来ることは無かった。
だから、優しいレンデ公爵夫人が自分の母親みたいで。
フレイシアが自分の妹みたいで、レンデ公爵家に来るのがとても楽しみに感じていた。
だが肝心の婚約者のオッドリーニは、何度、レンデ公爵や公爵夫人に注意されても、カレンシアに対しての態度は冷たくて。
「私はカレンシアと結婚したくありません。失礼します」
と、カレンシアを無視して自分の部屋に行ってしまう。
王立学園で同じクラスなのだが、カレンシアを無視して、話しかけもしない。
二人が幼いころからの婚約者だとクラスでも知れ渡っているが、仲が悪いという事も知れ渡っているので、カレンシアとしては恥ずかしかった。
オッドリーニの事なんて好きでもなんでもない。
初対面で会った時だけ、この子と結婚するんだわ。と胸がときめいたけれども。
オッドリーニに、
「私は嫌です。私はこの女が好みのタイプじゃない」
と、言われて恋心が最初から砕け散ったのだ。
だが、両家で取り決められていた婚約。
二人が嫌だと言っても解消することが出来ない。
特にレンデ公爵家は必死だった。
何故なら、カレンシアの母は王家の王女だったからだ。
王家の血筋を取り込むことが出来る。
それは、レンデ公爵家にとってとても誇らしい事だった。
でも、わたくしは嫌‥‥オッドリーニと結婚したくない。
最近、オッドリーニは親しい令嬢がいるみたいで、よくその令嬢と仲良く中庭で話をしているのを見かけた。
不貞しているの?それなら、婚約破棄も出来る。証拠を掴めば。
でも、レンデ公爵夫人やフレイシアがいつも自分に親切にしてくれるので、決心がつかなかった。
カレンシアが悩んでいると、とある日、フレイシアがバルト公爵家を訪ねて来た。
真剣な顔でカレンシアに向かって、
「わたくし、リセル様にお会いしたいのです」
「お兄様に?」
「婚約破棄をしたとお聞きして」
兄リセルは派閥の伯爵令嬢と婚約をしていた。
だがその伯爵令嬢が浮気をしていたので、婚約破棄をしたのだ。
フレイシアは真剣な顔で、
「わたくしをリセル様の婚約者に如何でしょう。幸い、わたくしはまだ婚約者がおりません。リセル様とわたくし、婚約を結びたいと思っております」
14歳のフレイシアが真剣な眼差しで頼んでくるのに、カレンシアは慌てたように、
「両家の当主が決める事ですわ。わたくしに言われても」
「兄には付き合っている人がいるのでしょう?カレンシア様という婚約者がいるのに。このままでは不貞としてカレンシア様から婚約破棄をされてしまいます。わ、わたくしとリセル様が結婚してその子の一人をレンデ公爵家の後継にしたら王家の血筋を取り込めるのではないかと。父の悲願も叶いますわ」
「そうね。レンデ公爵家はここ最近、王家の血筋と婚姻を結んでいない。だから、わたくしがオッドリーニ様の婚約者にという話があったのだけれども。でも、オッドリーニ様はわたくしを嫌っているわ」
「兄は解っていないのです。兄が付き合っているのは下位貴族の令嬢。そんな令嬢を我が公爵家に迎える事を父は許さないでしょう。そもそも、愛人なんてカレンシア様は許さないですわ。そうでしょう?」
「ええ、愛人なんて許しませんわ。いくら愛されていないとはいえ。わたくし、お飾りの妻なんてごめんですもの。レンデ公爵夫人や貴方との交流はとても楽しくて。でも、オッドリーニ様の妻になるのは嫌」
「ですからわたくしリセル様と結婚をしたいのです。でも、そうなったらカレンシア様は……」
「オッドリーニ様と婚約解消するわ。いえ、不貞を働いているのなら婚約破棄ね。わたくしの先行きは心配しないで。もし、貴方がこちらに嫁ぐ事になったら、色々と助けてあげるわ」
「いいのですか?」
「お父様に頼んでわたくし、しばらく置いて貰います。まずはお父様達を説得しないと。それからお兄様。お父様達と本人を差し置いて勝手に決められないわ」
14歳のフレイシアのしっかりした考えに感心した。
フレイシアに聞いてみる。
「お兄様との婚約話は貴方が考えたの?」
「いえ、お父様とお母様が話しているのを立ち聞きしてしまいました。だから一足早く、お願いにあがったのです。その、わたくし、リセル様の事が一目見た時から憧れていて」
「えええ?お兄様は取り立てて美男という訳では」
「でも、転んだわたくしを助けてくれた事があって……」
「そうだったの?恋ってそんなものかしら」
「わたくしの初恋でしたわ。だから思いきって」
「まぁ‥‥‥」
羨ましく思った。頬を染めるフレイシア。
自分もこんな恋がしたかった……
両家で話し合いが行われた。
父バルト公爵は、
「オッドリーニの態度にはイラついていた。うちとしてはそちらのフレイシアが婚約者となり嫁いできてくれるのは賛成だ」
本人リセルも、
「私は婚約破棄をしたばかりの身だ。フレイシア嬢とは5歳、歳が離れているが……貴族の結婚にあり得ない歳ではないから。私としては構わない」
オッドリーニが慌てて、
「私はどうなるのです?」
レンデ公爵が、
「お前は嫌なのだろう?カレンシア嬢との婚約は解消とする。幸い、不貞にまでは至っていなかった。だが、これまでのカレンシア嬢に対するお前の態度は婚約者としてあり得ない。リセルとフレイシアの産んだ子を一人、こちらの跡継ぎに貰えば王家の血を取り込むことが出来る。お前は好きに生きるがいい。私はまだまだ現役で頑張らないとな」
レンデ公爵夫人も、
「そうよ。アレほど、貴族の結婚に自覚を持ちなさいと言ったのに。貴方がいけないのよ。ああ、カレンシア。貴方がわたくしの娘にならない事は寂しいわ」
カレンシアは頷いて、
「わたくしもオッドリーニ様との結婚は嫌でしたけれども、公爵夫人の娘になれないことは寂しいですわ」
オッドリーニが慌てたように、
「いやそのあの、どうか婚約はこのまま続けて欲しい。私は嫡男だ。レンデ公爵家を継ぐのは私だ」
レンデ公爵は首を振って、
「お前は廃籍だ。もう何年も言い聞かせてきた。だがお前はまったく言う事を聞かなかった。フレイシアの子に期待するから、とっとと出ていくがいい」
オッドリーニは泣きそうになって、
「出て行けばいいって、出て行ったって私は生きていけません」
「お前にはいつも言っていたはずだ。レンデ公爵家の息子として自覚を持てと」
「でも、私は……結婚位、好きな人としたかった。王家の血筋を押し付けられる人生も嫌だったし。カレンシアは顔がきつくて好みじゃなかったし」
カレンシアは怒りが湧いた。
好きな人としたかったですって?
わたくしの顔が好みじゃないからってあの態度。
愛されていなかったのは知っていたけれども、あまりじゃない。
乙女心だってあるのよ。わたくしにだって。
最初からの拒絶。愛される可能性を潰した態度。
酷い。酷すぎる。
でも、わたくしは貴族。王家の血を引いた栄えあるバルト公爵家の娘として、泣く事は許されない。
オッドリーニの顔に扇を叩きつけて、
「婚約破棄を致します。ただし、これから兄が縁を結ぶレンデ公爵家に慰謝料は請求致しません。二度とわたくしの前に現れないで下さいませ」
涙が零れる。
泣きたくなんてなかったのに。
フレイシアが後ろから抱きしめてくれた。
「カレンシア様。兄が申し訳ございません」
レンデ公爵夫人も抱き締めてくれて。
「貴方とは親子になれなかったけれども……わたくしをお母様だと思って、これからも交流して頂戴ね」
レンデ公爵がオッドリーニを廊下に追い出して、
「お前は確かに一人では生きていけないだろう。我が知り合いの商家に紹介状を書いてある。そこに行って平民として生きるがいい。貴族の責務を放棄したお前にはふさわしい場所だ」
オッドリーニは泣き叫んだが、少ない荷物と共に家を追い出された。
カレンシアは悲しかった。
最初から愛されていない事は解っていた。
でも、それでも‥‥‥いつか愛して貰える。
女ですもの。ついそう期待してしまって。
顔が好みじゃないって言われていたのに。
でも、わたくしも甘いわね。
貴族の婚約に愛を求めてしまうだなんて。
これからは二度と、愛を求めはしないわ。
兄リセルとフレイシアが婚約を結んだ。
フレイシアが頻繁にバルト公爵家に顔を出しに来る。
兄との交流を邪魔しないようにしながら、カレンシアはバルト公爵家の事を色々と教えていく。
とある日、王宮の図書館に調べ物をしに行ったら、一人の男性に声をかけられた。
「カレンシア・バルト公爵令嬢殿。下位貴族の私から声をかけるご無礼をお許し下さい。私はレイド・キャスル。キャスル伯爵家の嫡男です」
「キャスル伯爵家……」
「優秀な貴方に力をお借りしたくて」
キャスル伯爵家はやらかした家として今や有名である。
そこの令嬢が殺人未遂を犯したのだ。
カルディウス公爵家という有名な公爵家の婚約者の令嬢を嫉妬のあまり階段から突き落とした。
その令嬢は運よく助かったけれども、カルディウス公爵家は烈火のごとく怒って。
キャスル伯爵家は自領の鉱山3つを渡してカルディウス公爵家に許しを請うた。
被害にあった令嬢の伯爵家にも慰謝料を払った。
その事件の事はカレンシアも噂で知っている。
そのやらかした家の令息が何の用なのだ?
「我がキャスル伯爵家の領地経営は苦しくて。私はどうしたらよいか。今、両親が寝込んでしまって、私が奮闘中です。それに鉱山を三つ差し出したカルディウス公爵家の妨害がまだ続いていて。」
真剣なレイドの願いを放っておくことは出来なかった。
カレンシアは立ち上がって、
「領地経営の詳細を教えて頂戴。我が公爵家からも人を派遣しますわ。カルディウス公爵家。わたくしが話をつけます。いいですわね」
カルディウス公爵家の嫡男、ラントスとはまったく知らない仲ではない。
高位貴族の集まりで話をした事もあったのだ。
ただ、油断のならない男。
そんな印象である。
そのカルディウス公爵家を怒らせたキャスル伯爵家。
カレンシアはラントスに面会を求める事にした。
カルディウス公爵家の客間に通されるカレンシア。
ラントスはカレンシアと会ってくれるという。
カレンシアはラントスに向かって、
「キャスル伯爵家に妨害をしていません?鉱山を3つせしめたのでしょう。でしたら、もう勘弁して差し上げたら如何。ラントス様」
「久しぶりに会ったと思ったらカレンシア。君は婚約破棄をしたんだって?君みたいなきつい女性ならあり得る事か」
「はぁ?顔はきついと言われますけれども。わたくしは性格はとても優しいと言われますのよ。きついのはラントス様のほうでは?」
「ふふん。こんな私でも婚約者が出来たのだ。アメディアナ・バレン伯爵令嬢。可憐な雨を操る令嬢だ」
「まぁ、ラントス様の本性をご存じないのね。お気の毒に」
「そんな口が悪いから、婚約者に愛されないんだ。当然だな」
当然ですって???
酷い酷い酷い……
わたくしだって愛されたかったの。愛されたかったのよ。
涙が零れる。
慌てたようにラントスが。
「悪かった。そうだ。そこの後ろにいるキャスル伯爵令息」
レイドが着いてきたのだ。
ただ、あまりにも存在感が薄かったものだから。
レイドはカレンシアの隣で、ただただ、黙って二人のやりとりを見ていた。
ラントスはレイドに、
「どうだ?カレンシアは今、婚約者がいない。お前が相手になってやればいい」
レイドは慌てたように、
「我が伯爵家なんて、カレンシア様のバルト公爵家に旨味もなにもありません」
「それなら、鉱山を返してやろう。いや、共同経営にすればいい。我がカルディウス公爵家とバルト公爵家、キャスル伯爵家とで。まだまだ掘れるだろう?あそこの山は深い。その利益で伯爵家を建て直せ」
カレンシアは、
「嫌がらせは止めて頂けますの?キャスル伯爵家に対して」
「していないぞ」
「え?」
レイドは慌てたように、
「我が荷が盗まれるのです。領内に入る前に。それは公爵家の仕業では?」
ラントスは否定して、
「それは違うな。しっかりと調べるがいい。まぁ当主抜きで進める話ではないだろう。それぞれ三家で色々と話し合いをせねばな」
ラントスの元から出て、カレンシアはレイドと顔を見合わせた。
鉱山の利益を分配。悪い話ではないけれども、用はキャスル伯爵家の建て直しに、カレンシアに責任をとれとラントスは言っているのだ。
押し付けられた。
レイドに向かって、
「解りましたわ。わたくしが責任を持って、キャスル伯爵家の建て直しに協力致します。貴方との婚約をするかどうかは、それから考えますわ」
レイドは頭を下げて、
「申し訳ございません」
その後、当主同士の話し合いになって、カレンシアはキャスル伯爵家の建て直しに協力することになった。
問題を起こしたキャスル伯爵家。
でも、レイドの人となりを知るにつれ、好感が持てるようになった。
彼は伯爵領の為に必死に働いている。伯爵夫妻があまり頼りにならないので。
彼が責任を持って色々と交渉し、建て直す為に動いているのだ。
カレンシアも同行して、色々と手伝って。
鉱山から採れた宝石を腕の良い職人に加工してもらいアクセサリーにして、それをバルト公爵家で買い上げ、レンデ公爵夫人やフレイシアに着けて貰って、キャスル伯爵家の宝石の良さを広めて貰った。
荷物が盗まれた件も解決した。隣の領の伯爵家がキャスル伯爵家の弱みに付け込んで、荷物を盗んでいたのだ。しっかりと証拠を押さえてバルト公爵家の名で慰謝料をキャスル伯爵家に払うように命じて支払われた。
レイドととある日、キャスル伯爵家で書類の整理をする。
レイドがぽつりと、灯りの下で書類を見ながら、
「私は妹を救えなかった。私の妹は罪を犯したんです。カルディウス公爵家の婚約者の令嬢を階段から突き落として殺そうとした。我が伯爵家を守る為に、妹は今、領地の片隅の屋敷で喉を焼かれ、足を折られて、死人のような生活をしています。そうなる前に、私は妹の考えを改める事が出来なかったのか。妹は同性のその伯爵令嬢に嫉妬をしていたそうです。嫉妬をして、殺意を持って……幼い頃は可愛かったんですよ。妹も。でも……あんな風になってしまって」
「苦しんでいるのですね」
「酷い妹でも身内ですから」
「わたくしは……婚約者だったオッドリーニ様に愛されなくて、ずっとずっと愛されなくてとても寂しかったのですわ。それが心の傷になってしまって。一生、人を愛せないのではないかと」
「でも、貴方はレンデ公爵夫人やレンデ公爵令嬢と共に居る時は笑っていらっしゃる」
「ええ。兄や父と過ごす時よりも、楽しくて。本当の母や妹みたいに愛しくて」
「異性への愛とは違いますが、貴方は人を愛しているではありませんか。その関係を大切にしたらよいかと思います」
「わたくしの心に愛があると?」
「できれば、男性を再び愛せると良いですね」
「貴方はわたくしを愛して下さらないの?」
「貴方は私にはもったいないです。こんなに力になって貰えて、ものすごく有難くて。でも、私にはもったいない人です」
「これからもキャスル伯爵家の為に尽くしたいわ」
レイドが目を見開いた。
この時のレイドの顔は一生忘れられないだろう。
その後、嬉しそうに微笑んだのだ。
「いいのですか?苦労させますよ」
「一緒に貴方が背負って下さる苦労なら構わないわ」
レイドの手に両手を重ねた。
二人で見つめ合う。
わたくしは男性を愛することが出来る。
これから先、ずっとずっとずっと……
幸せを感じた。
すっかり忘れていたオッドリーニが、行方不明になったと、レンデ公爵夫人から聞いた。
「商会で真面目に働いていると思っていたのよ。それが、商会からいなくなってしまって」
屑の美男をさらって教育する変…辺境騎士団にさらわれたのか?
ふとカレンシアはそう思った。
そう思っていたのだが、
とある日、馬車に乗ってレイドと共に王宮に用があって出かけた。
調べたい事があったので。
王宮の前で、一人の薄汚れた男が馬車に向かって走り寄って来たのだ。
すぐに解った。
やつれ果てていたのだが、オッドリーニだ。
オッドリーニは窓から顔を出したカレンシアに向かって。
「私が悪かった。だから、父上母上にとりなしてくれないか?これからは君を愛する努力をする。だからお願いだ」
カレンシアは心がすううっと冷えていくのを感じた。
「愛する努力をしないとわたくしを愛して下さらないのですか?」
「違うっ。君の事は愛している。ただただ、私は家の言いなりになるのが嫌だっただけだ。幼いころから君と婚約を決められていたのが嫌だった。私の意志は?家の言いなりになるのが嫌だっただけだ」
「それでも、貴方はわたくしの顔が嫌だとおっしゃいましたわ。わたくしは新たに婚約を結びましたの」
奥からレイドが声をかけてきた。
「私は努力しなくても、カレンシア様を愛しております。私にとってはもったいない位のお方です」
「だそうよ。努力しないと愛せないだなんて、貴方と結婚しなくてよかったわ」
オッドリーニはその場に崩れ落ちた。
美しかった姿は面影が無く、あれでは変…辺境騎士団も攫ってはいかないわね。
どうなろうと知ったことではない。
もう関係ない人だから。
さようならオッドリーニ様。
わたくしも貴方の事を愛しておりませんでしたわ。
リセルとフレイシアは幸せそうだ。
フレイシアはカレンシアの顔を見ると、駆け寄ってきて。
「カレンシア様。ご婚約おめでとうございます。ご結婚してもお手紙を差し上げます。これからもよろしくお願い致しますね」
「勿論よ。フレイシアはわたくしの妹みたいなものですもの。これからは身内になるのよね」
「当初と違う形で身内になりますけれども、それでも、わたくしは嬉しいのです。お兄様は自業自得ですわ」
オッドリーニに会った事を言おうと思ってやめておいた。
レイドと婚約する事になった。
あの口の悪いラントスから、カルディウス公爵家の名で祝いの品が届いた。
せっかくなので受け取って丁寧に礼状を書いて送った。
愛しのレイドと共に仕事をする。
愛されなかった自分は過去の事。
今は微笑めば目の前に愛しいレイドが微笑み返してくれる。
これからもキャスル伯爵領は大変だろうけれども、やりがいがあって。
彼と一緒なら乗り越えていける。
決意を新たにするカレンシアであった。




