第10話 勘違い!?俺はそんなやつじゃねぇーー!!
「んだよこれ!?」
翌日の昼、店を始めて四日目。
なんとか地獄の勉強を終えたのに、俺を待ち受けていたのは最悪の事実だった。
「いらっしゃいませだにゃーー♡ 昨日から開店しました“フルーツバーガー専門店”だにゃーー♡ ぜひ来て欲しいにゃーー♡」
「なんでメイド服と猫耳を付けて接客してんの!?」
女子生徒たちが可愛らしい服を着て店をやっている。にしてもこれ……
「男子生徒ウケでも狙ってんのか?」
「うわ見てあっちの客、鼻の下伸ばしてるよ。嫌だね〜〜」
「まさか同じハンバーガーで攻めてくるなんて、とても挑戦的ですわね」
いや、まぁそうなんだけどさ、
「そもそもフルーツバーガーってなんなの? イメージ湧かないんだけど」
「というと思ってこの私が買ってきましたーー!! テイクアウトで!」
おー、さすが柊……あ、いや待ってくれ?
「ライバル店の食べ物を目の前で接客中に食べるってどうなん?」
「ささ! 食べてみよ!!」
俺の疑問に答えることなく、柊が商品の入った箱を開けてみた。
「おぉ! 可愛い!!」
「あらあら、これは素敵ですわね!」
「これは――バーガーなのか?」
中身を見て嬉しそうな声の二人、それとは対照的な困惑してしまう俺。
スイーツバーガーの見た目は、俺の知るバーガーとは全く違う物だった。
「生クリームがいっぱい入ってるよ! 美味しそう!」
「苺やオレンジもありますわね! とてもフレッシュで素敵ですわ!!」
「なるほどな、柔らかいパンケーキで挟んでるのか。味も美味いし、……相手もなかなかやるな」
あくまでも“パンで具材を挟む”ことが定義であるならば、これもバーガーであることには変わらないだろう。
「にしても美味いなこのバーガー……デザート系か……ありだな」
「小鉄が着想を得てる! それは凄い予感!? でも本当に美味しいね!」
「これは女子の学園生は好きそうですわね」
「たしかに……」
実際、メイド服に釣られたアホな男共もあっちの店にいるが、基本的には女生徒の方が多い。
“デザートは別腹”という、女性たちには第二胃袋があるからな、人気は女子に向くだろう。
「それにしてもあざと過ぎないか? あれで接客って露骨な戦略だな」
「お、なんでもやるコテツにしては厳しめだね」
「強制するのは駄目だろ? 店員の不満はないのか」
「ふふふ! そのことはもう調査済みだよ!」
出た、“情報屋の柊”モードだ。
探究心に忠実なコイツが、メモ帳を自信満々に開けた時は信用できる。
「ライバル店の人たちは“給仕教育部”の人たちみたいだよ!」
「なんだそれ? 部活なのか?」
柊に疑問を投げかけると、即座に雛子が答えてくれた。
「あら、小鉄様ご存知ありませんの? 特権生徒たちの雇っているメイドが指導者として、給仕のイロハをご教授している部活ですのよ」
「は? んなガチな部活があんの!?」
「将来のメイド育成を目的とした由緒ある部活でしてよ。なんでも優秀な二年生はもうメイドとして、卒業後の就職先が決まっている方もいるとか」
そんなしっかりしたところの方々が!? 俺たちになんのようなんだよ!?
「あーーそれはねーー!」
「そこからはニャーがお話しますにゃぁーー!」
「うわ、うるさ……なんか来た」
「あら? お隣のお店の方ですわね」
「この人は二年生の霜辺先輩だよ!! ほら! 一番目立ってた!」
あ、さっき接客してたやけに声の大きくて、語尾があざとい人だな。俺たちになにか?
「コテツ……辛辣だよ」
「仕方ないだろ、事実だ」
「相手に聞こえてなくて良かったよ……」
真実を言ってなにが悪い、他の男はどうか知らないが俺は客観的に見るぞ。
どうせあれだ。俺たちがいたのにすぐ近くに店を出すなんて、挑戦的なやつである事は間違いないだろう。
一言、文句を言ってやる。
「おいアンタ――」
「ニャーたちはご主人様たちの奉仕の精神に感動したんですにゃぁーー!!」
ぶちころ――え? な、なんだって?
「安い値段で生徒のために頑張ってる姿を見て、部のみんなが感動したんだにゃぁーー! これこそが本来の奉仕の精神だにゃと!」
「え……はぁ?」
「先生やみんなと話し合って、ここでしばらくニャーたちもお店をすることに決めたにゃーー!! 料理の腕も磨けるしにゃぁーー!!」
「ふ……ふぇ??」
ほ、奉仕って……いやその前にその語尾のせいで話が入ってこないな……。どうにかならんのか。
「ごめんなさいですにゃ! ニャーは仕事モードの時はこの語尾になっちゃうですにゃ!」
「難儀な性格してんなー」
「コテツだけは言われたくないよね。それ」
それって、俺の性格が難儀って言ってない? 柊? お前にもそれはブーメランだからな?
「あらあら、それは面白い性格してますわね」
「雛子……お前も人のこと言えねぇだろ……」
あ、駄目だ。この場にいるメンツが一癖も二癖もあるんだった。人のこと言える奴いないわ。
なんか奉仕の精神と言われると、少し申し訳なさが湧いてくる。
「コテツはお金のことしか考えてないもんね」
うるせぇ、静かにしてろ。
「商品にならない物を無償で受け取っていると聞きましたにゃぁーー! そんなこと聖人君主のやることにゃ!」
「あ、いや……ただ、安く素材を仕入れたいだけだぞ……」
「それにはもっと喜んでもらえるように、商品を増やし続けて! 自分の時間も削るなんて! ニャーも感動しましたにゃぁーー!」
あ、いや、それも……
「コテツが売り上げを増やすためにしただけなのにね!」
「小鉄様!? まさかそんな深い考えが!? やっぱり大物ですわね!!」
金儲けのことしか考えてないのに、勝手に勘違いしないでくんね!? 俺の脳みそには金のことしか入ってねぇよ!?
「これからも奉仕の心得を胸に頑張っていこうにゃぁーー!! よろしくにゃーね!!」
「お、お……おう。よ……よろしくな?」
変に勘違いをされたまま、先輩と熱い握手を交わす。
邪な考えしかなかったのに、そんな純粋な眼差しを向けないでくれ……。さすがに心が痛むわ。
四日目の売り上げは五万ちょっとしかいかなかった。
「明日からもニャーたちはここで奉仕を続けるにゃー! よろしくにゃーね!」
「オロロロロロロッ――」
「コテツが吐いたーーーー!!?」




