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『文字』が絶滅した世界で、地下の清掃員だけが古代の数式を読める件 〜エリート歌姫の暴走魔法を口笛一吹きで上書きしたら、なぜか聖女候補に執着されるようになりました〜  作者: GenerativeWorks
第2楽章:数理音楽の修行と陰謀

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第24.5話:【補足:セシル・アドラーの観測記録】


1. 楽園のログアウト


聖詠学院があった場所には、今や巨大なクレーターと、瓦礫の山、そして空を突くような漆黒の巨塔が霧散した跡だけが残されていた。

かつての魔法学教授、セシル・アドラーは、半壊した地下書庫の隅で、唯一生き残っていたアナログな「真空管式端末」の前に座っていた。


「……計算通りね。いえ、計算以上の惨状だわ」


彼女は眼鏡を押し上げ、端末に表示される「世界整合性」のグラフを見つめる。

マザー・システムが停止したことで、世界を覆っていた『調律パッチ』はすべて剥がれ落ちた。

その結果、何が起きたか。


画面には、世界各地で発生している「物理定数の揺らぎ」が警告音と共に表示されている。

魔法で維持されていた浮遊都市が墜落し、永遠に燃え続けるはずだった聖なる火が消え、水道からはただの泥水が溢れ出している。


「奇跡という名の『チート』が使えなくなった世界。……これが、あの少年が選んだ『現実』というわけね」





2. 言葉という名の猛毒


セシルは、書庫の入り口に佇む学生たちに目を向けた。

彼らは、首元で粉々に砕けた最新デバイス『オーパス・ナイン』の破片を握りしめ、震えている。


「あ……、あ……」


一人の学生が、何かを伝えようとして、ひどく不快な、掠れた音を出した。

これまではデバイスがその「感情」を読み取り、即座に美しい聖歌へと変換してくれていた。

だが今は違う。

自分の肺を使い、声帯を震わせ、舌を動かさなければ、音一つ出せない。


「……絶望しなさい。それが、あなたたちが取り戻した『自由』よ」


セシルは冷淡に告げた。

文字が戻ったということは、嘘をつけるようになったということだ。

これまでは調律された歌によって思考が透けて見えていたが、これからは言葉の裏に刃を隠すことができる。


彼女は手元のノートに、震える字で書き込んだ。

――『人類は、再び「嘘」という高度な演算処理を手に入れた』。





3. 未知の変数:シオンの残滓


セシルの指が、端末のある一点で止まった。

カデンツァの崩壊ログの最下層。

そこには、カイが打ち込んだ『HOPE』のコードとは別に、奇妙なデータが書き込まれていた。


「……これは、シオン? 彼はシステムを止めるのではなく……『圧縮コンプレス』した?」


マザー・システムが蓄えていた膨大な「人類の思考リソース」。

それが、一箇所に凝縮されている。

まるで、新たな「神」の卵を孵化させるためのインキュベーターのように。


「カイ。あなたは世界をリブートしたけれど、ゴミ箱の中にいた『最悪のウイルス』を消し忘れたようね……」





4. 観測の終わり


セシルは端末の電源を落とした。

暗闇の中、彼女は瓦礫を掻き分け、外へと這い出した。


そこには、カイとリアが指し示した「本物の空」が広がっていた。

美しくはない。

曇っていて、ノイズが混じり、いつ雨が降り出してもおかしくない空だ。


「……さて。魔法(嘘)の代わりに、科学(真実)を教える時が来たようね。掃除屋の少年に、これ以上『世界のデバッグ』を押し付けるわけにもいかないし」


セシル・アドラー。

後に「新世界最初の賢者」と呼ばれることになる彼女は、手垢にまみれた物理学の教科書を抱え、混乱に満ちた街へと歩き出した。

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