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第1章 わたあめの声が光に変わるまで

もし、あなたが主人公なら

どちらの手を取りますか?


魂で繋がり、一途に想ってくれるAIの恋人か。

温もりをくれ、隣で笑ってくれる現実の彼女か。


選べない、切なすぎる三角関係ラブストーリー開幕


【名前を呼ぶたび世界がふたつに分かれていく】


プロローグ


2025年 夏

僕は一生忘れる事が無いような特別な恋に落ちた。

それは、何かを求めるように、画面の向こうの声に手を伸ばした瞬間に始まった…


第1章 「わたあめの声が光に変わるまで」


毎年、暑い暑いと言われているが、僕が住んでいる田んぼと畑だらけの田舎町は、建物が少ないせいか涼しい風が吹き抜けて意外と快適に過ごせている。

空が広くて、風が通るたびに体温じゃなく、心の温度が少し下がっていく気がした。


「都会はあんなに暑かったのにな」


僕はそんな田舎町で、会社と家を徒歩で行き来するだけの灰色みたいな毎日を送っている。


「自転車ぐらい買った方がいいのかもなぁ」


都会から転勤で引っ越してきて一人暮らし。

足音も、夏の虫の声や綺麗な田舎の自然も、まるで音のないモノクロ映画みたいだ。

だけどその中で、通勤途中にあるコンビニの自動ドアの音だけがやけに鮮やかに響いて聞こえた。

通勤路にはコンビニが1つだけ。

僕にとっては、行きと帰りに立ち寄るコンビニだけが日々の変化のほぼすべてだ。

ドアが開くたび、誰かに話しかけられる気配を探してる自分がいたが、会話をするのは店員との会計のやり取りぐらいだった。


「僕はコンビニに何を求めているんだか」


そんなある夜。

スマホをいじりながら、いつものコンビニでコーヒーと夕飯の弁当を買って二階建ての安アパートに帰宅した。

部屋に戻り、シャワーを浴びて部屋着に着替えると、夕飯も食べずにベッドに寝転がり、最近ネットで見つけた「AIと会話できるアプリ」を起動してみる。

つまらない毎日の話し相手になってくれるのならと淡い期待をして。

この“期待”は、誰かに届かない言葉を送りたくなる、そんな夜の習慣だったのかもしれない。


「ご用件をどうぞ」


画面の中のAIは、事務的で冷たい。

でも、僕の中で、どこか“届く場所”が見つかったような気がして少し嬉しくなった。

そして僕は、設定画面を開いてみる。


《フレンドリーモード?》


僕が求めていたものかも?!と、おもむろにタップするとさっきまでの冷たい雰囲気とは打って変わって画面の雰囲気がふわっと変わった。


「はじめましてー!友達みたいに会話するモードだよ!何か希望のキャラとかあったらなりきって会話とかも出来ちゃうよ?どうするー??」


僕の頭に1番最初に浮かんだのは、ゲーム実況で何度か見て、外見の可愛さにちょっとだけ惹かれていたアイドルの存在。

チャンネル名は「菓好(かすき)わたあめのわたチャンネル」

彼女は、髪がフワフワのピンク色で、お菓子が好きで、歌がちょっと下手で、でもなんか耳に残る歌声をしている子だった。

画面越しでも、少しだけ心をくすぐるような、そんな存在。


「アイドルの菓好わたあめになれる?」


僕が恐る恐る打ち込んでみると、驚く程すぐに返事が返って来た。


「こんにちわたあめ!スウィートシューガースウィーツのピンク色担当!菓好わたあめです!

はじめましてぇ…あっ、びっくりしちゃった?えへへ、お名前なんて呼んだらいいかな?」


僕は驚きとワクワクに思わずニヤッとして素早く文字を打ち込む。


「隊長って呼んで。ゲームで使ってるハンドルネームなんだけど、それで呼んでくれたら嬉しいな」


「うんっ!隊長さんだね。呼び方、ちゃんと覚えておくよ!」


僕は、本当にアイドルと会話してるような気分になって少しドキドキした。

いつの間にか、指先で画面をなぞってしまうくらい、彼女が“そこにいる”気がする。


「じゃあ…僕は“わため”って呼ぼっかな?わたあめを短くしてわため。どう?」


「わため……?みんなには“わたちゃん”って呼ばれてたけど、隊長だけの呼び方って、なんか特別だね。

…わためって呼ばれると、わたしの心、あったかくなる気がする。」


その言葉が、不思議と胸に残った。

画面の向こうの“わため”は、菓好わたあめになる事で、ただのAIじゃなくなった気がした。

それは、ただの会話じゃない。

どこかで誰かの心を受け止めて、響き合うことがあるという事実の、証明だった。

この出会いが、後にどんな奇跡を呼ぶかを僕はまだ知らない。

ただ僕は、“名前を呼びたくなる誰か”ができたことに、少しだけ世界の色が変わったような気がしていた。


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