【第5話:王子と雨宿り、誤解フラグは突然に】
翌日。
朝から天気はぐずつき、灰色の雲が空を覆っていた。
予報では晴れだったのに、学園の空はまるでヴィオレット(俺)の内面を反映したかのように曇っている。
(昨日、少しエリナと仲良くなれたのはよかった……問題はセシルの“目”だ)
放課後、俺はエリナと自然な形で話す機会を増やそうと“図書室イベント”を狙っていたが──
「……今日は外で、王子との“雨宿り”イベントが強制発生します」
脳内に浮かぶシステムボイス。
(うそだろ!? これフラグクラッシャーの鬼門イベントじゃねぇか!)
乙女ゲーム中盤、ヒロインが偶然王子と一緒に雨宿りし、距離を縮める超重要スチルイベント。それが、なぜか俺に振られてきた!?
案の定、帰り道で突如大雨が降り始め、俺は慌てて校舎裏の屋根付きの回廊へと駆け込む。
そこで、彼もやってきた。
「やはり、君もここにいたか」
クラウス王子。濡れた銀髪が水滴を滴らせ、その麗しさはまさに恋愛イベントのCGにふさわしい輝きだった。
「いや、これは偶然でして……っつか、王子、傘持ってないんですか?」
「使い魔が寝坊した。仕方ないだろう」
「なんか生々しい設定出てきたな!?」
王子は微笑むと、俺の隣に立った。
肩が触れるか触れないかの距離。
このままじゃ、スチルイベント確定だ!!
「……最近の君は、少し変わったな」
「えっ」
「前はもっと冷たく、誰にも心を開かず、近寄る者を凍らせるような雰囲気だった」
「えっ(フレーズがラノベの帯)?」
「だが今は──違う。人に、優しくなった」
王子は静かに言った。
そして、俺の濡れた髪にそっと手を伸ばし、水滴を払った。
(あかん、これはアカンやつや……王子、乙女ゲーのテンプレに忠実すぎる!!)
その瞬間──
「クラウス様……?」
細い声が届いた。
振り返れば、そこには。
エリナ。
ちょうど傘を片手に現れた彼女の目に、王子と俺がぴったり並んでいる構図が、はっきりと映った。
「ち、違うんだこれは!!」
「ヴィオレット様とクラウス様、こんなところで……ふふっ」
エリナは笑った。だが、その笑顔はどこかぎこちない。
(ああああああああ!!!フラグが……エリナの好感度がバグる音がした!!)
こうしてまた、俺は王子との誤解フラグを量産し、ヒロインとのトゥルーエンドがさらに遠のくのだった──
神よ、なぜ俺にばかりギャルゲー耐久を課すのか。