【第4話:孤立と対話と、涙のはじまり】
翌日、学園の空気は微妙だった。
クラウス王子のマント爆裂事件が思いのほか話題となり、主犯(?)であるヴィオレット──つまり俺──は生徒たちから視線を集める存在となっていた。
「ルグラン様って、あんな性格だったかしら……?」
「昔はもっと高慢だったけど、今は……なんか、空回ってない?」
「でもクラウス様と妙に親しいのよね……」
廊下を歩くだけで、そんなヒソヒソ声が耳に飛び込んでくる。
NPCたちの評判が“異変”を察知し始めていた。
(やべぇ……完全に注目の的だ……これじゃエリナが近寄りづらくなる!)
教室に入れば席の周囲はぽっかり空白地帯。
視線が刺さる。悪意と好奇心が入り混じる感じがリアルにしんどい。
(ヴィオレットの過去……そういえば、バッドエンドの多くが“孤独”や“嫉妬”から来てたっけ)
原作設定によると、彼女は幼少期から親の期待を一身に受け、礼儀作法も魔法も一流であれと育てられ、失敗を許されずにきた。
孤立と抑圧。だからこそ、エリナのような“自然体で愛される存在”を前にすると壊れてしまったのだ。
(俺、今めちゃくちゃ共感してる……三十路無職って、結構悪役令嬢と親和性高いのでは?)
そんなことを考えていた放課後。
中庭のベンチで一人紅茶を啜っていたら、ふと視界の端に人影が映った。
「……ヴィオレット様」
声をかけてきたのは、まさかのエリナ本人だった。
「エリナ!? ……あっ、いえ、フェルメリア嬢!」
「その……昨日の演習、大変でしたね」
彼女はそっと隣に腰を下ろす。
眩しい笑顔ではない。どこか思案するような、沈んだ顔。
「わたし、ちょっとだけ……ヴィオレット様のこと、誤解してたかもしれません」
「……誤解?」
「いえ……勝手に、ずっと怖い人だって思い込んでて。でも、演習のあと、クラウス様がすごく楽しそうだったから」
「それは俺が──じゃなくて、わたくしが爆風でマント吹き飛ばしたからでは……」
「ふふ……そうかもしれません。でも、きっとヴィオレット様なりに一生懸命なんだなって……思いました」
胸が、きゅっと痛んだ。
エリナの声は柔らかく、あたたかい。
これが、プレイヤーとして見ていたヒロインではない、“生きてるエリナ”なんだと実感した。
「……ありがとう」
口をついて出た言葉は、ただそれだけだった。
(絶対に、君をトゥルーエンドに導いてやる……!)
だが、ふと別の気配を感じて振り向くと──木陰に佇む黒衣の男、セシル・オルランド。
何も言わず、ただこちらを見ていた。
(やべ、セシルもフラグ立ちかけてる!?)
その日から、俺は“孤立した悪役令嬢”としての運命に抗いながら、少しずつ“人と向き合う”ことを覚えていく。
涙の始まり。それは、心がほぐれる第一歩だった。