【第3話:魔法演習、爆裂フラグ乱舞!】
午後の魔法演習は、ゲーム内でも印象的なイベントの一つだ。
プレイヤーが選んだヒロインと攻略対象が、二人一組になって初めての共同戦闘を行い、互いの信頼度を高める──つまりは好感度爆上がりイベントである。
「この演習で、エリナとクラウス王子を組ませればルート加速は確実……俺の出番は“背景”でいい」
そう思っていた。甘かった。
「本日は、対抗魔法演習を行う! 組み合わせは、我が指定した通りだ!」
教官が高らかに告げたその瞬間。
生徒たちの間に動揺が走る。
「ヴィオレット=ルグラン、クラウス・レオンハルト──お前たちが第一組だ!」
…………。
「おいいいいいいい!? なんでだよおおおおお!!?」
心の中で叫ぶ俺。エリナは目に見えてうろたえている。クラウスは、なぜか微笑んでいた。
「よろしく頼むよ、ヴィオレット」
「うぐぅ……はい……(これもう死亡フラグですやん……)」
クラウス王子との魔法演習。つまりこれは、乙女ゲームにおいて“本命フラグが悪役に立つ”最悪のバグ展開である。
(だが……ここで下手なミスはできねえ……!)
訓練場の中央に立ち、王子と背中合わせに構える。
演習の内容は、幻影魔獣との模擬戦。
制限時間内に連携して魔獣を討伐する──簡単に聞こえるが、失敗すれば観衆の前で大恥をかく。
「前衛は任せろ。君は援護を頼む」
「了解……いや、かしこまりましたわ!」
背筋を伸ばして貴族風敬語を忘れないあたり、我ながら立派。
だが──幻影魔獣が現れた瞬間。
思いもよらぬアクシデントが発生した。
「キャッ……!?」
後方から放った魔力弾が、魔獣に命中するはずが……予想以上に暴発し、閃光が爆風と化してクラウスのマントを吹き飛ばす。
訓練場が静まり返る。
──王子、全裸(上半身)になりました。
「……ヴィオレット」
「ち、違うんですこれはその、誤爆で!」
「君の炎は、実に情熱的だな」
「なんでポジティブ解釈ぅぅぅ!?」
王子は気にも留めず笑ったが、エリナは遠巻きに青ざめていた。
演習終了後、成績はなぜか優秀評価。
「まさか、これで好感度が……」
ルーンゲージが、ピンクに変化していた。
(やべぇ……トゥルーエンドが遠のいていく……)
そんな中、声をかけてきた新たな人物がいた。
「……あなた、前と様子が違うようですね」
黒髪、黒衣。沈着冷静な目をした少年──セシル・オルランド。
ゲームでは隠し攻略キャラであり、全ルートの“真実”に繋がるキーマンでもある。
(え、もう出てくんの!? こいつ第五章くらいから登場じゃなかったっけ!?)
「ふふ、面白い。あなたの観察は、退屈を癒やしてくれそうだ」
ゾワッとした。こいつのルート、ヤンデレ化するとバッドエンド地獄なんだよ……!
こうして俺は、クラウス王子の爆上がり好感度にビビりつつ、次なる爆弾男セシルの視線を感じながら、
“原作レールから脱線しかけた乙女ゲー世界”を、踏ん張りながら歩み始めるのだった。
(お願いだから、エリナの好感度上がってくれーーー!!)