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2 戒璃のニガ恋


 ☆戒璃side




 俺は公園が嫌いだ。

 瞳に映したくもなくて、つい足が遠のいてしまう。

 子供が嫌いなわけじゃない。

 かけまわる犬はかわいいなと思う。

 家族連れ・初々しいカップル・お年寄り。

 みんなが思い思いに過ごし微笑んでいる姿は、俺を幸せな気持ちにさせてくれる。


 ただ、思い出してしまうんだ。

 2年半前、幸せのシャボン玉が飛びかう公園で最愛な子のハートをめった刺しにしてしまった、最低最悪な自分自身のことを。


 

 ここで自己紹介をさせてほしい。

 俺の名前は八神(やがみ)戒璃(かいり)

 高校3年生。

 選ばれしアルファのみが入れる学園の、生徒会長を務めていて。

 大人気バンド【89盗(はくとう)】で、ボーカル&ギターを担当している。


 テレビカメラに向かって

「みんなのハートを盗ませてね!」

 なんて、ウインク付つきの決め台詞をささやくからだろう。


「優しすぎ」


「完璧なアルファ様」


「童話の中の王子様そのもの」


 なんて言われているけれど……

 みんなを騙していてごめんね。

 それは表向きの顔なんだ。

 俺は民の心を救う王子様なんかじゃないよ。

 むしろその逆。


 【地球を滅ぼすこと】

 それが破壊神である、俺の使命だからね。



 17年前、俺が産声を上げたのは間違いなく地球だった。

 日本にある田舎の集落。

 村人みんなが知り合いで誰かが困ったらみんなで助ける、義理人情に厚い優しい人たちばかりの村。


 大好きだったよ。

 年齢関係なく村の人たちと過ごす時間が。

 幼稚園から帰ると山が俺たちの遊び場で、林の中を駆け回ったり秘密基地を作ったり、俺は友達と笑い合ってばかりいた。


 でも俺の目に映っていたものは間違っていた。

 村人たちは優しくなんてなかったんだ。

 自分たちが生き残るため、俺を差し出す殺人集団。


 そんな恐ろしい現実に気がついたのは、小1の時。

 村の大人たちに羽交い絞めにされ、棺桶に押し込まれた後だった。


『なんで僕をこんな暗いところに閉じ込めるの? 出してよ!』


 本物の真っ黒な棺桶は、大人一人が寝そべるスペースしかなくて。


『開けてよ! お願いだから!』


 渾身の力を込めて棺桶を叩いても無意味。


『お父さんお母さんどこにいるの、助けて!!』


 声がかれるくらい泣き叫んでも、俺の声に返事をする人なんて誰もいなくて。

 棺桶の外から聞こえてくる大人たちの会話を聞いて 、恐怖で俺の心臓が凍りついた。


『早くこの棺桶を、山の上の神社に運ぼう!』


 山の上の神社に? なんで?


『日が落ちる前に献上する約束だったしな。極上アルファのいけにえを』


 確かに僕は、この村で唯一のアルファだけど……


『この村に生まれた極上のアルファは、神様が聖なる力を維持するための極上ディナーだって言うじゃないか』


 それって僕が神様に食べられるってこと?!


『人の肉を食らう神なんて、悪魔としか思えねーな』


『バカっ、神様を悪く言うな』


『そうだ。怒ってこの村に災いを落とされたら、たまったもんじゃない。約束通り、丁寧に山の上まで運ぶぞ』


『ああ』


 ちょっと待ってよ。

 食べられるなんてイヤだよ、怖いよ。

 早く棺桶の中から出してよ!!


『いけにえってどういうこと? なんで僕なの? みんなは僕が死んでもいいと思ってるの?』


『かい!』


『お父さん、僕はこの中だよ! 早く助けて!』

  

『泣き叫ぶな! 恥ずかしい!』


『……えっ?』


『この期に及んで命乞いとは情けない!それでも俺の子か! オマエは選ばれしアルファだろーが!』

  

 なに……それ……


『村の皆さんに、たくさんの愛情をこめて育ててもらったでしょ』


 そうだけど……


『今がもらった恩を返す時なの。光栄なお役目だと思って、受け入れてちょうだい』


 酷いよ、お母さんまで。

 マナ息子を溺愛するようなおっとり声で、とてつもなく残酷な言葉をささやくなんて。



 親と村人たちに裏切られ、棺桶に入れられたまま、山の上の神社に置き去りにされた俺。

 死の恐怖で怯え震えていた俺を棺桶から出してくれたのは、人を食い殺しそうなほそ恐ろしい顔をした男だった。


『ぼっ僕を……食べる気……なんでしょ?』


 魔王オーラバリバリだし。

 地球人を食べるために削ってるの?っていうくらい、全部の歯がとがってるし。


『アハハ~ 面白いことを言う奴だな』


 宙に浮きながら豪快に笑ってるけど……


『違う……の?』


『オマエごときが神のディナーになるくらい旨いとは、到底思えんのだが。それにな、俺は人など食さぬ。こう見えて美食家なんだ。覚えておけ』


『じゃあなんで、僕を差し出すように村の人に言ったの?』


『まずは名乗ってやらんとな。俺は破壊神・ルキだ』


 はっ、破壊神?

 アニメで見たことがある。

 ムカついたら町を壊すとんでもない悪魔。

 眠いしお腹すいたからビーム放っちゃおう!ドーン!ってシーン、よくアニメで出てくるけど……


『破壊神の後継者として、俺はオマエを選んだ』


『なっななな、なんで僕?!』


『心が清すぎなんだよ』


『えっ?』


『憎しみを植えつけたら、間違いなく闇に染まると睨んだ。どうだ、今ものすごく憎いだろ? オマエの両親が。村の奴らが』


『……うん』


 なんで僕を見捨てたのって、悲しくなっちゃう。


『自分たちの幸せのためなら、子供の命すら差し出す無慈悲集団だ。全員が悪人なんだ。もっと恨め、憎め~』


『……苦しい』


『オマエが一人前になるまで、俺が親代わりになってやる』


『ルキは……見捨てない? 僕を……』


『立派な男になって、ド派手に地球を破壊しろよ。期待してるからな。アハハハハ~』



 そんな命拾いから始まった天界暮らし。


 小1だった俺は怒りの消し去り方なんて知らなくて、親や村のみんなへの憎しみは、日を追うごとに膨らんでいき、一切笑わない、ルキ以外には心を開かない、冷酷な目を突き刺し他人を拒絶する、闇オーラバリバリな一匹狼になっていった。


 俺は立派な破壊神になってみせる。

 そしていつか地球に行く。

 裏切った村人や俺を捨てた親に、復讐をするのはもちろんのこと。

 悪い奴らを生み出した地球そのものを、豪快に破壊してやるんだ!


 憎しみを生きる糧とし、厳しい修行に耐え続ける毎日。

 15才のクリスマス、やっと俺の願いが叶った。

 新・破壊神に選ばれ、地球を破壊する命を受けたんだ。


 待ちに待った復讐の機会。

 今すぐ8年ぶりに俺が生まれた村に降り立ってやる!

 村人全員の命の火を消し、両親を地獄に突き落とし、地球を木っ端みじんにして、俺が一から新たな星を作る。

 破壊神としての使命を、全うしてみせる!!



 恨みの感情に支配されていた俺。

 復讐できる喜びで気が狂いそうになりながら、瞬間移動。

 日本のある場所に降り立った。


 えっと……ここは?

 生まれ育った村に着くよう、瞬間移動したはず。

 なぜシャボン玉が飛び交う、見知らぬ公園に俺はいるんだ?


 この時の俺は困惑状態。

 脳をフル稼働させながら、首をかしげたけれど……

 18歳になった今なら、あの公園に導かれた理由がわかる。


 【美心と極甘な恋沼にひたるため】

 運命の番であるお互いのフェロモンが、引き寄せ合ったんだね。


 

 俺が美心の恋沼に溺れてしまったときの詳細は、誰にも教えたくない。

 キラキラ輝くガラスの箱に、宝物として大事にしまっておきたいんだ。

 誰の手アカもつかないように。


 すごいよね。

 8年燃えたぎらせた復讐心を消し去ったんだよ、美心の優しさが。


 破壊神の俺がこんなこと思っちゃダメだったんだけど……


 【地球を破壊する使命を捨ててでも、美心を愛し抜きたい】


 俺の中のアルファの血がうずきだして


 【運命の番の人生そのものを、俺だけが独占したい!】


 甘い毒のような欲求が、暴れ出してしまったんだ。



 本当に幸せだった。

 シャボン玉が飛び交う公園で、美心と過ごした時間が。

 美心以外、俺の瞳に映したくなくて。

 美心にも同じ思いでいて欲しくて。

 もっともっと、俺のことを好きになって欲しくて。


 親に捨てられてからずっと他人を睨みつけてきた自分だとは思えないほど、俺はハチミツみたいな甘々な笑みをこぼしてばかりで、王子様が姫に求婚するような歯の浮くセリフを、美心に浴びせまくり。


 【他の男に取られる前に、(つがい)関係を結びたい!】


 合意のもと美心の首のうしろを噛んだけれど、なんで俺は勘違いをしちゃったんだろうな。

 幸せな時間なんて続くはずがないのに。


 だって俺は『破壊神』

 この日じゅうに、地球を破壊しなければいけなかったんだから。




 『自分の使命』と『運命の恋』

 どちらを選ぶべきか悩みに悩んだ俺。


 大好きな子の幸せが第一だと地球を破壊するのをやめ、美心を幸せにできるのは、破壊神の俺なんかじゃないと運命の恋も捨て、悔しさと悲しみに耐えるために歯を食いしばりながら俺は天界に戻った。

 

 でもただで済むはずがない。

 破壊神として地球を滅ぼさなかったことは、死をもって償うべき重罪行為。

 俺の育ての親と言えど、前破壊神・ルキが黙っているはずもなく……


『俺が今から行って、地球を消滅させてくる!』


 ルキが鬼の形相で、天界から飛び降りようとしたから

 ――何とかして、ルキを止めなきゃ!

 ――美心の命が奪われる前に!


 俺はテンパりながら、やけくそでルキの腕をつかんだ。

 そして振り返ったルキに、とんでもない嘘をついてしまった。


『俺は地球そのものを破壊したいんじゃない! 全地球人の精神を破壊したいんだ!』


 熱意を爆発させるかのように大声をだした俺を、もの珍しそうに見つめたルキ。


『ほほう、壊すのは精神のほうか』と、目じりを垂らし満足げ。


 ルキを天界に引き留めるまで、もう一押しか。

 こんなこと微塵も思ってないけど……


『地球人全員を俺に沼らせる!』


『それで?』


『精神を操り、俺に服従させ、絶望地獄を味あわせるから! 必ず!』


『アハハ、面白いことを言うじゃないか』


『だから今は、地球を破壊しないで欲しい』


『いいだろう』


『ほんと?』


『戒璃をやりたい放題泳がせたら、ゾクゾクな地獄絵図が見れそうだからな。クククっ』


 はぁ~良かった。

 とりあえずは地球消滅は免れた。


『だが』


『ん?』


『俺は忍耐強い方じゃない。期限を設ける』


『期限?』


『3年たっても戒璃が全地球人の心を破壊できなかったら、その時はこの俺が責任をもって地球を破壊するかなら』


 ……3年かぁ。

 その間に何とかしなきゃ!

 そしてルキごめんね。

 地球人全員を沼らせて、精神を操って、絶望させたいなんて、とんでもない嘘をついて……

 実は今の俺はもう、復讐なんてどうでもいいんだ。

 美心の人生を守り抜くことだけに、全精力を注ぎたい!!


 でもそんな本音は漏らせないな。

 短気なルキに今すぐ地球ドカンされちゃうこと、間違いなしだから……


 前・破壊神のルキには、地球人の下僕が数えきれないほどいるらしい。

『地球人の精神を破壊できるように、全力で応援してやる!』と、ルキは地球に俺の居場所を作ってくれた。


 どんな手を使ったかはわからないが、国内トップのアルファ高校に入学できたし、大金持ちのダミー家族や、俺の戸籍までちゃんと用意してくれて。


『人の心を操るためには、世界的な有名人になるのが一番だ!』


 芸能事務所に入れられた時にはびっくりしたが


 絶世の美女にしか見えない、セクシー系男子の『(いのり)


 美少女アイドルより可愛い、エンジェルボーイの『孝里(こうり)


 この二人と一緒にバンドを組み、寮で一緒に暮らすのも案外楽しいものだと知った。


 なぜ俺がギターを奏でられるのかって? 

 弾きまくっていたんだよ、天界にいるとき。

 悲しみをごまかすためには、何かに熱中するといいって言うでしょ?

 まさにそれ。


 はぁ……

 俺はこの先、どうしたらいいんだろうな。


 ルキと約束をした日から、2年半が経ってしまった。

 期限まで残り半年。

 どうにかして、地球壊滅を阻止しなければいけない。


 失恋に苦しむ俺の恋心も、どうにかならないかな?


 「全地球人のメンタルを破壊する」と、ルキに宣言しちゃったせい。

 全世界の人たちを沼らせなきゃと、カメラに蜜甘スマイルを飛ばし、老若男女問わず優しさを振りまくせいだろう。


 『八神戒璃は、女好きの遊び人』と、週刊誌に書かれまくっているけれど……


 俺が好きなのは、美心だけなんだ。

 美心が幸せに暮らせる世界を作ること、それが俺の願いなんだ。


 2年半前に出会ったとき、俺は確信した。

 美心だけが俺の運命の(つがい)だって。

 Ωフェロモンに惑わされ、理性が吹っ飛んだのも事実だけど、俺の恋心は本物だと思う。

 美心がオメガじゃなくても運命の番じゃなくても、俺は絶対に美心に惚れたはずだ。



 いま美心は、どうしているんだろうな。

 俺たちが出会った公園で、施設の子供たちとシャボン玉を吹いていたりするのかな。


 子供好きなところ、お姉さんでいなきゃとキャパ以上に頑張りすぎてしまうところ、最高の笑顔をプレゼントしてくれるところ、本当に大好き大好きでたまらないよ。


 会いたいな。

 声が聴きたい。

 名前を呼んで欲しい。

 俺の瞳に映したいし。

 美心の瞳の熱を奪うように、見つめ合いたい。

 永遠に俺の腕に中に閉じ込めておきたい。


 地球を破壊する使命を持つこの俺が、絶対に抱いてはいけない恋心。

 壊れないシャボン玉に忍ばせ、美心に届いたらいいのに……






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