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1 美心のニガ恋

☆美心side☆


「俺以外、美心(みこ)の恋の瞳にうつさないで」


 あの時の私は、α(アルファ)のフェロモンにあてられていたんだと思う。


「美心の人生を俺に捧げてよ」


 彼の声が甘すぎて


「ねっ、いいでしょ?」


 私を見つめる瞳の熱があつすぎて


「……私で……よければ」


 初めて会った相手なのに、Ω(オメガ)特有のデリケートな急所を差し出してしまったんだ。


「うっ……」


「痛かったよね、ごめん」


「ううん、全然平気だよ」


「ちゃんと美心の首に噛みあとがついたし、これで俺たちは(つがい)だ」


「……つがい」


「俺の愛はすべて、美心だけに注ぐと約束するよ。どう、嬉しい?」


「うん、とっても」



 首のつけねを噛まれた痛みよりも、圧倒的に勝っていた幸福感。


 出会ったばかりでどんな人かもわからないけれど、彼となら大丈夫。

 一生愛し愛され、私たちは幸せに暮らしていける。

 オメガの私にとって彼は【運命のアルファ】なはずだから。

 

         ♡


 首をかまれたこの時、私は中2だった。恥ずかしいほどの世間知らずで、永遠の愛に憧れるハッピー恋愛信者。


 たまたま図書館で見つけた小説

『ドロ痛エリートアルファ様に狙われて』


 そのヒロインみたいに、死ぬまでアルファ様に溺愛されるんだって浮かれていたけれど…… 


 人生は甘くなかった。

 真っ黒こげの食パンよりニガニガだった。

 だって……





「見てみて、ビルの上のスクリーン占領してるの、戒璃(かいり)様たちだよ!」


「キャー、ほんとだ! かいり様カッコいい!」


 えっ、戒璃くん?

 脳内に毎日100回は現れる、私の最推し。

 彼の名前が耳に飛び込んできて、私は意識を過去から現在に戻す。


 

 ここは駅前広場。

 今の時間はただの溜め池と化している、噴水の前。


 高校の帰りだったと思い出した私・七星(ななほし)美心(みこ)は、見知らぬ彼女たちの声につられるように視線をあげてみた。

 さしている日傘を背中の方にずらし、視界に入っていた邪魔もの全てを排除する。


 本当だ!

 駅前広場の目立つところにある大型スクリーンに、戒璃くんが映ってる!


 ギターの弦をはじきながら歌う姿、あいかわらず優雅でカッコいいな。

 普段は柔らかい物腰で笑顔を振りまくのに、ライブ中はまるで別人。

 ワイルドで男らしい皇帝のような圧倒的存在感が、たまらないんだよね。


 手入れの行き届いた紫髪はサラサラだし、ワイルドさと甘さの声バランスが絶妙だし。

 瞳なんて、優しさを溶かしたお星さまみたいにキラキラしていて。

 王子様という言葉が似合い過ぎる戒璃くんの瞳に見つめられたら、もうダメ。

 スクリーン越しだろうが、ハートを盗まれそうになっちゃうんだから。


 本当にかっこいい。

 声までかっこいい。


 日本を代表する眼福イケメンとして、崇め・称え・祀りたいくらいだよ!

 国を牛耳るお偉方、彼に国民栄誉賞を授与して~~~


 ……って。

 はぁ~、またやっちゃった。

 推しを急に取り込んだせいなんだけど。

 ハートがギュインギュイン暴れだして、胸キュン夢キュン状態で浮かれすぎてしまいました。


 美心(みこ)、ダメでしょ!

 戒璃くんのことは忘れるって決めたでしょ!

 彼を瞳に映すたびに、誓いを破りまくっているなんて。

 本当に情けない高2女子だな……私は。



 ちょうちょが飛び交うお花畑を脳内から排除するため、私は頬を両手でペチペチペチ。

 「は~」と重い溜息を吐き、込み上げてくる涙を目の奥に押し戻す。


 白状します。

 彼なんです。

 戒璃くんなんです。

 2年半前に私の首の後ろを噛んだ、アルファ様というのは。



 日本だけじゃなく世界でも大旋風を巻き起こしている、大人気3人組バンド【89盗 (はくとう)】


 ボーカルとギターを担当しているのは私よりも一つ年上の高校3年生、八神(やがみ) 戒璃(かいり)くん。


 天が彼に与えたのは、美貌と音楽センスだけじゃなくて、国が認めたエリートアルファしか入れない高校で彼は生徒会長を務めているらしく、成績優秀、スポーツ万能、そのうえ大金持ちなんだとか。


 施設で暮らしている親がいない私とは、住む世界が違いすぎなんだ。

 2年半前に一日だけ時間を共にしたことが、夢だったのかも?

 そう思っちゃうのも無理ないか。


 戒璃くんに噛まれた跡なんて、もう私の首には残っていない。

 彼に会うこともなく過ぎていったこの2年半の間に、綺麗さっぱり消え去っている。

 

 それなのに……

 大型スクリーンを見つめながら首の後ろをさすってしまうのは、彼に捨てられた悲しみが消化しきれていないせいかもしれない。



 2年半前、戒璃くんは私の首を噛んだあと


『これで俺たちは(つがい)だね。俺の愛はすべて美心だけに注ぐと約束するよ』


 愛おしい人を見つめてます!と言わんばかりの瞳を揺らし、私のハートを甘く溶かしてくれたのに……


 私、何かをやらかしちゃったのかな?

 バイバイするころには、私への恋心は消え去っちゃったみたい。


『ごめん。美心のオメガフェロモンに当てられて、とんでもないことをしちゃったけど。やっぱり俺、美心とは番になれない!』


『本当にごめん』と深く頭を下げた戒璃君は、そのまま私の前から走り去ってしまったんだ。



 どう、酷い話でしょ。

 極上の夢を見せておいてからの地獄へドーン。


 私は何が起こったのかわからなくて、一人取り残されたままボーっと固まっちゃって


 えっ? 

 私たちって『運命のつがい』じゃないの?

 アルファの戒璃くんに、私は首を噛まれたんだよ。

 歯型がくっきりとついているのに、番になれないってなに?!


 詐欺師に騙されたような虚しさと絶望感に襲われたのを、今でもはっきりと覚えている。



 中2だったくせに、オメガなくせに、私は第2の性に関して無知すぎたんだろうな。

 発情期に無意識に放ってしまう、オメガフェロモン。

 その危険性を説明してくれていた親代わりの施設長の小言は、あまり気にも留めていなくて、飲まなきゃいけない薬すら服用していなくて


 戒璃くんに首を噛まれたのは、自業自得だった……

 反省した私は、このあと第2の性について必死に調べた。


 この世の人間は『α(アルファ)・β(ベータ)・Ω(オメガ)』のどれかに分類される。


 大多数を占めているのが『β(ベータ)』

 言うなればベータは、普通の人間。

 フェロモンなんてものに惑わされず、普通に生きていける安全民。

 オメガの私もベータだったらよかったのにと、何度ため息をついたことか。


 そして第2の性の中でヒエラルキーのトップに君臨するのが『α(アルファ)』

 尊敬され崇められるくらい、アルファ様は超絶エリート。

 外見も頭脳も身体能力も、秀でているのが特徴で、人を魅了するキラキラフェロモンを無意識にばらまいていて、スター性・カリスマ性・統率力を持っている人が多いんだって。


 アルファ様が近くにいるとすぐわかるよ。

 目をハートにした集団が『ステキ~!!』と、アルファを取り囲んでいるから。


 それに対して私のような『Ω(オメガ)』はというと……

『劣等種』『ダメ人間』『動物以下』

 ひどい言われようでしょ?

 オメガというだけで、見下されてしまうのが現実。


『発情期にフェロモンを放って、アルファを誘惑する人食い花だ!』なんてオメガをバカにする人もいるくらい。

 だから私は、自分がオメガだということを隠している。



 たしかに3か月に1回、発情期は来るよ。

 フェロモンを無意識にまき散らしちゃう期間。

 オメガフェロモンはアルファにとって、麻薬みたいなもので。

 嗅ぐとアルファの恋愛脳がバグって野獣化して、本能のままオメガを求めてしまうことがあるんだって。


 ただね、アルファとオメガで間違いが起こらないような対策が、世界規模でとられているんだ。

 オメガはフェロモンを抑える効果抜群の薬を、国からただでもらえるし。

 薬さえちゃんと飲んでいれば、『発情期』なんて楽勝。

 ちょっとダルいなくらいの微熱ですむから、日常生活に支障はほぼないの。


 アルファ達も、オメガフェロモンに惑わされない薬を服用必須。

 だからアルファもオメガも、普通人間のベータとあまり変わらないと思うんだけど、ベータの人たちの中には、オメガをどうしても許せない人がたくさんいるみたい。


『オメガは人間として出来が悪すぎだから、アルファを誘惑するフェロモンを放てるように進化したんだ!』とか。


『息子の高校に、オメガを入学させないで欲しい!』


『オメガは無能だ! 一緒に働きたくない! 退職させろ!』


 プラカードを掲げて、叫んでいるベータ集団もたまにいるし。

 オメガ根絶を企む組織も、世界中に存在しているって噂まである。



 あー、怖い怖い。

 第2の性なんて誰も気にしない、平等な世界にならないかな?

 親も親戚もいない私。

 あと1年ちょっとで、施設を出なきゃいけない。

 就職をして誰にも頼らず生きていかなきゃいけないから、未来が不安でたまらないのに。




 悲しみが溶ける私の視線は、いまだ大型スクリーンに釘づけのまま。

 ギターの弦をはじきながら歌う戒璃くんから、どうしても目が離せなくて


 ……戒璃くんを見てると、苦しいんだってば。

 ……捨てられた日のことを、思い出しちゃうんだってば。


 彼に対する愛情と憎悪の両極端な感情に、ハートが押しつぶされそうになってしまうんだ。



 私の隣に立つ女子2人は、明らかに89盗(はくとう)の大ファンだ。

 キャーキャー言いながらあごを上げ、大型スクリーンを食い入るように見つめている。


「かいり様、ほんとヤバい!」


「麗しすぎて、目が溶けるぅぅ~」


 心臓に手を当て悶えているのなんて、熱狂的信者特有の求愛行動で間違いないだろうし。

 わかりやすいな。

 可愛いな。

 うらやましいな。

 私もなりたかったよ。

 ライブ会場に行って戒璃くんカラーの紫ペンライトを大振りしちゃうくらい、行動力のある熱狂的信者に。



 彼女たちは今、推ししか目に入っていないんだろう。

 興奮を分かち合うように、二人でお互いの体をバンバン叩き合っている。

 盗み聞きはダメってわかっているけど、許してください。

 私の耳は、戒璃くん情報を一つも取りこぼさないようにできあがっているんです。

 言い訳を心の内に秘め、画面を見上げながら、耳の穴を隣のJKたちに向ける。



「なんか最近さ、89盗(はくとう)の大人気ぶりすごくない?」


「この前発売した最新アルバム、バカ売れで生産が追いつかないらしいよ」


 うんうん、89盗が世界的快挙達成!ってニュースもあったしね。


「戒璃様だけじゃなく(いのり)様も孝里(こうり)様もアルファじゃん?」


「3人が通ってる高校、選ばれしエリートアルファしか入れないって聞くし」


「偏差値エグすぎなとこ、ヤバいよね」


 国のトップ高校の生徒会長をしている戒璃くんって、ほんと何者なんだろう。

 ただのアルファとは思えぬポテンシャル。

 人間じゃないとか? 

 フフフ、まさかね。


「3人ともビジュアルは国宝級でお金持ち。そのうえ優しくて性格までパーフェクトなんて」


「全人類を癒すために生まれてきてくれて、ありがとうだよね」


 いいこと言うなぁ、まさにその通り!


「熱狂的男性ファンの多さ、日本の芸能人の中で断トツトップらしいじゃん」


「クラスの男子も言ってた。バンド演奏しているときの彼らが神がかってるって」


「89盗に沼らない生物なんて、この世に存在するのかな?」


「うーん。全生物を惚れさせているかって言われたら、そこまではってなるけど……」


「でも、けっこうな確率でバズってない? 89盗のライブ映像見たさにテレビの前を陣取る、犬や猫の動画」


 肉球&しっぽをフリフリするペット達のことか。

 89盗の曲を歌ってみました!動画で、オウムが歌ってるのもあってビックリしちゃった。


「動物もアルファ人間様のフェロモンに、キュンキュンさせられるのかもね」


「ほ~ら、全生物に効果ありじゃん、アルファのフェロモンって」


「アルファ様たちは神が作りあげた芸術品だから、ありえるか」


戒璃(かいり)様なんか、歌いながら極甘なウインクを飛ばしてくるけど。あれなに? 悩殺攻撃?」


「誰にでも優しい王子様なのに、ライブ中はアルファ特有のワイルドフェロモンをまき散らしてくるんだよね。そりゃ、ベータの私でも沼っちゃうよ」



「あまりに魅力的すぎてさ、全人類をキュン死で絶滅させる計画でも立ってるんじゃないかって、疑っちゃう時あるんだけど」


「うちらを幸せにしてくれる戒璃様の願いなら、キュン死からの人類絶滅も受け入れようね」


「もち!」


 人類絶滅を受け入れる?

 こっ…この子たち、覚悟がすごすぎる。

 89盗ファンの鏡なのかもしれない。

 私に資格があれば、トップオタに認定してあげたいよ。


「ほんと戒璃さまは神! この世に幸福を振りまく天使!」


「でもさ、女遊びが激しいのがちょっと……」


 ……あっ、そこね。


「今月だけで5人はいるよね? 戒璃様と一緒にいるところを週刊誌に撮られた女優さん」


「過去に、モデルやアイドルとの熱愛報道もあったし」


 パーフェクトガイの戒璃くんがモテるのは、当たり前なんだけど……

 彼の女遊びの激しさを耳にするたび、私の心臓が握りつぶされたように痛みだしちゃうんだ。

 ギュギューって、ほんと苦しい。


 オメガの私は、死ぬまでに一人しか(つがい)を作れない。

 でもアルファは違う。

 戒璃くんは何人でも何十人でも、番を作ることができる。


 戒璃くんにとって私は、たくさんいる番の1人ってことだよね?

 私の顔をちゃんと覚えているのかな?

 もしかしたら私の首を噛んだことさえ、綺麗さっぱり忘れているのかもしれないな。

 はぁぁぁ、しんど……


「でもさ、戒璃様は女好きで良くない?」


「なんで? 男は一途がいいじゃん!」


「それは付き合う彼氏の場合でしょ」


「へ?」


「戒璃様は偶像なの。手を合わせて崇め称えるご神仏なの」


「わかるけど……」


「いっそのこと戒璃様には、世界中の美女を惚れさせて、はべらせるくらいして欲しいわ」


「彼氏だったら、クズの極みじゃん」


「日本を代表する極甘王子様は、万人に愛を与えるカリスマでないと箔がつかないの!」


「う~ん、まぁそうか。そこが戒璃様の魅力か」


「あっ、曲が終わった」


「来るぞ来るぞ~!」


「シーだからね、一言もしゃべっちゃダメだからね!」


「わかってる!」



 あんなにはしゃいでいたJK二人が、急に口を結んだ。

 私も戒璃君の決め台詞を聞き逃したくなくない。

 スクリーンを見つめ、耳の神経を張りつめる。


 楽器から離れ、カメラの真ん前にやってきた89盗(はくとう)メンバーの3人。

 センターを陣取る戒璃くんが、ギターのピックを振りながら王子様スマイルを光らせた。


「ファンのみんなのことが大好きだよ。たくさん愛してあげるから、これからも俺たち89盗に、君のハートを盗ませてね」


 ハチミツみたいなハニーボイスを放った直後、極甘ウインクまで飛ばしてくれた戒璃くん。

 いのりくんと孝里こうりくんが身を乗り出し


「高校生3人組バンド、89盗でした」


「みんなバイバーイ」


 戒璃くんを隠すくらい前に出て、スクリーンを占拠したけれど。

 網膜に刻まれた推しの残像だけで、キュン死しそう……

 瞳でもハートでも戒璃くんを完コピしている私の心臓は、肌から飛び出すんじゃと心配になるくらい暴れまくっている。

 スクリーン越しなのに、戒璃くんのファンサの破壊力って本当にすごいんだな。


 麻薬のような中毒性のある彼のフェロモン。

 惑わされてしまうのは、私がオメガだからなの?

 それとも、過去に首を噛まれたから?


 なんて考えてみたけれど、どっちも違いました。

 オメガだからとか全く関係ないことを、ベータ女子2人が証明してくれました。

 というのも私より隣の女子2人の方が、戒璃くの毒に侵されてしまったらしく


「立ってるのムリ……」


「戒璃様、尊すぎなんだってば……」


 後ろにある噴水のふちに手をつきながら、地面に崩れこんじゃったんです。


 どうやら戒璃くんの魅力は、ベータも完全骨抜きにできるみたい。

 あいかわらず戒璃くんは、民全員を愛そうとする王子様だな。

 彼の愛が私一人に向けられたものだったら、どんなによかったことか……って。


 はぁぁぁぁぁ、もう。

 だから美心、前に誓ったでしょ!

 自分を捨てた相手のことは、脳内の記憶部屋から完全に追い出すって!


 ほんどダメダメ。

 忘れなきゃと思えば思うほど、彼の蜜甘スマイルが私の脳内スクリーンに映し出されちゃう。


 でもね……本心はね……


 また会いたいの。

 ちゃんと話しがしたいの。

『美心が俺の運命の(つがい)だよ』って、もう一度言われたいの。


 愛される喜びを私に教えてくれたのは、間違いなく戒璃くんなんだよ。

 首をかまれただけだし、手を出されてもいないけど、私は戒璃くん沼にズブズブに浸からされちゃったんだよ。


 私を愛せないなら、ちゃんと責任を取って欲しい。

 酷い言葉を私にぶつけて、戒璃くんのことを嫌いにさせて欲しい。


 過去の憎しみから逃げたいよ。

 苦しいよ。

 楽になりたいよ。

 心の底から、誰かを愛したいし愛されたいよ。

 誰かに必要とされたいよ。


 オメガの私だって幸せになりたいんだから……




 



 グスグスっ。

 鼻をすすってしまうのは、悲しみの限界値を超えたサイン。

 人が多い駅前広場だし、涙がこぼれるのは阻止したいな。

 うぐっと込み上げる黒い感情を踏み潰したくて、歩き出そうとしたのに……


「うわぁぁぁ! 勢い止まんねぇ!」


 なぜか前方から、こっちに向かって走ってくる制服男子がいるんです。

 猛スピードで。

 なんかすごく焦りながら。

 ビックリしすぎて、足だけじゃなく私の全身が固まってしまいました。


 こっちに走ってくる人の特徴だけど。

 ひとことで言えば……不審者?!


 あっ反省。

 ちょっと悪く言い過ぎたか。

 ワル臭ギラギラなヤンキーっぽい。

 今の説明で雰囲気くらいは伝わったかな。


 ウエーブのかかった髪は、えりあし長めのゴールドで。

 前髪は鼻が隠れるくらい長くて。

 ブレザーの制服を着ているのに、サングラスをかけているのがなんかチグハグ。

 瞳が見えないほど真っ黒なレンズで、イカツイ人……って。


 うわっ、人間観察なんてしてる場合じゃなかった。

 イノシシ並みに突進して来るんだもん、金髪サングラスさんが。


 逃げなきゃ!

 横に2、3歩よけるだけで十分?

 でも、私の後ろは噴水池なんだ。

 横によけた時点で、突進男子が池に落っこちちゃうのは確実で……


 なんて悩んでいる間に、迫ってきた。

 金髪君が目の前に!

 もう逃げられない。

 肩にかけてる鞄だけでも地面に避難させて、さしている日傘も放り投げて。


 うわぁぁぁ~~~!!

 ぶつかる~~~!!!



「フッ、おひとよしすぎだろ?」


 ん? あれ?


「オマエ、妄想以上なんだけど」


 なんかおかしい。

 私いま、彼に抱きしめられてない?


 力強い腕が、私の背中に絡みついてるし。

 もう一方の手は、私のおでこにピタ。

 私の頭を守るかのようにホールドされていて、私の顔が男らしい胸板にうずめられたまま、体が後ろに傾いていく。

 まるで池に吸い寄せられるように。



 私の耳元でささやかれた声、なんかヤバすぎだった。

 めちゃくちゃに甘いというか、ワイルドすぎというか。


 でも『おひとよし』ってなに?

 『妄想以上』ってどういうこと?


 彼の放った言葉の意味を、十分に考える余裕があるはずもなく……

 バシャン!

 私は抱きしめられたまま、噴水池の中に倒れこんでしまったんです。

 うわぁぁぁぁ。

 制服も腰まで伸びた髪も、ありえないほどビショビショだよ。


 池の深さは十数センチほど。

 ものすごく浅いから、池の中で寝ころんでいても息ができているけど、顔がつかりきるくらい深い池だったら、水を飲みこんでいたかも。

 背中から池に落ちたのに痛みが全くないのは、この金髪くんが私を守ってくれたからだよね?

 私の顔は未だ彼の胸に押し付けられているから、視覚に頼ることができなくて。


 あれ? 彼が全く動かないよ。

 私を抱きしめたまま、池の底に寝そべるように固まってるし……


「あの……大丈夫ですか?」


 私を抱きしめる腕に力を入れてくれたから、生きている確認は取れたけど……って。

 ひゃっ、ひゃっ、ひゃひゃっ!

 彼の安否確認なんてしている場合じゃなかった。


 危険なのは私自信では?

 ななな、なんですが……この状況は!!

 池に寝転がったまま、見知らぬ男の子に抱きしめられてるんですけど!

 間違いなくのゼロ距離だよ。

 恋人同士でしかありえないシチュだよ!



 噴水のように湧き上がる羞恥心。


「キャァァァ!」


 クマに襲われたような金切声で、思い切り叫んでしまいました。


「叫ぶな、耳いてー」


 ぶっきらぼうな声を出した割に、なんで私を離してくれないの?


 両掌に力をこめ、私は彼の胸板を押す。

 勢いよく上半身をおこすことには成功した。

 でもまだお尻は池の底にべたりで。

 危険人物からは離れるべき!

 お尻を引きずりながら、私は後ろにズリズリズリ。


「オマエさ、なんで俺様から逃げてんだよ」


 自分を俺様呼び? 

 睨まれてる。

 金髪だしドSヤンキー確定だ。


「アハハ~ スリル満点だったな。やばっ、めっちゃ楽しい」


 噴水の底に尻もちをついて、いきなり笑い出したんですけど。

 ハイテンションで水を掌で叩いてるから、こっちに飛んでくるよ水しぶきが。


「わっ、わわわわ私は、スリルなんて求めてなくて……平穏が好きで……」


「平和主義者か」


「……どちらかというと」


「まぁ、一応は覚えといてやる」


 結構です。

 見ず知らずのオメガのことなんか、記憶から排除してください。


「噴水に人が落ちたよね?」


 噴水池の外から若い子の声がして、私の心臓が焦りだす。

 ほっほら、どうするんですか!

 噴水の周りに、ワラワラと人が集まってきちゃったじゃないですか!


「わっ私、バイトがあるのでこれで……」


 よかった。

 足に力が入った。

 立ち上がれた。

 噴水のふちをまたいで、このまま安全なところへ……って。


「俺様から逃げようとした女、オマエが初めてなんだけど」


 ひぃあぁぁぁ!

 すでに私の腕が捕まってるし!

 彼の大きな掌で、しっかりホールドされてるし!


「オマエってさ、人に注目されるのそんなに嫌?」


 制服も髪もビショビショ状態の男女が、丸い噴水池の中に二人きりなんですよ。

 絶対に変な目で、見られてるじゃないですか!


 金髪さんに怒鳴る度胸のない私。

 目の前に立つ彼から視線を外して、小さくコクリ。


「俺様は大好きだけどな、悪目立ち」


 ……確かに好きそう。


「世界中の奴らの視線が俺様だけにぶっ刺さればいいのにって、いつも思ってるし」


 そっそれは、変わった思考をおもちで……


「やみつきになるくらい興奮するあの快感を知らないなんて、オマエに同情する、マジで」


 八重歯を光らせながら、頭ポンポンされちゃった。


「もう一度抱きしめて、慰めてやろうか?」


 うわわわっ!

 疑問形でハテナを飛ばされたのに、すでに抱きしめられているんですけど!


「そっそういうの、結構です!」


「力強っ、この俺様を突き飛ばすなんてな」


 ほー。

 なんとか彼から距離を取ることができた。

 彼が私に不快感をあらわにしているこのすきに、逃げて……


 「ウブってやつか。新鮮な反応。案外たまんないんだな、そういう反応されんのも」


 ヒィア? 

 不快どころか、金髪さんの変なツボを刺激しちゃってない?


 「まぁいい、恥じらいのある女は可愛くて大歓迎だからな」


 可愛いって言った? 

 私のほっぺに手を添えないで。

 至近距離で覗き込まないで。

 ちっ近すぎだから、あなたのお顔が!


 「今はオマエの望み通り、野次馬たちの目に俺らが映らないようにしてやる。それでいいんだよな?」


 「あっ、ありがとうございます」


 とお礼を言ってはみたものの……

 ん? どういうこと?


 ワルっぽく微笑んだ彼。

 八重歯を光らせながら指をパチン。

 すると、どうしたことでしょう?

 池の真ん中から、噴水がふき出してきたではありませんか!


 今って噴水ショーの時間じゃないよね? 

 こんなピッタリなことってある?

 彼が指を鳴らした直後に、大量の水が空めがけて噴出したなんて。

 おかしい、明らかにおかしい。

 普段よりも水の勢いがありすぎなの。


 これは夢?

 寝不足過ぎて下校中に寝ちゃった?

 最近は学校とバイトと施設の子供たちの世話で、睡眠時間が少なかったからなぁ。


「俺たち二人だけの空間になったな、オマエの希望どおり」


 どや顔の彼に肩をたたかれ、360度見回してみた。

 ほんとだ、水のトンネルができている。

 噴水池の外にいる人たちは、全く見えなくなったけど。


 これはこれでなんかヤバい気が。

 八重歯の金髪サングラスくんに、襲われそうな……


 って、両肩を掴まれちゃった。

 グググと近づいてくるよ。

 水もしたたるワイルドフェイスが。


 待って待って、キスされそうじゃない?

 えっ? なにこの状態。 

 逃げられない。

 目をつぶって、顔を横にそむけるので精一杯。


「ぶはっ」


 ん、笑われた?


「オマエって何? ビビりのウサギ?」


 誰だって見知らぬ人に迫られたら、震えちゃうんだから!


「とって食ったりしねーから、安心しろ」


「ででで、でも今も、顔がすぐ近くに……」


「アハハ。最上級のファンサしてやってんだから、頬を染めるくらいしろよな」


「えっと……ファンサ?」


「まだ気づかないわけ? 俺が誰なのか」


 えっと……

 私が推しているのは、世界でたった一人。


 大人気バンド89盗(はくとう)八神(やがみ)……


戒璃(かいり)……くん……?」


 えっ、本人?

 もしかして私に会いに来てくれたの?

 運命の番として私を迎えに来てくれたの?

 嬉しい!!!!


 って、そんなはずないでしょ!

 明らかに、戒璃くんとは別人でしょ!


 目はサングラスで隠れているけれど、絶対に別人だって断言できる。

 髪型も骨格も顔面パーツも全て違う。

 性格だって、戒璃くんはこんなに横暴な俺様じゃない。

 おっとり微笑む優雅な王子様タイプ。

 でも2年半前に出会ってすぐは、私に心を開いてくれずトゲトゲしてたけど……


「ったく、聞きたくなかったつーの。オマエの口からその名前」


 不機嫌顔で長い前髪をかきあげた彼。


「こんな有名人に出合わせてくれてありがとうって、神に手を合わせないと罰が当たるからな」


 自信満々に言い放ち、彼はサングラスを外した。


「どーも」


「あっ、あなたは……」


「こんな大物と会えたことが信じられなくて、震えが止まらないんだろう」


「……っ」


「まぁ俺様との時間を金で買いたい奴が、この世には数えきれないくらいいるわけだし。オマエが目を見開いて驚くのも無理ないわなぁ」


「……えっと」


「まず何が欲しい? 俺様のサイン? 握手? コンサートの特別席のチケットを用意してやってもいいけど」


「あっ、あの……」


「もう一度抱きしめてほしいなら、自分から俺様の腕の中に……」


「そっそうじゃなくて……」


「ん?」


「教えていただけたら……嬉しいなって……」


「俺様の稼ぎ? 巨額すぎて意識飛ばすなよ」


「知らないんです」


「ああ年齢か、俺様は今高3だが」


「じゃなくて……あなたが誰なのか……」


 水も滴るいい男だと思う。

 ワル臭やワイルドさが漂うイケメンなのも認める。


 コンサートって言ってたし……


「ミュージシャン……だったりしますか?」


「はぁ? おっ俺様を知らないだぁ?」


 両手をぶん回すくらい、不機嫌にならなくても。

 ひたいの血管切れないかなぁ。

 噴水のなかで倒れられても、すぐには救急車を呼べないよ。


「こんなイケメンが映った時点で、テレビに釘付けだよな?!」


「……うーん」


「俺様の顔が一生脳に焼き付くぐらい、心を奪われるよな?!」


「……うーん」


「はいと言え!」


「いっ、痛ぁ……」


 私のおでこに拳をグリグリねじ込まれながら怒鳴られちゃいましたけど、おっとりと微笑む戒璃くん以外に心を奪われたことはないんです。

 なんて正直に言ったら、この噴水の水が蒸発しちゃうくらい怒りの炎を燃えたぎらせそう。


 「オマエの家、テレビが壊れてるのか? ネット環境は?」


 「あるにはあるんですけど……」


 私の目は特殊。

 戒璃くんだけを捉えるように出来あがっていて。

 その他の異性はどうでもいいと言いますか。


 戒璃くん関連のことだし、89盗のバンドメンバーのことはちゃんと存じておりますよ。

 いのりさんと孝里くんは見た目が女性っぽくて、たくさん癒しをいただいてますし。


 「一度しか名乗ってやらん! だからちゃんと覚えろ!」


 「はい」


 「俺の名前は、五六(ふのぼり) 雷斗(らいと)だ!」


 「ふのぼり? その苗字、初めて聞きました」


 「初めて聞いた?」


 「珍しいですね。こいのぼりみたい」


 「オマエなぁ! 俺様の名前を聞いても、ピンとこないわけ? 本当に日本人なのか?」


 睨みながら、対面状態で肩をぶつけてこないでください。

 怖すぎなの。

 私の後ろは水の壁で、逃げ場なんてないんだから。


「えっと……私……記憶力が乏しくて……」


「じゃあ56(ゴロ)ビューは?」


「えっ? ゴロビュー?」


 彼らと言えば……


「大人気双子アイドルですよね?」


 グループ名はもちろん知ってます。

 私の通っている女子高にも、56ビューファンはたくさんいるし。

 戒璃君たちが出る音楽番組に、一緒に出ていることもあるし。

 ただ……顔は全く分からないけど。


 今の日本の音楽業界を盛り上げているのはこの2組だって、ネットに書いてあったな。

 とはいえ、89盗の方が圧倒的に人気だよね。

 戒璃くんがメインだし世界的に活躍しているし、当たり前か。フフフ。


「クラスの女子たちがよく騒いでます。双子の二人とも性格が対照的でカッコいいって。56ビューのお知り合いの方ですか?」


「二人ともじゃねぇーだろ? カッコいいのは弟の方だけだろーが!」


「確か片方が風弥(かざみ)さんという名前だって。うちのクラスに風弥さん推しが多いから、よく耳に入ってきて……」


「なんで風弥なんだよ!」


 そんなこと言われても、なんでキレてるんですか?

 やめてください!

 私の額をこぶしでグリグリするの、しかも2度目。

 痛すぎなんですから。


「オマエのクラスの奴ら、美的センスがひん曲がってるとしか思えねぇ。眼球買って、目ん玉入れなおせ、全員!」


 グリグリ攻撃はやめてくれてホッとしたけど、「くそーっ」って叫びながら自分の太ももを殴る必要ってある?

 金髪君がドS魔王様に見えるけど、案外Mだったりして。

 うーん、SでもMでもどっちも怖い。


「私は56(ゴロ)ビューより……というか、芸能人の中で89盗(はくとう)の戒璃くんが一番だと思います」


「よく本人の前で、56ビューをけなせるな」


「戒璃くんは完璧で、唯一無二の存在感を放って……いて……って。 ん? 本人?」


「あーもう、マジでこいつなんなの? リスなのかってほど真ん丸な目で、キョトンと俺様を見上げやがって」


「もしかして……」


 この話の流れでいくと……


「あなたは……」


「俺様が双子アイドル、56ビューの雷斗(らいと)だ」


 えっ、嘘でしょ?


「今週の音楽チャートで、2位を とってんだよ。コンサートチケット即完売の、大人気アイドル様なんだよ!」


 ひぃえぇぇぇ!

 ご本人様でしたか。


 言い訳をさせてもらうと、見た目が明らかにアイドルっぽくなくて、さわやかさのかけらもないし、極甘スマイルも蜜甘ウインクも飛ばしそうにない。

 怒鳴りまくるヤンキーにしか、見えなかったんです。


 スポットライトを浴びて歌う姿?

 想像なんて無理だ。

 特攻服をひらめかせながらバイクを飛ばす、総長様に見えてしまいますが……

 本当にアイドル? 

 私今、アイドル詐欺にひっかかってない?


「今オマエ、俺の顔見てアイドルっぽくないって思ったろ?」


 うっ、かなり鋭い!


「いっいえ……そんなことは」


「あー、もう頭にきた!」


「ひぃえ?」


「利用するためにオマエに近づいたけど、もう優しくしてやんねー」


 やっ優しくしてもらったつもりは、ありませんが……


 はい? 

 いっいいい今、なんて言いました?

 私を利用するために近づいたって、聞こえたけど……噴水に突き落としたのも、わざとっていうこと?!


 確かに、私に突進してきたときの状況を思い出すと、おかしなところだらけだったの。

 走りながらくねっと曲がれば、噴水に落ちなかったはずだし。

 ちょっと走る軌道を変えれば、私を巻き込むこともなかっただろうし。


 いやそんなことより、利用するってなに? 

 私に犯罪チックなことをさせるつもりとか?


 やばいやばい、どうしよう。

 危険は回避するべきだよね?

 逃げるには、ちょっとありきたりな手だけど……


「わっ私、そろそろバイトに行く時間だ。そっそれでは」


 池の外と遮断するように流れている分厚い水の壁を、勢いをつけて突破すれば、なんとか外へ……


「大人気アイドルを噴水の中に置いて、一人で帰るつもりじゃないよな?」


「バイトなんです。シフトに入っているんです。ビショビショのままじゃいけないから、一度施設に戻って、着替えてから……」


「オマエはもう、あのファミレスで働く必要はない!」


 ……ん? ワット?

 私のバイト先を知っているってこと?

 まさかね。


「高校もオマエが住んでいる施設にも、オマエの今後のことは話してある」


「どっどどど……どういうことですか?」


「これからのオマエの使命は、俺様たち双子の世話をするってことだ!」


 自信満々のニヤニヤ顔で、意味不明なことを言いきられてしまいましたが。

 双子の世話って……

 大人気アイドル56ビューの?


「えぇぇぇぇ!!」


 いっいや、無理です。

 私にはムリゲーレベルです。


「うちの大豪邸にオマエの部屋を用意させた。家具家電も新品を一通り揃えてある。もちろん給料も払ってやるよ。たらふくな」


「おっおおおっ、お金云々じゃなくて……バイトを急に休んだら……みみみ、みんなに迷惑が……」


 てんぱりすぎて声が震えちゃう。

 現実とは思えない提案で、体中ブルブルブル。


「オマエが働いてるファミレスは、うちの五六(ふのぼり)グループだ」


 え? 

 メニュー表に小さく書いてあるFUNOなんちゃらって、フノボリだった?


「でっでも……」


「店にはすでに別の人間を手配した。オマエが今すぐやめても、何一つ問題はない」


 腕組みをして、仕事ができる社長みたいドヤな顔を飛ばさないで。


「とりあえず数日分の必要なものをバックにつめて、俺様の屋敷に引っ越しな」


 もしかして施設も出るってこと?


「そっそんなの困ります!」


「オマエ専属のメイドもつけてやろう」


 いや、そういうことじゃなくて……


「だって私がいないと、小さい子たちが夜寝むれなくて。家事だってしなきゃいけないし……」


「子育てのプロが必要かってことか。エキスパートを数人送り込めば、子供もすぐなつくだろう」


 お金持ちってなんでも解決できちゃうの?


「こっ高校は? 私は女子高に通ってて……」


 アルファが一人もいないから、安心して通えて……


「オメガのオマエにとって、俺様たちアルファはオオカミみたいなもんだしな、美心(みこ)


 オっ、オメガってことまでご存じとは。

 そしてあなたはアルファなんですね。

 開いた口がふさがらないよ。


「私の名前もバイト先も、どうして知ってるんですか?」


「オマエは利用したい女なんだ。素性を調べておくのはセオリーだっつーの」


 さっきも利用するっていってたけど、オメガの私を襲うつもりなのでは?

 アルファにとって発情期のオメガフェロモンは、最高級デザート以上に甘美なものって聞くし。

 いくらオメガが希少種で滅多に出会えないからって、お金と地位で好き勝手するなんて許せない!


 ここで弱さを見せちゃダメだ。

 オロオロなウサギ風にふるまったら、付け込まれてしまう。

 背筋を伸ばして、凛として。


「ひっ、一つ言っておきますけど。私にはアルファの番がいるんです!」


「で?」


 勝ち誇ったような顔をされたけど、ここでひるんじゃダメだ。


「あっ跡は消えちゃったけど、アルファ様に首の後ろをガブッと噛まれたんです。だから私は、彼以外のアルファフェロモンに惑わされることはありません!」


「まぁ、教科書にはそう書いてあるわな」


「彼以外のアルファは、私のオメガフェロモンを感じ取ることすらできないはずです!」


「美心さ、世の常識がすべて正しいって思いこんでないか?」


「えっ?」


「ほんとちょろい奴。そんなんだから俺様達にいいように利用されるんだよ」


 ……っ、バカにされた。

 悔しい。


「まぁ安心しろ。オオカミ学園ににぶちこんでも、俺がオマエのことを守ってやるから」


 ……ん?

 オオカミ学園に私をぶち込む?


「アルファしかいない学園だが、オマエがオメガだってことは伏せてやる」


 生徒全員がアルファの高校に、転校するってこと?

 何を考えているんですか! 

 私はオメガなんですよ!


 薬を飲んでるし番がいるから、フェロモンを放っても番以外を誘惑しちゃうことはないと思うけど……

 絶対ではないかもしれないし……


 だからアルファの群れのなかは、オメガにとっての危険地帯であって。

 安心しろと言われて、純粋に微笑むことなんてできなくて……


「やっぱりあなたのことは信じられません」


雷斗(らいと)な、俺様の名前」


「私は今の生活を続けたいんです!」


「却下」


「施設の子たちと一緒にいたいんです!」


「そんなに俺様と一緒にいるのが嫌なのか?」


「できれば……雷斗さんと関わらない人生の方が……安眠できそうで……」


「ふーん。じゃあ、暴露させてもらうわ」


「ん、暴露?」


「学校の奴だけじゃない、世界中の奴らにな。俺様の発信力、見くびんなよ」


「発信するって何をですか?」


「七星美心はオメガ。そして89盗の八神戒璃の(つがい)だってな」


 改めて聞くと、八神戒璃って本当に完璧なフルネームだ。

 全人類に愛を与える、神様みたいな尊い名前。

 戒璃っていう響きも大好き。

 雷斗さんのワイルド声で紡がれたこともあって、戒璃くんの名前を聞くだけで耳が幸せで……って。


「ええぇぇぇ! ばっ…ばばばっ……暴露?!」


「世界中の戒璃ファンに、睨まれるだろうな。お気の毒さま」


「あわわわ……だっ誰かなぁ……かかかか戒璃くんって……」


「ごまかすの下手か。調べのプロに大金を渡したんだ。この情報がデマなら、あの男は処刑だなぁ」


 しょっ、、、処刑?!

 雷斗さんって悪魔じゃないよね? 

 殺し屋じゃないよね?

 いっちゃってる目が、怖すぎなんですけど……


「ごめんなさい……つがい関係です……戒璃くんとは……」


「そのこと、今から俺のSNSに……」


「書き込まないでください!」


 絶対にやめてください!

 第2の性がバレたら、私はオメガ差別にあっちゃうの。


 それにね89盗のファンって、自己犠牲覚悟の熱狂的信者が多いんだよ。

 一般人が戒璃さまに首を噛まれたなんて知られたら、暴動どころの騒ぎじゃないかも。


 一番は、戒璃くんに迷惑をかけたくない。

 これ以上彼に嫌われたくない。


「これでもまだ、俺様と手を組む気にはなれないか?」


「……暴露されるのは……困るけど」


 「美心にもメリットがないと不公平か。じゃ、こういうのはどうだ?」


 「ん?」


 「オマエは俺様たち双子の面倒を見る。その代わり俺たちの力で、美心と戒璃の(つがい)関係を解消してやる」


 つがい関係を解消?

 まさか……


 「そんなことできるはずが……」


 世の常識だよ。

 オメガは、自分の首を噛んだアルファとしか番いになれない。

 アルファは何人とも番えるけど。

 そして番の関係は、一生断ち切ることができないって。


 「神をも超える予定のこの俺様には、番解消などたやすいことだがな」


 理解できないなぁ。

 絶対に無理なことを、さもできるように言い放つんだから、この金髪ワイルドアイドル様は。


 「信じてないだろ?」


 「信じる人がいると思いますか?」


 「まぁ見てろって」


 雷斗さんが右手を挙げた。

 この人、足だけじゃなくて手も長いんだな。

 背も高いしほんとモデルみたい……って、大人気アイドルか。


 私の脳内にポコポコ沸く雑念を払うかのように響いた、指を鳴らす音。

 パチンと重い音がした直後、吹き出していた水が急に止まったんだ。


 あれ? 

 さっきもこんな奇跡が起こらなかった?

 そりゃこの噴水は、一時間に数分しか水を噴射しないもの。

 いつ止まってもおかしくはないけれど。

 あれだけ勢いよく噴射されてたのに、指パチンのあとピタッだよ。

 本日2度目の奇跡だし。

 確率論から言っても、こんな短時間に2回の奇跡は起こりえないでしょ?


 怪奇現象には、納得できる原理を脳に思い込ませるのが、私なりの恐怖の拭い方で。

 私は震える声を雷斗さんに飛ばす。



「水が止まったのって……偶然……ですよね?」


「ちげーし」


 即レスで断言されちゃった。

 あっ、そういうことですか。


「雷斗さんって天才マジシャンなんですね。こんな大がかりなイリュージョンの仕掛けは、どこにあるのかな? アハハ……」


 なんてキョロキョロしてみたものの……


「天才って言われて、悪い気はしねーな。電気系統をいじるのは、俺様の得意分野」


 両手ピースの金髪ワイルドアイドルに、どや顔を飛ばされてしまいました。


 そうですか。

 高3って言ってたし、工学科の高校に通っているんですね。

 アイドルと学業の両立、頑張ってください。

 それでは……


「おい、噴水止まったからって逃げようとすんな」


 ……っ、バレた。

 人間わざとは思えないことがおこったせいで、ちょっと気が動転してしまいました。

 ここにいなきゃダメだった。

 戒璃(かいり)くんとの関係を暴露されたら、私も困るわけだし。


「ってか、おまえのために今日だけで2回もこの力使っちゃったんだぜ。あとでネチネチ説教食らうのは俺様なんだからな」


 ひぃあ!

 雷斗さんの腕が、私の首に巻き付いてきた。

 私のほっぺに当たりそうなほどの至近距離に、背筋が凍りそうなほど綺麗なワイルド顔が迫ってる。


「責任もって、俺を慰めろよ。美心(みこ)


 今度は真横から、八重歯キランで私の顔を覗き込まれちゃって。


 あなたの口から放たれる言葉の全てが、意味不明の理解不能な難解問題なんです。

 明らかにバグってる距離感も、なんか無理なんです。

 とりあえず、私の首に巻き付いている腕を離してください。


 拒否反応を行動で示せばいい?

 言葉で説得すればいいの?


 どうすればいいのか、わからなくなってしまった私。

 そんな私にとてつもないパワーをくれたのは、天にも届きそうなほどの叫び声だった。


「キャー! 噴水の中に、雷斗様がいる!」


 えっ、バレた?


「嘘でしょ? こんな田舎に?」


「本物、めっちゃカッコいいんですけど!」


 うっ、みんなに注目されてるし。


「ってか肩抱かれてる子、誰?」


「もしかして雷斗くんの彼女かな?」


 やめてください、勘違いですから!


「彼女なんてイヤぁぁぁ! 大ファンなのにぃぃぃ!」


 涙混じりの悲鳴に戸惑った私は、火事場のバカ力を発揮。

 絡んでいた雷斗さんの腕をつかみあげ、彼から距離を取ることに成功しました。


 ……けれども。

 マズいよ、ピンチなんだって。

 噴水の周りに集まった20人くらいの人たちが、好意的ではない視線を私に飛ばしてくるんだよ。


 このご時世、三種の神器の一つがスマホ。

 カメラ機能に加え、動画撮影機もバッチリの優れもの。


 この状態を写真に撮られ……

 大スクープ! 

 ありえないほど噴出した噴水の中、大人気アイドルとJKが二人きり!

 そんな情報が世に広まってしまったら……


 私の名前も顔も住所ですら、ネットにアップされそう。

 団結した56ビューファンから、一斉攻撃を食らっちゃいそう。


 ひぃえぇぇ!

 恐ろしすぎて、想像することすら無理! 

 メンタル折れちゃう、ボキボキって。


「あっあの……これはその……」


「さっき女子高生が男性に抱きしめられながら噴水に落ちたけど。ライト様とこの子だったってことだよね?」


 そっそうなんですけど……

 事実なんですけど……


 私は被害者で。

 雷斗さんが大人気アイドルだってことも、噴水の中で知ったんです。

 本当なんです。


 できる限り顔を隠したくて、濡れた長い横髪を顔の前に集める。

 恐怖で体が震えてることに、雷斗さんは気づいてくれたみたい。


「嫌って言ってたよな、悪目立ちすんの。ごめんな」


 私だけに聞こえるように懺悔をこぼすと、多くの視線から隠すように私の前に立ってくれたんだ。

 本当に申し訳なさそうに謝られてしまい、怒鳴っている時とのギャップに心がざわついてしまう。

 雷斗さんは目にかかるほど長めの前髪をかきあげ、雄っぽい妖艶な声を響かせた。


「みんな騒がせてごめん。今、ミュージックビデオの撮影をしてたんだ」


 これにはギャラリーたちの目が点に。

「本当ですか?」「こんな田舎で?」と、首をかしげている。


「この噴水が、曲のイメージにピッタリでさ」


「うわー嬉しい。ライトくん、この町に来てくれてありがとう!」


「こっちこそお邪魔させてくれてサンキュ。でもさ、噴水トラブルで今回の映像はボツになりそうなんだ」


「えー残念。でも水の勢い、ヤバすぎだったしね」


「それでさ、みんなにお願いなんだけど」


「なに?」


「俺様がここでMVの撮影してたこと、黙っててもらえない?」


「雷斗様に会えたこと、みんなに自慢しちゃダメなの?」


 「今回の撮影は俺様が勝手にしたことで、風弥(かざみ)に許可なんかとってなくてさ。俺様が暴走したことがバレるとあいつマジギレしそうじゃん? 56ビュー解散!とか言いかねないんだ」


 「解散は困るよ」


 「そうだよ。私、56ビュー大好きなのに」


 「だから今日のことは、俺様と君たちだけの秘密ってことで」


 うわーすごい。

 さすが民の心を惑わす大人気アイドルだ。

 雷斗さんが「な、いいだろ?」と付けくわえ、八重歯を光らせて大人っぽく笑った直後。

 「もちろんです」「誰にも言わないって約束します」

 女子の瞳にはハートが宿り、みんなとろけそうな表情を浮かべ始めた。

 集まっていた男性たちも、「わかった」と快く頷いてくれている。

 大人気アイドルと秘密を共有できた特別感が、みんな嬉しかったのかな?




 この後私は、高級ワンボックスカーの一番後ろのシートに押し込まれた。

 雷斗さんのマネージャーさんが運転席に座っていて、駅前の駐車場で待機をしていたらしい。

 窓にスモークが張ってあるから、外から見られないのは安心だけど。

 雷斗さん、わざわざ私の隣に座らなくてもいいのでは?

 シートが3列もあるのに、なぜ一番後ろの列に?


 肩が当たってますから。

 近寄らないでください。

 離れてください!


「ちゃんとタオルで拭けたか?」


「あっ、車のシートが濡れちゃってごめんなさい」


「大丈夫だ。雨の撮影のあとに乗り込んでもいいように、防水カバーをかけてあっから」


 えっと、車が走り出しましたけど……


「これからこの車はどこに?」


「オマエが住んでる施設」


「送ってくださるんですか?」


「バーカ、荷物取りに行くんだよ」


「えっ?」


「もう俺様の屋敷にオマエの部屋が出来あがってるって、言ってあっただろーが」


「まさか雷斗さんのお家に住むのって……」


 今日から? 

 そんなすぐに?


「施設長には、俺様の親から話が行ってる。ベテランの子守りもすぐに手配する。施設専属のシェフも住まわせる約束になってるから、今夜は贅沢ディナーになるだろうな」


 いつもは私が作るお粗末な夕飯だから、みんな喜んで食べると思うけど。

 雷斗さんのお家に住むための心の準備、全然できてないんですけど。


 ビクっと肩が跳ね、雷斗さんから逃げるように私の体が横に傾く。

 横に座っている雷斗さんが、私の太ももの隣に手をついたから。


 上半身をひねり、私の顔を覗きこんでくるから逃げ場がなくて。

 困ります、こういうの。

 ワイルドな美顔が近いすぎなんです。

 戒璃くんにしかドキドキしないようにできている私の心臓でも、狭い車の中で迫られたら恥ずかしすぎるわけで……


「つらかったんだろ?」


 いきなり優しい声なんかこぼしてきて……なに?


「えっと……つらかったと……いうのは?」


八神(やがみ)戒璃(かいり)に捨てられたこと」


 なんで今、悲しい過去を思い出させるかな?

 ほっといてくれればいいのに。


「期待したことなんてないです……戒璃くんの特別になれるなんて……」


 あー、鼻がつーんときちゃった。


「泣きそうな顔で強がられても、説得力ないつーの」


 見抜かれてる。

 温かい手で、頭をポンポンしないで欲しいでよ。

 涙腺ゆるんじゃうから。


「俺様と一緒にいろ」


「えっ?」


「んで、俺様に寄りかかって思う存分甘えればいい」


 甘えるって……


「むっ無理です……人に甘えるなんて……」


「なんで?」


「施設長に言われてきたから。私には親がいないから、誰にも頼らず生きていけるくらい強くなれって……」


 甘え方なんて、誰にも教わったことがなくて……


「まぁ親代わりはそう言うわなぁ。ライオンが自分の子を崖から落とすのと同じでさ。将来の美心のことを思って厳しくしつけてきたんだと思うけど」


 わかっています。

 施設長の小言は、私たちのような身寄りのない子供へ向けた愛だってことくらい。


「俺様は思うけどな。自分の弱さを認めて人に寄りかかれる奴が、この世で一番メンタルが強いって」


「……っ」


「まぁ普段は風弥に甘えまくってるくせに、大事なときはプライドバリバリで人に頼れず吠えまくってる俺様が言っても、説得力ねーけど。美心に伝えながら頑固な俺様自身に言い聞かせてるってとこは、ハズいからスルーしろよな」


 もしかして、自虐を入れて場を和ませようとしてくれた?

 ドS魔王様も、案外かわいいところがあるのかも。

 なんかおかしい。


 「フフフ、何それ」


 「やっとまともに笑った」


 雷斗さんが、すごく嬉しそうにニヤついてる。


 「何そのキョトン顔。オマエの笑った顔、かわいいって認めてやってんの。この俺様が」


 いっ、いきなり褒められると……なんて反応していいか……


 「恥ずかしいと顔真っ赤になるとこ、計算? 天使かよ。マジかわいい奴」


 てっ天使なんて初めて言われた!


 「オメガフェロモンなんて放たなくても、オマエはエリートアルファを惑わすぐらいエグい武器をもってるんだもんな」


 連続の褒め攻撃に、戸惑わずにはいられないんですけど。


「さっきも言ったけど、これからは俺様に甘えろ」


「……でも」


「一人で苦しみに耐えてきた女はぜってー幸せになれるつーこと。ちゃんと俺様が証明してやるから、なっ」


 ワルっぽく微笑む雷斗さん。

 なんでそんな優しい言葉を、私にプレゼントしてくれるのかな?


 今まで私は、戒璃くんに捨てられた悲しみを、誰にも話せずに生きてきたんだよ。

 苦しみを一人で抱え込んできたんだよ。


 もう限界だったの、強がること。

 私は大丈夫って自分に言い聞かせるたびに、心が折れそうになってたの。


 でも寄りかかっていいなんて、優しい言葉をかけられたら……


 1人でいるのが、つらくなってきちゃった。

 誰かに依存したくて、たまらなくなってきちゃった。


 本当にいいのかな?

 雷斗さんに、自分の弱さをさらけ出して。

 私に頼られて、迷惑じゃないのかな?



 雷斗さんの本心が知りたくて、視線を彼と交えてみる。

 こんなに優しく瞳を揺らす人なんだ。

 やっと決めることがきた、自分の心の中をさらけ出す覚悟。

 ごくりと唾をのみこみ、私はギュっとスカートを握りしめる。


 「本当は苦しかったんです。2年半前、戒璃くんにやっぱり(つがい)になれないって言われたこと……」


 涙のしずくと一緒にこぼれた私の本音。

 心の痛みとともに、ギューッと絞り出された一滴だったけれど


「素直なとこ、かわいいじゃん」


 真横に座る雷斗さんが


「この俺様が、美心を(つがい)の呪縛から解放しやるからな」


 お兄さんみたいに優しく微笑みながら、私の涙を指でぬぐいさってくれたから、彼の手のぬくもりに、優しさが溶け込んでいるように思えた私は


 「……お願いします」


 素直に頷いてしまいました。




 そしてこの時の私は、全く想像していませんでした。

 雷斗さんに心を許してしまった私の行動が、戒璃くんを苦しめることになるなんて。







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