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『うふふふふ。 見つけたわ。』
(ずっとずっと探し続けていたかけらをやっと見つけた。あれは私の物)
狂気を孕んだ目に愉悦を含ませ女はくつりと笑う。
ずっとずっと気の遠くなるような悠久の彼方の時代から探していたのだ。
時はもうすぐ満ちる。自分は自由になるのだろう。その先に何が待っているのだろう。
女は久しぶりに味わう歓喜に震えた。
『ねぇ、お前たちも嬉しいでしょう?』
まだ声に成らない思念に陽炎の様に揺らめく者たちがさざめく。
それは池に落ちた石が広げる波紋の様に広がった。
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場所はセレンディア王国、太陽宮。
「父上」
ローブに身を包んだ男が静かに現れた。
「カインか。」
不穏な空気を纏う息子に苦笑いを浮かべながら返事をすると息子の目は据わったまま文句が流れ出る。
「あのような場所になぜセイラを行かせようとしたのですか。」
予想通りの文句に国王の目じりの皺が深くなる。
「そうは言ってもな。セイラは時の輪の乙女だ。いずれ本人の意思とは関係なく巻きこまれていくだろう。その時の為にも慣れておかねばならないだろう?」
「ですが! セイラは一人で行こうとしていたのですよ? 父上はセイラの無謀なところを知らないから、そんな呑気でいられるのです。」
国王は目を見開いた。
「一人でか?!」
「そうですよ・・・。何も籠の中の鳥にするつもりはありませんが、さすがにあそこに一人は危険です」
「あの家は武の家系だったな。肝が据わっているのか・・・ 育て方にもう少し口を挟むべきだったか」
はぁ、とため息をついたカインは流れるように防音の魔法を展開させた。
魔法の行使にではない疲れを見せた息子に国王は父親として告げ、カインの座るソファの横に腰かけ肩を優しく叩く。
「あの子には加護がある。大丈夫だよ。」
久しぶりに見せた息子の感情の乱れに国王は優しい眼差しを向けたが、年甲斐もなく感情を乱したのが恥ずかしかっただろう息子はぷいっと顔を反対方向へ向けた。
「お前が頼んでいた宝物の腕輪の件だが。」
「父上?」
会話の途中でくすりと笑った国王を息子が不思議そうに見つめた。
「なんでもないよ。 腕輪は王妃の間にある。心配していたから顔を出してやりなさい。」
息子は頷くと、メギナ公国の報告を始めた。