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セイラはアイラと自分の体が淡い光に覆われ初めている事に気づいた。
自分の両手を顔の前まで上げ光を増す手を驚きの目で見つめる。
アイラも驚きの目で両手を見た後セイラを見た。
「セイラ、これは・・・?!」
輝き出す二人に青年は驚く様子は無く、小竜姿のアデルを抱きかかえると、二人の元へ近づきアデルをセイラの両腕に預ける。
「この子は連れて行きなさい。」
アデルが驚いたように青年を見たが、青年の姿形が急速に薄れ、彼が何を言っているのか2人は聞き取ることができなかった。アデルがセイラの両手の中で身じろぎしたのに気を取られ、セイラが青年を振り返った時には青年の姿はもう消えていた。
自分たちが立っていたはずの地面は無くなっており、二人と小竜は落下を始めた。
「うわっ」
「え、落ちてる?!」
「ぷぎゃっ」
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神代で数年にわたり竜騎士に鍛えらていた5人もその頃、自身の体を覆う光に目を瞠っていた。
「師の言っていた時が来たのか?」
傍ではそんな5人のうちの1人を蒼白な表情で見つめる若い娘の姿があった。
王太子ローレンスはその女性の足元に跪くと早口で彼女に告げる。
「すまない、アシュレー。覚悟は良いか。」
娘は驚きの表情を隠せず正面に立つ家族に目を向ける。
彼女の視線の先には、両親と兄と姉たちの姿があった。
自分の生まれた世界を置いて遥か未来へ自分が好きになった人と行く事へ、家族と永遠に別れ未知の世界へ行く事への恐怖があった。ローレンスの手を取りたいと願う心のもう一方で、逡巡する心が待ったをかける。
(お父様やお母様、お兄様やお姉様と二度と会えないの?)
体が石になったように動けない。
(残れば、ローレンス様とはもう2度と会えなくなる)
2つの選択に心が引き裂かれる。
だがそんな彼女をあざ笑うかのように彼らを包む光は増し、刻一刻と別れの時は近づく。
彼の手を取らなければ、家族とはいられるが彼とは必然的に別れる事になる。
どちらを選んでも辛いだろう。
迷っている事が伝わったのか、彼はアシュレーの頬を優しく触れると静かに囁いた。
「アシュレー、愛しているよ」
そうして彼らを包む光が急速に弱まり出した。
(これがローレンス様と会う最後になるの? もう会えないの? 一生?)
アシュレーは無意識に離れていく王太子ローレンスの手を目で追う。
そして強く思う。
(嫌。 彼と離れたくない!)
体が無意識に動いて彼の手を取っていた。
その時アシュレーにはローレンスだけしか見えていなかった。
そんなアシュレーを家族は慈しみの目に涙を浮かべ言葉を紡ぐ。
「アシュレー、幸せにおなり」
「アシュレー、愛しているわ」
「可愛い妹よ、元気で」
「幸せにね、アシュレー」
涙を浮かべてアシュレーに語り掛ける家族へ顔を向けた直後、世界から6人は消えた。




