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宮の者達が嬉しそうに宴の準備をしていた。
遠くには、成人の後、宮を離れていた弟妹達が久しぶりに戻って来ていた。
「姉さま!」
嬉しそうに駆けてくるのは、最近去っていった妹の1人である。
隣に立った宮女が嬉しそうに口を開く。
「エデル様にはまだお伝えしておりませんでしたが、創世の女神様がご懐妊されたのです。
今日はそのお祝いの宴を開く予定でございます。」
「そうなの。それは嬉しい事ね。宴は盛大にしないといけませんね」
私は頷きつつも、母神の懐妊についてはずっと前に気づいていた事は口にはしない。自分に今日まで伝えられなかったのは、感情の機微に敏感な年の近い妹が私の行動を心配しての事だと予想がつく。
だがそんな妹も考えつかないような謀を考えている自分は成功した際の幸福を思い目を眇める。
上手く事が運ぶかは五分五分と言ったところだが、そんな事はどうでもいい。
自分は賭けたいのだ。己の望む者を手に入れる為に。
成功した暁には、父神の愛を直に感じる事が出来るのだと、この積年の想いが報われるのだと、自分勝手な己の邪心に酔いしれた。
宴が滞りなく催され、弟妹達がまたそれぞれの場所に戻り、宮はまた通常通りの静かさを取り戻した。
母神も慣習に乗っ取り、子を産むまで寝所を父神と別にし、父神にはしばらくの間寂しい期間が訪れる。それは、千歳一遇の機会。
侍従を一人操り、父神にお酒をしたたかに飲ませ、酩酊した父の寝所に訪れる。
静かな部屋に己の衣擦れの音。そして褥から届く父神の息遣い。
知らず手が震えていた。
それは創世の男神を騙す大罪、だが心は高揚していた。
母神を装って訪れた寝所で、事は面白いほど自分に都合よく運んだ。
父神は自分を母神と信じ込み、騙され自分を母神と想い強く、愛情深く触れる。
大切そうに、それは優しく。
体が静かに褥に誘われ、横たえられる。
褥に仰向けに横たわり父神を見つめる己の目には抗いがたい熱が宿る。
ふと父神の手が止まり、顔を向けると一瞬前まで父神の目に宿っていた熱が引いていた。
「一の娘よ。私はお前の母親に自身をささげている。このような事は二度とするな。」
(あぁ、気づかれてしまった)
一瞬前までの期待が奪われ、絶望に心が染まる。
「何故、母神でないとダメなのですか・・・私は母神に瓜二つでございます。」
父神は悲しそうな表情で答える。
「姿形は似ていようとも、あれとお前は違う。あれは我の唯一で、我はあれの唯一。娘であれどそれを分つ事は出来ぬよ。」
一の娘の心が闇に染まる。
娘は、褥から勢いよく降りると駆けだしていた。
そんな娘に父神は声を掛けてこなかった。恥辱が心を満たす。
初めて自分を受け入れない父神を憎いと思った。
父神に愛されている母神が憎いと思った。
娘の心は千々に乱れ、正常な判断力が失われていた。




