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時の輪を越えて  作者: 伊藤しずく
異変
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8

「カイン様はもうメギナ公国の状態をご覧になりました?」

「まだだな。ただ嫌な気は王宮内からでも感じ取れたな。」

カインは始祖返りと呼ばれるほど神気に近い魔力を持って生まれた。 

その彼がうんざりしたように答えた。

「着くぞ」

言葉と同時に自分たちの周りに沿って風が動いた後、足に固い地面の感触を感じた。

目の前に白一色の世界から世界の色が現れる。ドーム型の覆いを見た瞬間目眩がした。

「これは・・・!」

よろけたセイラを支えるようにカインはセイラの腰に回していた手に力を入れた。


この禍々しい気を放つ覆いは何なのだろう。このドーム型の覆いが現れて2日経つ。

太陽宮からも遥か遠く、黒い点のようではあったがこの覆いを見ることができた。

自分たちは今この黒い覆いから約1キロほど手前に降り立った。

そこはセレンティア王国からメジナ公国へ延びる公道横にある森の終わりだった。

背後の森には生き物の気配がある。

そのことにほっとする自分に気づく。

だが、心なしか動物たちの気配が小さい。 

なるべく気配を消してこの災厄から逃れようとしているのか、または怯えているのか。

両方のような気がした。

ここでは風も遠慮しているのか、空気が滞っているように感じた。

(この中にいる人々は無事なのだろうか。)

セイラはごくりと唾を飲んだ。


二人は注意深く周りを見回しながら、ドーム型の黒い覆いに近づいていく。

そこには老若男女の少なくない人々が心配そうに黒いドームを見つめていた。 

カインとセイラに気づくと

「魔導士様!」

と駆け寄ってくる。

セレンティアの王宮魔導士の服装とローブは特徴的であり、実力者ぞろいのセレンティアの魔導士は他国でも有名だった。


「私たちの娘が中にいるんです!」

「一体何が起きたか教えてくだせぇ!」

「生まれたばかりの孫と息子夫婦は無事なんでしょうか!」

それぞれの目に不安を乗せた必死な訴えにセイラは逡巡した。


横にいたカインがすっと前に出て答える。

「私たちにもまだわからないが、明日、各国共同救出部隊が来る。

不安だと思うが、メギナ公国に家があるものは近くの隣国の領主に助けを求めてほしい。

領主が当面の住居等の差配をしてくれる事になっている。」


マントが下につんと引かれた。

そこには3歳ぐらいの幼女がいた。

「まぁま、だいじょうぶ?」

そこへ焦った様子の祖父母と思われる二人が急いでやってきた。

「申し訳ございません。これ、魔導士様のマントを引っ張ってはいけないよ」

「そうですよ。 魔導士様の大切なローブを汚してしまったら大変ですよ」

と二人で話しかけている。

セイラは二人に微笑んだ後、子供の目線に合わせるようにしゃがむと

「ごめんね、私たちもまだわからないの。おじいちゃんとおばあちゃんの言う事を聞いて良い子にしていてね」

幼女は不安そうにセイラに問う。

「まぁまにすぐ会える?」

まだ誰もこの事態の全容を把握できていない。

大人の不安を幼女は敏感に感じ取っているのだろう。

セイラは呪文を唱えると手の中からかわいいピンク色の花のペンダントを作り上げた。

「まぁまに早く会えますように。」

幼女は首にかけられたペンダントを触ると、嬉しそうに笑った。

「まぁまのペンダントみたい!」

ペンダントには周りの不安から幼女を守る魔力を込めた。


調査の為に訪れたことを告げた後、人々は不安そうにしながらも邪魔をしないようにと

距離を置いてくれた。

「中を視れるか?」

ドームは黒い墨のような色で覆われていて、中は見通せない。

少しためらった後、覆いに手を伸ばした。カインが止めないという事は問題ないとの判断だろう。触った感触は弾力があるが、向こう側に手は通らなかった。

「普通の状態で中は見れないから・・・魔力を通して視てみる」

セイラは目を瞑ると魔力を練り始めた。

セイラの周りに木漏れ日のような温かい黄色の魔力が浮かび上がる。

魔力を帯びた手でドームを触ると少し反発があったが、根気よく魔力を流すと通すことができた。


セイラはドーム内を視て愕然とした。

「何も、ない?」

ゾクリと寒気がした。

ドーム内にはメギナ公国という公国があったはずだ。人の営み、また緑豊かな公国として知られていたメギナ公国には動物の営みもあったはずだ。だが、彼女が視たドーム内の世界は

無と化していた。 生命の息吹も何もない。人も、動物も、植物も何もない世界が広がっていた。虚無の世界だ。こんな事があり得るのだろうか。

「メギナ公国に何が起きたの・・・」

震える声でセイラが呟いた。

セイラは何度かメギナ公国を訪れたことがある。その時にはあった人の営み、鳥のさえずり、犬の鳴き声、子供が遊んでいた広場から聞こえる声、街の賑わい・・・何もかもが失われていた。

先ほど声をかけてきた人々の家族、知り合いがいたはずだ。

「ここはもう虚無の墓場だな・・・。哀れだが今の俺達には出来ることがない。退却するぞ」

カインは片手を上げると無詠唱で転移の魔法を発動させた。




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