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セイラが治療をした所為か鈍色の小竜に懐かれてしまったようで、あれから顔を合わせる度に嬉しそうに駆け寄ってくるようになった。
母竜の黒竜ももうあの時のように感情を乱す事は無くなって、穏やかな顔つきになっていた。
鈍色の小竜の治療をした後、カインたちは一旦元宿屋へ転移し、いろいろと事後対応に追われる事になる。何故か戻って来ていた王太子にいろいろとお小言を言われたとか。まぁ、宿屋の破損個所が宮廷魔導士のおかげで元に戻っていた事に対しては感謝しかない。
何故か戻る前に精霊姫のお付きの妖精とリラからセイラはお弁当を食べてから帰りなさい、とサンドイッチなどが入っている箱を渡されて、鈍色の小竜と一緒にアイラと食べる事になった。
鈍色の小竜は『僕にもちょうだい!』と口を大きく開けてすり寄って来る。
あげても良いものか悩んでいると、隣の人外の面々からアドバイスが来る。
「竜は雑食だから大丈夫だぞ。」
「そうそう、特に竜は何を食べても大丈夫。」
「上げる時に手も食べられないように気を付けてね!」
今さらりと怖い事を言われたような気もするが、二人は顔を見合わせただけで反論するのは止めておくことにした。
場所は把握したので転移で毎日竜の谷に行く事になった。
竜の間に広がっている瘴気の凝りの病気は、想像以上に竜たちの間で広がっており、一度にすべてを治療する事が出来なかった事と、今少し長に時間が残されているので、人が忘れ去ってしまった古き時代の話、知っておいた方が良い事を時間が許す限り長が教えてくれることになった。
また白竜を先頭に若い竜たちがカインとカイルに竜の騎士としての素養を教え込む日々が続いた。カイルとカインの剣技は元々すごいものがあったが、竜の指導の元彼らもだんだんと人外の領域へ近づきつつあったのだが本人たちは幸か不幸か気が付いていない。
カインとセイラがいた未来では竜の数は激減していた。
その理由が過去、瘴気の凝りに寄る病で竜の数が減ったのかはわからない。だが、今後未来に帰った時、竜の数が減っていない可能性が高い。それは瘴気との戦いに大いなる希望となるだろう。 この時代を起点として瘴気との戦いの天秤が傾けば良い、とカインは願わずにはいられなかった。また同じことを未来の状況を共有した王家の者と王家に近い者たちは願っている。
セイラはこの世界に光を呼び戻しつつある。それは瘴気を退け、徐々に弱ってきていた世界の希望となっている。
宿屋に夜戻ると外は前よりも精霊や妖精が多い。それは聖なる泉が解放された影響が大きいだろう。妖精たちが生き生きと行き交い、風の精霊が気持ち良さそうに風に乗っている。見えなくても無意識に感じているのか、人々の顔にも活気が出ていた。




