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時の輪を越えて  作者: 伊藤しずく
ディア歴530年 竜の谷
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「セイラは本当に時の輪の乙女なのねぇ。」


アイラがカイルとカインの横で呟く。

カインの横にはおなじみの空中に浮かぶちび太陽神。そして横には精霊姫。

虹の妖精リラがふわり、とアイラの肩に乗る。

アイラの呟きに少し寂しさが混じっていたのを感じ取ったのだろう。

虹の妖精リラは自分の頬をアイラの頬に寄せる。


精霊姫が珍しくアイラの呟きに大人な回答をする。


「セイラが時の輪の乙女だけれど、双子のあなたも別な意味で時の輪の乙女なのよ?」


「え?」


驚くアイラの傍らで兄のカイルが聞き返す。


「精霊姫、それはどういう意味ですか? 時の輪の乙女は必ず双子の片割れである、という記述はありましたが・・・」


質問された精霊姫は目をぱちくりとした。


「人の子の世界では知らないの?」


精霊姫は困ったように太陽神を見る。人の子に告げてはいけない内容だったのかと心配しているのだろう。

太陽神は珍しく困ったような精霊姫に年下の者を見守る年長者の笑みで答える。


「人の子に知られても問題ない。人の一生は短い。元々我らと共有していた事も時を経る毎に人の世では失われていく。その一つが時の輪の乙女の片割れの件だったと言うだけだ。」


太陽神はちらり、とセイラを見て続ける。


「セイラが時の輪の乙女として力を使えるのは、双子の片割れが元気に生きているからだ。

お主たちには見えぬだろうが、アイラとセイラの間には強い繋がりがある。時の輪の乙女の片割れは、月の乙女とも呼ばれている。」


「月の乙女?」


「あぁ、深い夜の闇に浮かぶ月を見ると人の子はほっとするのだろう? 時の輪の乙女にとって、双子の片割れは助け手であり、旅先の道先案内人でもある。まぁ、他にもあるが、今のお前たちにはまだ早いな。」


にやり、といつもの食えない笑みを浮かべたちび太陽神だった。

語る内容はとても深いのにふわふわと空中に寝そべりながらの所為か、やはり今日も威厳に欠ける太陽神だった。


目の前ではセイラに治療され瘴気の凝りから解放されていく同胞を前に歓声を上げる竜の声があがった。

鈍色の子竜は嬉しそうに母竜の元へ駆けて行く。その母竜は先ほど赤竜と対峙していた黒竜で、その黒竜の両目からは涙が溢れていた。自分の子供が瘴気に蝕まれて行くのをただ見ているのは耐え難かったことだろう。


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