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横穴から出るとそこには先ほどはいなかったもう一頭の白竜がいた。
未来でセイラに加護を与えるエルとは別の白竜。エルと比べると一回り小さいところを見ると雌の竜だろうか。
その白竜は心配そうに横穴の奥に横たわる長の竜を見つめていた。
ふとセイラがその白竜の体に気になる箇所を見つけた。
(なんだろう? 瘴気が凝って体に張り付いているような・・・)
セイラはその白竜に声を掛ける。
「初めまして。私はセイラと言うの。あなたの体に触れても良いかしら?」
白竜はエルと何か会話を交わした後、セイラに語りかけた。
『良いわよ。初めまして、セイラ。』
白竜はゆっくりと体をセイラの方へ寄せた。
ただ動きがぎこちない。何処か痛みが走るのか、庇うような動きだった。
セイラは未来でエルに挨拶をしていたように顔に触れ自分の頬を白竜に寄せた。
そして頬にもある瘴気の凝りと思われる部分に手を添えた。
捕らわれの魂たちを解放した時の事を思い出しながら、魔力を少しずつ白竜に流す。
場所は瘴気が凝っている場所を限定して、と。
白竜は挨拶だけではなく、自分の凝りに関してセイラが何かを始めたのに対して気づいたのだろう、身じろぎをしたが体を動かすことはなかった。
「怖がらないで・・・私はあなたを助けたいの。」
呟くとセイラは目を閉じて白竜の治療に集中する。
目を閉じると目の前に広がるのは小さな宇宙。星々が白竜の中で輝いている。
無数の大小の星たちの中に病んだものがある。
それらを瘴気に取り込まれる前の時間軸に戻す。
ふぅ、と息を吐いてセイラが目を開いた時、セイラは沢山の竜に囲まれていた。
この渓谷に降り立った時以上の竜の数。
驚いてつい後ろに下がろうとしたが、白竜が居た事を思い出す。
『お前たち、人の子を驚かせてはだめよ。セイラ、ごめんなさいね。皆喜びで我を忘れてしまったみたいね。』
竜たちがセイラを囲む輪を広げた後、自分の足元に幼い子竜がころん、と転がってきた。
グレー色の子竜はまだ翼が成長しておらず重心のバランスが取りづらいのかよくころころと転がっているのが微笑ましい。だが、セイラはその子竜の心臓に近い部分を見て鳥肌がたった。
こんな小さな竜にまで瘴気の凝りがあったのだ。
竜たちは自分たちの仲間が謎の瘴気に関わる病気にかかり、緩慢な悲しい死へ向かっていることを理解していた。白竜の彼女だけではなく、他にも同じ病にかかっている竜がいる。悲しい事に生まれたばかりの竜にも。そうして竜が次第に人口を減らしこの世界から消えようとしていた。昨日までは。だが、セイラが現れた。自分の大切な家族を、友人を助けられるかもしれない、という希望が。
セイラは白竜を振り返った。
「他の竜たちの治療をしても問題ありませんか?」




