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そこは大きな横穴だった。
横穴の途中までは日が入っているのだが、奥の方は薄暗くなっている。
奥に一体の竜が横たわっていた。その竜は大きな岩のような体躯に鋼色の肌をしていた。
元は銀色だったのだろうか。ところどころ銀色に輝く鱗が混じっていた。
アイラとセイラが見てもこの竜が年老いているのがわかった。
竜はアイラとセイラに気づくと伏せていた首を上げ二人を見た。
その目は穏やかな目で二人を見た。
『遠いところすまなんだな。若いのが無理をしたようだ。』
ふい、と目線が赤竜の方を向いた。
赤竜はその視線に耐えられなかったのか、入口の方へ視線をそらした。
尻尾が気まずそうに揺れているのに気づいたアイラとセイラはくすり、と口の端を上げた。
『我に残されている時間は多くは無さそうでな。急ぎこのような形で呼ぶことになってしまった。』
そうして長が語り始めたのは死期が近づいた竜の行く末だった。
竜は死期が近づくと「眠りの谷」と呼ぶ場所に移動し、己に石化の魔法をかける。そうして石化した竜は石化が完了した時点で光の粒子になって消えて行くのだと言う。
だが最近の竜は死期が近づいても石化の魔法を上手くかける事が出来なくなっているというのだ。石化の魔法をかけて完了するまでの間に瘴気が竜に纏わりつき、石化途中で瘴気に取り込まれてしまうと。その結果、図らずも竜は天へ帰ることが叶わないどころか、瘴気に取り込まれてしまうのだと。
竜の長の話を聞いてセイラの肌に鳥肌が立つ。
(こんな過去の時代から瘴気がじわじわと広がり始めていたなんて・・・)
知らず両手に力が入る。
(いや、違うわ。時の輪の乙女の私が生まれたという事、それが世界の瘴気に対する悲鳴なのだわ。この世界を出来る限り救わないと、未来の世界がもっと悲惨な事になる?)
長くを生きた竜の眼がひた、とセイラを見る。
『お主に竜の加護があるのが見える。竜の友、時の輪の乙女のお主に願う。我が石化の魔法をかけた後、瘴気を近寄らせぬよう力を尽くしてくれぬか? 己の存在が瘴気の贄になるなど許容できぬ。』
赤竜も言葉を重ねる。
『長をどうか静かに眠らせてあげてほしい。』
セイラにとって竜は特別な存在で、自分の出来る限りの事をしたいと思った。
ただ、怖くもあった。自分にこの目の前の竜の長の眠りを守ることができるのか、と。
「セイラ」
隣に立っていたアイラがセイラに寄り添う。
暖かなアイラの存在は自分が一人ではないと語っているようだった。
『お主の騎士も来たようだぞ。』
竜の長が楽しそうに微笑んだ。やんちゃな子供たちを見守るような慈愛に満ちた視線だった。




