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アイラとセイラはその頃お互いを抱きしめながら、顔は正面を向き驚きに目を見開いていた。
自分たちを攫ってきた赤竜(雄)が一回りも小さい黒竜(雌)に足蹴りをくらうのを目の前で見てしまったからである。
手加減なし、である。
アイラとセイラの体に足蹴りの余波で起きた風が当たる。
その足蹴りの強さと言ったら、すごい、の一言である。
体で受け止めた赤竜の体が一瞬宙へ浮きかけ、赤竜が両足を踏ん張ったのを二人は見た。
しかも赤竜に攫われてきたはずの自分たちが黒竜の足蹴りから赤竜の両腕で庇われている。
『落ち着け! この人間たちは悪い人間じゃない!!』
言葉は脳内に直接響き、音で聞こえる声は動物の抗議を上げる悲痛な鳴き声である。
『どうしてわかるの?! 悪い人間かもしれないでしょう!』
黒竜の悲鳴にも似た叫びが脳内に響く。
「あ・・・」とセイラは気づいて声を上げた。
自分たちが下ろされた渓谷の横穴から小さな竜の頭が見えたからだ。だが、セイラと目が合うと慌てて横穴の奥に隠れてしまった。
周りには沢山の竜がいた。自分たちを遠巻きに見ている竜たちは自分たちを認識しているようだが、警戒しているようには見えなかった。
赤竜が優しく黒竜に語り掛ける。
『俺が今までお前の為にならないことをしたことがあったか?』
その言葉に黒竜は反論しようと口を開くが、結局言葉にすることはなかった。
黒竜は静かに息を吐くとアイラとセイラを抱き込む腕を緩めた。
『この人間をよく見てみろ。祝福を受けているのがわかるだろう? そんな人間が我らに悪事を働くと思うか?』
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黒竜が落ち着いたので、赤竜の腕の中から出たアイラとセイラである。
赤竜は二人と目が合うと語り掛けてきた。そして最後の言葉はセイラの目を見て紡がれた。
『急に連れてきたことに対して謝罪する。お主が時の輪の巫女だな?』
セイラは何故自分が時の輪の巫女だとわかったのだろう?と思いながら、隠す事でもないので、頷く。赤竜は目に安堵を浮かべた。
『我らの長に会ってもらいたい。 ここに連れてきた理由なども長から説明されるだろう。』
アイラとセイラは顔を見合わせた。
「なんか込み入ってそうね。アイラ」
「これは太陽神様がおっしゃっていたお導きなのかしら?」
「今回は出向く前に攫われちゃったけども。」
「さすがに竜の里には出向けないからこの場合は妥当ではなくて?」
肝の据わったアイラの言葉にセイラは笑ってしまった。
「そうね、幽霊じゃないだけ良かったわ。赤竜さん、案内してくださる?」
そうして赤竜の案内で大勢の竜たちが見守る中、二人は大きな横穴に入っていった。
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