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カインにベッドまで運んでもらったセイラは、カインがドアを閉めた後、ぱっちりと目を開けた。ピンク色に染まる頬を両手で押さえた。
(カイン兄様が甘い! 気がする!)
いつも追いかけるばかりの自分は、いつまでたってもカイン兄様には近づけなくて。
自分はいつまでも妹の位置付けなのだと、いつかカイン兄様の隣に立つ女性が現れたら、笑顔で祝福する立場なのだと、言い聞かせてきた。自分はカイン様の隣に立つことは叶わないのだと。
希望を持っても良いのだろうか?
カイン兄様が部屋を出ていく前に、自分の頭を撫で頬と手の甲にキスをした。
夢じゃない、よね?
今まではおでこや頬にキスをされた事はあるけれど、手の甲はない、よね・・・と記憶をさらっていたが、不意に始まりの森での記憶がよみがえる。
(きゃ―――――――――――――――!!!)
あれは、あれは! 私の気が動転してたからで!! 宥める為の、気を落ち着かせるための行為で!
時の輪を超えてから、アイラといろいろな話をした。
恋愛についても。
前より豊富になった知識の所為か、兄の態度ではないのでは?と心が声を上げる。
一人ベッドでばたばたと暴れるセイラだったが、ふと自分が辿り着いた考えに青ざめる。
今の彼の態度は私が記憶を失っているからの物で、記憶を思い出した事を伝えたら、今までの兄としての彼に戻ってしまうかもしれない、という事に。
(それは、悲しい。)
そうしてセイラは記憶を取り戻したことをしばらく内緒にすることにした。
恋する乙女は臆病なのである。
カチャ。
静かにドアが開いて、セイラはバタバタと宙を搔いていた両手を止め、ドアの方へ顔を向けた。
「あら、起きていたのね。 調子はどう?」
笑顔で入ってきたアイラにセイラはベッドから飛び降り抱き着く。
「アイラ(母様)!!」
「どうしたの?!」
ぎゅうぎゅうと抱き着くセイラは子供のようで。セイラが泉に戻ってきた時のアイラと同じことをしているセイラだったが、二人にその認識はなかった。
「急にアイラが恋しくなっちゃって。」
アイラが疑わしそう眉を寄せてセイラを見る。
「私が持っているお菓子が欲しいのではなくて? 分けては上げるけど、一人占めは無しよ? 殿下が王宮のお菓子を持ってきてくださったのよ。」
そういうとアイラは可愛くウインクした。
二人は部屋にある備え着けのテーブルに着く。お茶のポットはほどなくして宿屋の者が運んできてくれた。
他愛のない話をしばらくした後、アイラがセイラに話を振った。
「泉の件が解決したでしょう? 元々セイラが夜中に会った精霊を助けるために出た旅だったから、目的は果たした事になるけれど、同じように困っている精霊がいるなら助けた方が良いって話になってね。」
「そうだね。困っているのなら助けてあげたい。」
自分たちは妖精の目を与えられてから、見えない世界の住人だった精霊・妖精たちが視えるようになった。とても近い存在となった彼らが困っているのなら助けなくては、と思う。
特にあの水の精霊レインティーナを助ける事に繋がった、幾多もの魂の解放について、解放することが叶って心から安堵した。もし自分達が間違った選択、対応をしていたら、と思うと今でも鳥肌が立つ。
「何処を目指したいとか、行きたい場所とかある?」
「アイラは?」
「そうねぇ。」
アイラが考えながらお菓子を口に運んだ後だった。
外から人々の悲鳴が聞こえた。
悲鳴の後に、バキバキ!と言う音も聞こえる。
アイラとセイラは顔を見合わせると窓側へ移動した。
そこには大きな赤竜がいて、こちらと目が合った。
((見つけた))
脳に響く声。 赤竜の声だろうか。
「目が合っちゃった・・・」
ぽつりと呟いたセイラにアイラが叫ぶ。
「こっちに来るわよ!」
肩を抱かれて後ろに引かれる、が間に合わない。
アイラとセイラは宿屋の窓を突き破って入ってきた竜の腕に浚われ空に舞った。
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