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時の輪を越えて  作者: 伊藤しずく
ディア歴530年 妖精と妖精の加護
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カインは眠ってしまったセイラを抱きかかえながら考える。

セイラが眠りに入る直前に呼んだ自分の名前の呼び方は、記憶を失う前に呼んでいた呼び方だった。


(記憶が戻ったのか?)


「まさか、な。」


淡い期待を覚えるが、カインは首を振る。そんな簡単に記憶が戻るのなら医者はいらないな。

苦労性のカインは現実を受け入れる。きっと無意識に出た言葉だろう、と考え直した。


自分たちはいずれ未来へ戻らなければいけない時が来るだろう。

その時の為に出来る限り未来を良い方へ変えておかないといけない、とカインは思考を巡らせた。


*******************************


カインはセイラを宿泊している宿屋のベッドに寝かせ静かにドアを閉めた。

鍛錬の為に剣を手に外に出たところで、こんなところで偶然会うはずの無い人物がこちらに向かって歩いてくるのに気が付いた。


「久しいな。息災のようで安心したぞ。」


知己の者を前に自然な笑みを浮かべたその人物には隠しきれていない品の良さがある。

王太子なのに身軽過ぎないか?と心で思うが、未来の兄も王太子だったのに自由に街歩きをしていた事を思い出し、言葉にする前に飲み込んだ。そうして思う。兄・ロイドも父も自由だな、と。

先に王太子と合流したのだろうカイルが後ろに控えていて自分と目が合ったのに気づいた王太子が口を開く。


「説明はもう受けた。ご苦労だったな。」


「いえ、いついらっしゃったんですか?」


「3日前だな。」


「は?!」


カインは驚きに声を上げた。


「お前たちの生体反応が消えたと魔導士長から連絡を受けたのが、4日前の夜中だ。そして3日前にこちらに飛んだ。」

驚いたことに自分たちはあの空間にこちらの時間で約4日いたらしい。あちらではもっと長い間いたように感じたが、時間の流れが同じではなかったのだろう。


「もう泉は確認されましたか?」


「あぁ、素晴らしい泉だった。 聖なる泉の名にふさわしい。」


王太子ローレンスは泉の輝きを思い出しながら感想を述べた。


カインの生まれ育った時代は水面下で徐々に穢れが勢いを増している世界だった。カインとセイラの二人がこの世界に来る直前には穢れが世界を覆いつくす寸前だった。この過去の世界は言うならば、穢れがまだ勢いを増す前の世界で、聖なる場所、精霊や妖精達がまだ力を取り戻せる時代のように思われた。


このカインの考えは太陽神が意味深な笑みでもって答えていた。

あの神は答えられない事は顔で答える。悲しいかな付き合いがだんだんと長くなりつつあるカインには言葉はなくても大体何を言いたいのかわかるようになりつつあった。

カインの考えに太陽神の答えは、「是」だった。


王家はこの説明を受け全力で一行の旅を支援することとなった。


王太子ローレンスは皆の無事を確認できたので今夜にも護衛の者と共に城に帰ると言う。

カイルは近衛騎士なので交代もあり得るかと思ったが、このままアイラとセイラと共に残って旅を続けるという事だった。



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