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時の輪を越えて  作者: 伊藤しずく
ディア歴530年 妖精と妖精の加護
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アイラとセイラは泉の傍の木に二人寄りかかり周りを眺める。

輝く泉に、喜びにあふれる精霊や妖精たち、世界が輝いていて、まるで世界が歌っているようだった。


水の精霊レインティーナの旧知の精霊たちが喜びに満ち溢れながら抱擁を交わしている。

長い、長い間彼女は穢れに干渉され、通常の状態ではなかったそうだ。

彼女の守る泉に繋がっていた空間に囲われていた魂たちは、汚泥が少しずつ少しずつ溜まっていくかのように、心の闇を濃くしていっていた。捕らわれていた魂たちも、水の精霊レインティーナも両方苦しんでいた。 それは永遠の苦しみが続くかのようで救いが無いように思われた。

そうして、あのままの状態であれば水の精霊レインティーナは早晩消滅したと聞き、間に合って良かったと心から思った二人である。

もちろん、精霊が消滅した後の空間への影響も深刻なものになったであろう。


「太陽神」


カインが真剣な顔で太陽神に声を掛けた。

相変わらず考えを読ませない笑みを浮かべたちび太陽神はカインの肩ぐらいの高さで横になった状態で浮いている。


「俺たちがいた世界では、俺の記憶が正しければこの泉は枯れていた。俺たちがこの世界で過去を変えても問題はないのか? 未来への影響は?」


ちび太陽神は方眉を上げるとにやりと笑った。


「良い着眼点だな。人の子よ。人の過去を変えるのは禁忌に触れるが、人外の者の過去を変えるのは問題ない。」


そうしてちび太陽神は喜びにあふれる世界を慈愛の籠った目で見つめる。


「この光景は我らが見たいと思ってやまなかったものだ。」

穢れが広がる前はこの世界が普通だった、と太陽神は心で続けた。


「もし、今回のようにこの時代で穢れの威力を削いで行ったとしたら、未来に戻った時に

世界は良い方に変わっていると信じても良いか?」


カインは祈るような気持ちで太陽神を見た。


*******************************


セイラはふと自分の体の違和感に気づく。

世界がぶれて見える。目弦(めまい)

自分の両手を見ると淡く光、透けていた。

自分の体の変化に驚く。


隣にいたアイラがいつの間にかいなくなっていることに気づいて焦る。


「アイラ?」


走馬灯のように見覚えのない景色や出来事が目の前で目まぐるしく再生される。

そうして蘇るいくつかの断片的な記憶。

未来での自分なのだろうか?

混乱と確信。

自分では止められない時の巫女の力の発動。聖竜との交流、始まりの森での出来事、そして

いつも守ってくれていた金の瞳の彼がいた。

後から押し寄せてくるのはその時の感情だろうか。


誰かの腕が優しく自分を支えたことにさえ気づけずセイラは焦燥を募らせる。


「セイラ、戻って来い。」


その手は力強く、安心感を覚えた。

セイラが覚えていたのはそこまでだった。


「カインにい、さま。」


抱きしめるカインの腕に力が入った。


カインはとっさにちび太陽神を見た。

太陽神は笑顔で告げる、それはそれは良い笑顔で。


「励めよ、人の子よ。そろそろ恋心を伝える時ではないか?」



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