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カインは、はっと腕の中のセイラを見た。
呼ばれた気がしたのだ、セイラに。
そうして瞬きの後、自分が違う場所にいることに気づく。
目の前には信じられない光景が広がっていた。
セイラは幾千もの黒い触手に捕らわれていた。
セイラの足元で揺らめく黒い海から延びる黒い触手。それらは意思を持って蠢いている。
自分がセイラの精神がある場所に飛んだ事に気づく。
セイラの精神を見つけた事は喜ばしい事だが、如何せん状況がまったくよろしくない。
最近こういったケースが増えているような気がして頭痛を覚えるカインである。
振り回されている自覚はあるが、今後も自分はセイラを助けることに躊躇はしない自信がある。
「呼んだか?」
泰然とした態度で立ち上がり、カインは聞く。
その姿は古の始祖神を彷彿とするもので。
「カイン様!」
カインの登場にセイラの口元が知らず綻ぶ。
そうして対の腕輪が眩しいほどの輝きを放ち互いの主を引き寄せあう。
まるで距離など無かったかのように、一瞬で傍に立つ。
カインがセイラに触れた瞬間、触手たちは波が引くようにセイラから離れた。
それらはカインに触れるのを恐れているようだった。
それも当然だろう。
彼が纏う圧倒的な神気がこの空間でははっきりと見える。
「俺の魔力が必要なのか? 好きなだけ使え。」
自分の顔を上から覗き込むカインの顔は穏やかな笑みを湛えていて。
優しくセイラを抱きしめるカインの両腕の中はとても安心できる。
(カイン様が来てくれたから大丈夫。)
素直に安心できる自分がいて。それは確信と言っても良いもので。
自分はきっと記憶を失う前もこうして彼に守られていたのだろう。
先ほどまでの心細さも消え、セイラは思う存分魔力を放出する。
カインの神気も合わさってこの空間に満ちる。
願うのは、この空間と気の遠くなる時をこの空間に閉じ込められていた人々の解放。
カインの神気が空間全てに満ち、照らす。
それは陰など存在することなど許さない圧倒的なもので。
全ての影が光に照らされた後、セイラの時の輪の巫女の力で空間を解いていく。
それは解放であり、祝福の浄化ともいえる力で。
暖かな白い光が降り注ぐ。
空間が解けた後には、檻の中で遥かな時間捕らわれていた家族を、恋人を、友人を迎えに来た魂達が、己が会いたいと願っていた者をそれぞれ見つけ、歓喜に震える。
捕らわれていた魂たちの心からの喜びの声が届く。
再び見えることなどもうないのだと、なんど自分に言い聞かせた事だろう。
少しの希望も見えず、希望を持つことさえ恐れる自分達。諦め続けた自分達にこんな幸福が訪れることがあろうとは思いもしなかった。長い間絶望に彩られていた自分たちに、こんな解放の時が来るなんて・・・!
魂たちの心からの感謝がこの世界に広がる、そうして本来帰るべき場所に旅立ってゆく。
それらの魂たちはいろいろな光に輝きながら、だんだんと消えて行った。
それはとても幻想的な光景で。
カインとセイラはその光景を飽きることなく見守っていた。
≪道を開いたから戻って来い≫
目の前に空から降ってきた光の柱。
二人が上を見ると太陽神達が手を振っていた。
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