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「兄様! カイン様!!」
アイラの悲鳴のような呼び声にカイルとカインはアイラの元へ急ぎ降りて行った。
そしてそこにどうやってか氷から出たセイラを見つける。
「何があった!」
慌てて駆け寄るカイルとカインにアイラはセイラを抱きしめつつ懇願する。
「セイラが! セイラが冷たいの!! 早く温めてあげないと・・・」
その次の言葉をセイラは不吉過ぎて紡げない。このまま冷たいままだと死んでしまう、と自明の理である言葉を紡ぎたくなかった。
カインがセイラをアイラから抱き上げ、カイルを見る。
「アイラを頼む。彼女も暖めないと。」
そう告げ、カインはセイラを抱きしめつつそこに腰を下ろした。
セイラの体の冷たさに、アイラが取り乱すのも無理はない、と納得する。
それでも微弱ながら呼吸するセイラに安堵を覚える自分がいた。だが、時間はそう残されていないと感じる。このままではセイラの体がもたないだろう。
ふと対になっている互いの腕輪が熱を持って光っている事に気づく。
ぴくり、とセイラの体が動く。そしてかすかに言葉が紡がれる。
「た・・・す、け、て。」
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「私は残らないわ。 元の世界に帰る。そして大切な人たちの元へ戻るわ。」
そうセイラが宣言した途端、周りの景色が一変した。
セイラの周りには黒い影たちが揺らめき、セイラを取り囲んでいた。
そしてそこから延びる幾千もの手、いや触手と言った方が正解か。触手が縄のように延びセイラの体を拘束し、がんじがらめにした。
「お前だけが戻るのか?」
「私たちを置いていくの?」
「一人だけ助かろうとするのか?」
「「許せない・・・!」」
それは影たちの総意で悲鳴だった。
セイラは息を飲む。
そうして気づく、ここが檻である事に。
微かな光ではあるが、自分の体から檻の外に伸びている光。それは外への繋がり。
自分はこの触手から逃れることが出来たなら、助かる方法はあるのだろう。
だが、この者たちは?
一体どれくらいの長い間、この者たちはここに捕らわれているのだろう?
その事にセイラが気づいた時、触手たちからそれぞれの記憶が流れてきた。
それは人にとっては悠久の彼方の出来事で。
ここはかつて瘴気に捕らわれた人たちの隔離先だった。
だが、ここに隔離された人々にとって不幸だったのは、神々が作ったこの隔離先がいつしか忘れさられた事だ。
躯が朽ち果てても、魂は檻に捕らわれたまま。それはここに残された者たちにとって耐えがたい苦痛だった。輪廻の理から外れた人々。いつしか彼らは病んでいった。
番人を請け負っていた泉の精霊も影響を受け少しずつ病んでいった。
カチリ
記憶の扉が開いた気がした。
自分はこの者たちを助ける方法を知っている。
だけど、足りない。
そう、自分には神の気がない。
頭に浮かぶのは王家の始祖の血を色濃く引く男性。
「カイン様!」




