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時の輪を越えて  作者: 伊藤しずく
ディア歴530年 妖精と妖精の加護
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セイラは誰かに名を呼ばれたような気がして後ろを振り返ったが、相変わらず見渡す限り人気が無く、セイラは一人だった。

緑生い茂る山ではあるが、動物の息吹の無い山は何故かとても荒涼とした山に感じた。


セイラは森の中を歩き、一晩明かせそうな洞穴を見つけた。

この不思議な空間で雨など降るのかわからなかったが、もしもの時の事を考えて移動しておいた方が良いと判断した。

自分が最初にいた場所にはスカーフを木の枝に括り付けてきた。

旅の道中、アイラと色違いで買ったスカーフだ。

万が一、カインたちがあの場所を通った際に自分がいたという事を知ってもらうために。


セイラは洞穴に背を預け足に両腕を回した。

一人は寂しい。どれくらい時間がたったのだろうか。数時間のようにも思えるし、数日たったようにも思えた。

太陽と月が上空にない世界では時間の流れを知る方法はなかった。

唯一食欲のみが時間を図る目安に成り得るが、この異常な状況下でどこまで空腹を感じることが出来るのかセイラにはわからなかった。


幸運だったのは寒さや暑さを感じない事だろうか。

自分がいるこの場所がどういった空間なのか、はたまた違う世界なのかわからなかったが、差し迫った命の危険は無いように思われた。ただ、言いようのない孤独感だけはさすがのセイラも堪えた。

思えば自分の周りにはいつも誰かがいた。きっと記憶の無い未来での私の周りにもいつも誰かが自分の周りにいてくれたのだろう。


いつからだろうか、孤独感に耐えられなくなり目を瞑ると声を掛けてくる者が現れた。

それは姿の無い声で、時に囁くように、説得するようにセイラに語り掛ける。


「いつまで待つのだ? 3人は諦めて去ったやも知れぬぞ?」

「お前を探すのを諦め、去った3人の事は忘れて我の手を取れ。」

「お前を捨てて去った3人の事を恨め。我が手を取れ、復讐の手を貸してやろう。」

「3人の事など忘れて、この世界で楽しくやろうではないか。」

それは昼夜関係なく声を届け、セイラを苦しめた。


声に耳を傾けてはいけない、とわかっていても声が唯一の話し相手だった。


「兄様達は私を見捨てたりしないわ。必ず見つけてくれる。」


声が信じるセイラを嘲るように返す。


「だが実際にまだ迎えに来てくれてはいないだろう。 きっと去ったに違いない。 お前のことなどもう忘れているさ。」


声は一人の時もあれば、ある時は複数の声が同時にセイラに返答を返した。

そうしていつしかセイラの耳に複数の声のうちの一つの声が残った。

「ええ、誰も信じてはいけないわ。裏切られるだけよ。」

それは女性の声で。何処か聞き覚えのある声だった。


セイラにはもう時間の感覚がなかった。

いつまでたっても感じない空腹感。睡眠すら間遠になっていた。

朝も夜も来ない薄明の空。そして無音の世界。

いつしか女性の声が大きく聞こえるようになっていた。


「早く諦めた方があなたの為よ。一緒にこの世界で楽しみましょう。」


無意識に頷きたくなる自分がいるのがわかるが、自分には大切な人たちが、自分を大切に思ってくれている人たちがいる。

セイラは実の両親と兄姉から生まれて数か月で引き離されてしまったが、それは親が悪いというものではなく、時の輪の乙女の宿命だった。

思い出せはしないが、自分を育ててくれた親も自分を愛してくれたと確信できる自分がいる。

その人たちを簡単に諦めて、一人ここに残る事は出来ない。

セイラは答える。


「私は残らないわ。 元の世界に帰る。そして大切な人たちの元へ戻るわ。」


*******************************


セイラを見つけた3人は、セイラを覆っている氷の傍まで降りてきた。

生体反応がある事を確認した3人は深い安堵の息を吐いた。だが、早急に氷の中から出さないと早晩命の火は消えてしまうだろう。


3人は出来る限りの手段を講じてセイラを氷から助け出そうと試みる。

炎で溶かそうとしたが、どういった魔法で作られた氷なのか火では溶けなかった。

氷を削って厚さを薄くしようと試みたが、ダイヤモンドのように氷は固くかけらも削ることができない。

魔法で氷を抜けようとしたが、魔法力を通さない氷だった。

魔力には困らない3人が、いろいろと試したが氷は一かけらも欠けることが無かった。


アイラは氷の中で眠るセイラに語り掛ける。


「あなたはホントに難儀な妹ね。生まれて数か月で姿を消したと思ったら、今度はこんなところで眠っているなんて。」


両手の平を氷に当て眠るセイラの顔を覗き見る。


「早く起きなさい。皆心配しているのよ。」


何度こうやって語り掛けた事だろう。

あとどれだけ語りかければ目を覚ましてくれるのだろう。どうやったらこの氷の中から助けてあげられるのだろう。


「セイラ、皆で元気に元の世界に帰りましょうよ。」


アイラは涙で濡れた顔を氷に押し当てた。

それは無意識の動きで。

涙がついた氷の表面が光り、プリズムが光を反射するように虹色の光が乱反射する。

そうして光が消えた後にはセイラを閉じ込めていた氷が消えていた。


「嘘っ!」


アイラは目を見開いた。

先ほどまであった氷が跡形もなく消え、地面に横たわって眠るセイラがいた。


「セイラ!」


慌てて駆け寄りセイラを抱き上げるが、体は氷のように冷たかった。

アイラは必死にセイラを抱きしめ温めようとするが、長い間セイラの眠る氷の傍にいたせいか

アイラ自身も冷たくなっていた。


読んでくださってありがとうございます(*'▽')

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