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リンド家嫡男カイル、26歳は頭を抱えていた。
セイラに続いてアイラも人間離れしてきているような気がする。
セイラはカインの告げるところによると聖竜の加護があるとの事だった。
それに加え今日新たに月神アデルシアと妖精の加護が与えられた。そしてそれはセイラのみにではなく姉のアイラにも与えられた加護だった。
妹二人が宿屋の部屋へ落ち着いたのを確認した後、カイルは自分の部屋へ落ち着いた。
妹二人は1室を、二人の部屋を挟む形でカイルとカインが部屋を取っていた。
失ったと思っていた末の妹の今後、そして上の妹の今後に対して心配せずにはいられない。
神の加護があるという事は、それだけ今後彼女たちの未来が大変であることを示している。
世の人は加護を幸福の証と呼ぶ。それは確かに正しい。だが、知られていない事実として大変な人生を送る人間への神からの加護という側面もある。
現にセイラは生まれて数か月で数奇な人生を送ることになった。親元を離れ未来へ飛ばされたのだ。
幸運にも未来でのセイラは育ての親に実子として育てられたらしい。未来でのセイラは自分が養子である事を知らないと、自分が実子である事を疑う余地がないほどしっかり愛されて育てられたと。そのことで両親が心から安堵したことを知っている。
二人には幸せであってほしい。それは兄として当然の感情で。
塞ぐカイルの耳にドアをノックする音が聞こえた。
コンコン
「カイル、俺だ。」
カインだった。
「開いてるぞ。」
数秒後、かちゃり、とドアが開きワインとグラス二つを抱えたカインが入ってきた。
カインの頭上でちび太陽神アレクシオがふわふわと浮いている。
カインは月神アデルシアの聖堂からの帰り道、目に力のないカイルに気づいていた。
ここしばらく一緒にいたせいか些細な心の動きがわかるようになっていた。もちろん大切な人が同じという共通点も手助けしているだろう。
それはセイラの兄アレクと似た落ち込み方で。さすが伯父と甥と思ったカインである。
「どうした? ワインなんか持ち込んで。」
「飲みたい気分かと思ってな。」
目を見張るカイルにカインがくすりと笑う。
「アイラとセイラなら大丈夫だ。太陽神が何かあったら教えてくれる。お前にも休憩が必要だろう? カイル。」
そしてカイルは思い出す。この男は未来から来たのだったと。
妹のセイラを追って未来から来た男。正直、妹をいつ連れて未来に戻るのかと気が気でなく、また妹を連れ去るのかと、八つ当たりにも似た気持ちを抱いていた。だが、時の輪を超えた未来で妹は大切に育てられ、カインは妹の安否を確かめに時を超えてまで過去に迎えに来た。
それは普通の人間には出来ない事で、どれほど妹を思ってくれているか認めたくは無いが伝わるものはあるわけで。妹の気持ち次第では未来へ見送らないといけないと、出会った時から感情は別として理性で理解していた。
「貴方は・・・未来から来たのだったな。」
カインは備え付けのテーブルにワインとグラス2つを置き、ソファに座った。
太陽神がバチンと指を鳴らすとテーブルの上につまみが並ぶ。
「我が妻の与えた加護によって心配しておるのだろう? その心配は無用ぞ。」
いきなり単刀直入に悩んでいた事に対して神から言葉を貰った。
(心を読まれてる?!)
「あー、太陽神。それは驚くから止めてやってくれないか? ついでに俺の心を読むのもやめてくれ。」
ぽりぽりと指で頬を搔くカインは呆れた口調で神に抗議していた。
そしてカイルにグラスに注いだワインを寄越す。
「アイラは未来で幸せだったぞ。」
魔法で適度に冷やされた白ワインに先に口を付けたカインが続ける。
「俺は・・・未来のアイラとは近しくさせてもらっていた。彼女の夫が俺の剣の師匠だったんでな。二人は社交界で有名なオシドリ夫婦だ。」
前にカインはセイラの親がカインの師匠だったと言わなかったか?
そして今、カインはアイラの夫が剣の師匠であると・・・。そうして導かれる答えは。
そう思った時、にやりと太陽神が笑ったのがわかった。
「カイル。俺は未来から来た者として過去の者に未来での事を話す事について制約を受けている。」
助けるように太陽神が言葉を紡ぐ。
「我らが加護を与える人間は、他の人間より試練があるのは確かだが、それに耐えられるだけの加護を与え、助ける。その為に我がここにおる。」
とても心強い言葉をくれたが、如何せん太陽神はふよふよと浮いたままだったので、少し威厳に欠けていたのが残念だった。




