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「あー、なんだ。場所を変えようか。」苦笑いの国王の一声で移動することになった。
移動先は、王宮内の王族の居住区域内の一室となった。
「セイラよ、すまんがそのちっこいのも連れてきておくれ」
ちっこいと言われたのが気に食わないのかきゃんきゃん吠えている。
「お前、大人しくしないとセイラから引き離すぞ」
王太子の脅しが効いたのか必死にセイラに縋り付いたままだが、吠えるのは止めたようである。
国王が呆れたように
「先祖返りが時の輪を越えてきたな。。。」
と呟けば、リンド侯爵と王太子が、「そのようですね・・・」と困ったように頷いた。
そもそも時の輪を超えるのは、通常神の愛し子のみで、愛し子が神の加護の元、時を超え世界の綻びを直すと言われている。王家は神の系譜ではあるが、ここ数世代先祖返りは生まれていない。王家の直系の系譜であることが色濃く出ている面差しの容姿の子犬、もとい黄金の子獅子は未来からセイラを探して訪れたのだろうか。
「陛下、前足を見てください。 娘のセイラと同じ腕輪をしています。」
「これがお主が手紙で書いていた腕輪か・・・。同じものが宝物庫にあるのを知っているか?」
リンド侯爵は首を横に振る。
「どういった内容の腕輪でしょうか。」
「父上、この腕輪は確か2つで対を成す腕輪だったはず。 どういった力を持つ腕輪かは覚えていませんが、急ぎ確認します」
陛下は、ふむ、と左手を顎に当てる。
「このちっこいのはどうする?」
「王宮で預かるしかないのでは?」
リンド侯爵が目線をセイラと子獅子に向ける。
「セイラから引き離せるか?」
「王宮の外に出せは大騒ぎになりますよ。」
「お前の将来の息子ではないのか? どうにかできないのか」
「父上、私はまだ結婚していません」
男どもは子犬もとい、黄金の子獅子とセイラを交互に見つめて考え込んだ。
「お母様、セイラを知っているようでしたわね。」
「セイラ、この方の事は思い出せませんか」
子獅子も母の言葉に顔を上げてセイラを見るが、次のセイラの言葉に悲しげにきゅーんと鳴く。
「はい、申し訳ありません、覚えてないです。」
困ったように答える私にアイラが
「同じ腕輪をしてるのですもの。婚約者だったのではないの?」
「まぁ、セイラ。 あなたの婚約者ならお母様に紹介しなさい。」
困るセイラの腕の中で気持ちよさげに子獅子は胸に頭を寄せた。
王妃はまたも何か言いたげな様子で口を開きかけたが、自分の孫かひ孫、もしくは子孫の子獅子の中身が良い年の青年だという念押しができないまま口を閉じた。
(中身は青年なのですけれど)という困った視線を伴侶である国王へ向ける。国王は王妃の言いたいことを受け止めた後、目を伏せ首を振る。
そもそも王家の血筋の者の愛する者への愛情は深い、深くて重い。この今はちっこい子獅子にも同じものを感じる。というか、さらに重いものを感じる。 無理に引き離そうものなら恨まれそうである。要らぬ恨みは買いたくない。
(儂の手には余るわい)
宝物庫にしまわれている国宝の腕輪を互いにはめている事と言い(このちっこいのがはめさせたのだろう)、先祖返りといえど時の輪の娘を追ってここまで来たことと言い、執念を感じる。リンド侯爵が取り乱すのも致し方ないと言える。16年を経て帰ってきた娘だ。 明らかに未来へ帰るのが確定している者に等託したくないだろう。