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男は拳で語り合う・・・ではなく、男は剣で語り合う、という諺が東の方の国であったような、とカインは両脇をリンド侯爵と嫡男カイルに固められ、取り留めもなく思いを巡らしていた。
ローゼンシュタイン伯爵家も武門だったが、リンド家もだったなぁ・・・と視線が遠くなる。
王(祖父)と王太子(父上)は高みの見物と決めたらしく、侍従に椅子を用意させ腰かけた後はのんびりとしたものだった。二人を見るとにこやかに手を振っている。
(まぁ、ね。)
娘の件もあるのだろうが、二人とも純粋に剣の手合わせを楽しみにしているのがわかる。
近衛騎士に借りた剣を振りつつ、慣らしている姿は重さを感じさせない。
「君は体幹がしっかりしているからな。鍛えているのだろう。」
「いえ、最近は魔導士として動いていましたので・・・」
実際普段は、魔導士長として太陽宮の執務室で書類の山と戦っていた。
答えつつカインも剣を振り、手に馴染ませていた。
始めの手合わせは侯爵からだった。
手合わせが始まった瞬間から、空気が変わったのがわかった。
一瞬たりとも気が抜けない。
この空気は馴染み深いものだった。
自然とカインの口角が上がる。
そうして気づく。自分も気分が高揚していることに。
未来での彼はすでに現役を退いていた。子供の頃に手合わせをしてもらった事はあったが、こんな高揚感は無かった。手加減してくれていたのだろう。
(ローゼンシュタイン家に住み始めたばかりの頃だったから、まだ俺も全然だったしな。)
ぺろり、と下で上唇を舐める。
昔の憧れの騎士に自分の成長を見てもらいたい。
自分の恋い慕う娘の父親に認めてもらいたい。
いろいろな気持ちが絡みあう。
剣を合わせながら楽しいと思うのは久しぶりで。
剣を左から降ろすと見せかけてから、足で回し蹴りを食らわせる。
それを身軽に躱した侯爵がにやりと笑った。
「ほう。なんとも実践向きな。」
「勝ちたいのでね。」
剣を握り直し答える。
「カイン殿の剣筋には、心あたりがあるんだがね。」
未来の詳細を語ることはできないが、剣を合わせる事でわかることもあったのだろう。
あくまで可能性としての未来の事であったとしても。
剣を合わせながら、侯爵は静かに聞く。
「娘は・・・未来で幸せだったのだね?」
剣を弾きながら、浅く息を吐きカインは答える。
「実子として育てられておりました。」
リンド侯爵の目じりにかすかな涙が浮かぶ。
「感謝する。」
それからしばらく打ち合った後、侯爵とカインは目礼し剣を収めた。




