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カインが王妃と王太子からにわか仕込みの指導を受けた数日後。
場所は太陽宮のバラ園にて。
リンド家の侯爵夫妻とその子息と令嬢達が、王宮に招かれて王家との内々のお茶会に参加していた。
カインは心の中で嘆息する。
自分の事を覚えていないよそよそしいセイラに、敵意むき出しのリンド侯爵とその令息。
(俺にどうしろと?)
そして王妃(おばあ様)と王太子(父上)からの生暖かい眼差し・・・。
言いたいことはわかる。『頑張れ』と目が物を語っている。
だがリンド侯爵夫人は違った。
まっすぐにカインを見つめるとお願いしてきた。
「カイン様。セイラのこちらに来る前の生活をお教えくださいませんか?」
カップに添えた手でカップをなぞる様に撫でる。
「娘が貴族子女として育てられた事は察せられます。
大事に育てられたであろうことも。ただ知りたいのです。
どのような暮らしをしていたか、あなたの目から見てどうだったか。お教えいただけますか?」
そこには貴族どうのという前に、一人の母親として娘を失っていた間の事を知りたいという渇望が見えた。隣のリンド伯爵が眉尻を下げ夫人の空いている方の手を握る。
「カイン殿。私からもお願い申し上げる。娘は残念ながら記憶喪失で私たちには知るすべがございません。」
ふわふわと浮いているちび太陽神アレクシオが「具体的な家の名前など出さないならば問題ないぞ」とカインに告げる。
深刻な空気がちび太陽神のおかげで台無しであるが、それはこの場にいる皆にとっては救いだったかもしれない。
カインは語る。自分に出来る範囲でのセイラの話を。
カインが見た神話の出来事のようだった未来での出現から、いつ頃はいはいを始め、歩き始め、活発な少女時代を過ごしたが。周りがどれだけ愛情深く彼女を育てたか。
その話に耳を傾けていたリンド家の家族は時に驚き、時に笑い、時にセイラをからかった。
双子とは不思議なもので、セイラがはいはいを始めた時期や、歩き始めた時期がアイラの時期と一致しており皆で驚いた。
セイラは覚えていない自分の事を語られるのがくすぐったいのか、頬をほんのりと赤らめていた。
ついついそんな姿も愛らしいと思ってしまうカインであるが、その感情を読み取ったかのようにリンド侯爵と兄のカイルの目が厳しくなる。
カインは未来でのセイラの母方の祖父であった元リンド侯爵と伯父であるリンド侯爵カイルを思い出していた。あの彼らの態度は今から始まっていたのだと気づく。
(根が深いわけだ。娘や妹を取られた父親と兄の心情か。拗れている気がしないでもないが・・・)
「セイラは父親に剣術を習っていた。私もセイラの父親に師事していたのでセイラは妹弟子となる。」
それを聞いた夫人は目を見開く。
「まぁ!」
そして思わぬところから声が上がる。
「カイン殿、私と息子と手合わせをしていただけないかな?」
断られることなど想定していない、リンド侯爵とカイルの目は楽しそうだった。




