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ローレンス王太子は額に手を当てた。
態度が仰々しい。
どこか嬉しそうである。
「息子よ・・・。嘆かわしいにも程があるぞ。その弱腰はどういったことだ? 奥手にもほどがある。」
王太子用のジャケットの飾りがしゃらりと揺れた。紺地の瀟洒なデザインの入ったジャケットを着こなす王太子は今貴族令嬢の憧れの的の人だった。
「あなたにも・・・婚約者はまだいないと聞いていますが?」
いろいろと恥ずかしい事のあれやこれやの思いを吐かせられたカインは、悔しそうに言い返す。
だが、如何せん疲れが見えている。
彼は精神的にとても、とても疲れていた。
「私は吟味している最中でね。片恋の誰かがいるわけでないのだよ。それよりも、今は君の事が優先だと思うが?」
にやにや笑いながらカインを見る。
「話を聞くにとても近い距離にいながら、告白もまだだったとは。君はもうすぐ27歳になると聞いているが・・・。」
いつの間に参加していたのか、パチンと扇子を閉めると王妃が嬉しそうに助言する。
青紫色の光沢あるタフタ生地のドレープが美しいドレスを纏った王妃はとても楽しそうである。王太子の横のソファに座りながら、うんうんと頷いている。
「カイン。わたくしが、淑女の対応の仕方を享受しましょう! 未来の孫の一大事ですもの。 告白の仕方も教えて差し上げるわよ?」
嬉しくない。 とっても嬉しくない。 遊ばれているような気がしてしようがない。
何処の世界に自分の祖母に好きな女性への口説き文句のアドバイスを貰いたがる孫がいるのか。
父上の性格はきっとおばあ様譲りに違いない。
ふわふわと浮きながら、ちび太陽神アレクシオは無情にも追い打ちをかける。
「カイン、助言は大人しく受けたほうが良いぞ。 時の輪の乙女は記憶を失っておるしな。」
今後セイラと行動を共にする予定のカインはセイラの記憶喪失を思い出し凹む。
そうだった。今までの距離感だと引かれてしまう、かもしれない。
緊急事態だったといは言え、セイラが始まりの森へ飛ばされてしまった後の、あれやこれやを思い出す。抱きしめて頬にキスした時の感触を思い出すと、今でも胸が熱くなる、が、しかし。
セイラが精神的にまいっていた事を考えると、相手は自分でなくても抱きしめられていたかもしれない。
他の誰かがセイラをあのように抱きしめ、頬にキス・・・と想像するとむかむかと腹の底から嫉妬心が沸き上がるが、自分の想像に嫉妬するのもくだらない、と首を振る。
王妃の横に一緒に座っていた王だけは、黙ってカインの肩をぽんぽんと叩いて慰めてくれたのだった。




