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時の輪を越えて  作者: 伊藤しずく
始まりの森
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時は夕暮れ時。

空の淡いが変わりつつあり、夕闇に空を飛ぶ鳥も時折見えなくなりつつある時間。


カインとセイラは空を見上げていた。

「そろそろ、でしょうか。」

「そうだな。そろそろ良い頃合いだ。」


カインはセイラを抱き上げ空に向かって一直線に飛んだ。

目くらましの魔法をかけてはいるが、安心はできない。

セイラは遠ざかる大地を眼下に収めると、目線を上へ向けた。

とにかくこの結界から出ないと自分たちに未来はない。


結界の内側に辿り着いた後、カインが片手を結界にかざす、手のひらから高濃度の魔力が放出され直系1メートルほどの円形の揺らぎができた。そのままカインは魔力を注ぎ続ける。 

結界に穴が開くまでここで持ちこたえなければならない。

瘴気にも巫女姫にも見つからないことを祈る。が、そう事は上手くいくはずもなく。


陽炎の様にいたるところから瘴気が立ち上り始めていた。

セイラは瘴気の濃い場所に向けて、魔力を放出する。

ランセルの部隊での戦いがここで役に立っていた。

力任せに魔力を放出するのではなく、瘴気の規模に合わせて魔力を調節する。


ちらりと結界を見る。円形に結界が薄くなってきている。

あと少しで結界に穴が開き脱出出来るはず、とセイラは目算する。


と、その時だった。

カインがセイラごと勢いよく左側に避ける。手を結界にかざしたままなのが凄い。

目の前で勢いよく青白い炎の火柱が立ち上っていた。

それは先ほどまで自分たちがいた場所で。

知らずセイラは、唾を飲みこむ。

直撃を受けていたら多分カインも自分も一瞬で焼け焦げていたはずだ。

頬にかかる熱風が熱い。


セイラは目を見張る。

この炎を操っているのは、巫女姫だった。否、巫女姫の形をした魔性と呼べばいいのか。

慌ててセイラは防御壁を張る。

カインの頬に脂汗が流れるのが見えた。

(私が何とか援護しなきゃ。怯えている場合じゃない!)

ここまで身の危険を顧みずに迎えに来てくれたカイン様の足手まといにはなりたくない。


だが、そろそろ残照が消えかかっていた。

これからは闇の時間。瘴気の濃くなる時間帯である。

形勢は刻一刻と自分たちに不利になってきている。


巫女姫の炎と瘴気の攻撃を躱しつつ、結界に穴をあける。

後少しで結界に穴が開くが、それまで持ちこたえられるのかわからなかった。


瘴気が延び、長くなった瘴気がそれぞれ自分自身を編むように縄を形成した。

それはまるで意思があるかのような動きで、カインとセイラに体当たりしてきた。


「セイラ!」


セイラがカインの腕の中から飛ばされる。

空中で態勢を立て直そうとしたが、その前に後ろから巫女姫に首を羽交い絞めにされた。


「ぐっ」


熱さに眩暈がする。

力も吸い取られているのか魔力が揺らぐ。


カインが結界にかざしていた手を放し、こっちへ向かってくる。

が、しかし瘴気と炎に阻まれて上手くこちらに来れない。

だが結界が綻び始めたのか、聖竜の足が一本結界内に入ってきていた。

正常な空気が一気に結界内に流れ込む。


何がきっかけだったのか、巫女姫が苦しそうに身を震わせた。

一瞬羽交い絞めにされた手が解かれる。

セイラは身を捩じると巫女姫と正面から向き合った。

そして両手を広げ巫女姫を抱きしめる。


「アルダ様。戻ってきて。」


何故そうしたのか。セイラにもわからない。

自然と体が動いていた。

セイラの体が発光し、宵闇に包まれたばかりの空間を照らす。

それはまるで暗黒世界に降りてきた救いの光のようであった。

そして瘴気が寄り添うようにセイラを包む。


セイラは自分の体が解けていくのを感じていた。

自分と世界の境界があいまいになってゆく。

そうして解け行く自分自身を受け入れようとした時、忘れることのできない声が聞こえた。


「セイラ!!」


ああ、私はこの人の元に戻りたい。

解けかけていた自分を構成していた全てが元の形に戻ろうとする。

セイラはカインの方へ腕を伸ばすが、届かない。

本能のままに練り上げた魔力が時の輪となり、セイラは時を超えた。


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