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時の輪を越えて  作者: 伊藤しずく
始まりの森
33/87

33

ミラが部屋のドアをゆっくりと開けた。

服を着替えたセイラは客室に入ってきた兄・アレクとカインを迎えた。


「カイン様。お兄様。」


二人それぞれと抱擁を交わす。

だが兄と抱擁した際に、両手で両頬を引っ張られた。


「おにい、ひゃ、ま、いひゃい・・・」


「私のかわいい、かわいい妹はお仕置きが必要なようでね。」


お願いしても手の力は変わらず、笑顔だが目が笑ってない。怖い。


「お前はランセル隊長の部隊にいたから命があったのであって、本来なら今ここにいない人間なんだよ? わかっているのかな? かわいい妹よ。 それとも私の前にいるのは亡霊かな?」


「ご、ごめん、にゃ、はい・・・」


兄はため息を吐くと、頬を引っ張っていた手を放し、ぎゅうっとセイラを抱きしめた。


「心配させるな。心臓が止まるかと思ったぞ。父上と母上からのお仕置きも覚悟するんだぞ。」


救いを求めて兄を見るが、助けてはくれなさそうだ。

カイン様の方を見ると苦笑しつつも、彼からのお小言は来なかった。

帰って来た日にこってり絞られたので、あれで終わりにしてくれるらしい。

確かに油断していた自分に非があるので、心配をかけた分怒られるのは仕方がなかった。


「まぁ、ランセル隊長がセイラを鍛える気満々だったから、父上も少しは安心できると思うが。」


(あ、やっぱりそれ決定事項だったんだ。)


有言実行のランセルだった。

しかもカイン様も兄様もすでに同意しているようだ。


*   *    *


(かしら)、本当に島に行くんで?」


「当り前よ。呪いだなんだと信心深い年寄り連中は言ってるが、そんなもん信じらるかっつーの」

ふん、っと鼻を鳴らした男は新月の暗闇の中、船を出す合図を仲間に送る。


「お前たち、ぐずぐずしてんな! とっととお宝をいただいて帰って来るぞ!」


返事の代わりに声を掛けられた男どもは出発の準備を始めた。

帆を広げ, 碇を上げる。


「でもよ、あれから人っ子一人島から出てこねぇんだよ?」

どうしても恐怖が抜けないのか、ビビってしまった仲間に男は告げる。


「どうせお偉方同士でやりあったんだろうよ、俺らには関係ねぇ。それよりも今のうちに少しでもお宝をいただいて売りさばくぞ。」


そう景気の良い事を云った男だったが、仲間と島に船を着け、降りたった後すぐに後悔することになる。


「まったく人気がないな。」

「殺しあって全滅したか?」

「楽にお宝が貰えそうで良いじゃないか。死人に口無しってな。」

仲間たちは呑気そうに笑っていた。


船の見張りに2人残し、残りの仲間たちと塔へ続く道を歩く。

塔は森の中心地にあり、しばらく歩くことになる。

深夜である。さらに今日は新月の為明かりも少ない。森は暗闇に包まれていた。


「静かだな・・・」


しばらく歩いたのち、仲間の一人が呟いた。

念の為明かりを点けずに進んでいたが、その声に他の仲間も口を開く。

(かしら)、動物の鳴き声がしねぇ・・・」


パキリ。


前方から小枝を踏む音がしてそちらに意識を向けた。

ぼうっと白いものが浮かび上がった。


「ひっ」と声を上げかけた仲間が、「お、おんな?」と気の抜けた声を出した。


前方に白い巫女装束に包まれた女がこちらに歩いてきていた。

「生き残りか?」


夜目の効く仲間が「良い女じゃねぇか。」と嬉しそうに舌なめずりした声を上げた。

(かしら)、犯しちまって良いっすか?!」

しばらく日照り続きだった仲間は久しぶりの生の女にもう歯止めが利かなさそうだった。

こんな盛った状態の男を連れて行っても仕事になったもんじゃない。


「好きにしろ。」

吐き捨てるように言うと女の手を掴んだ男は、もう一人仲間が加わったのか2名になっていたが、道からそれて茂みに女を連れ込んだ。

そこから女の悲鳴が聞こえるはずだった。そう、はずだった。


しかし実際に聞こえたのは仲間の男たちの声だった。

「ひ、ひぃぃぃぃぃっっ!!!」

「た、助けてくれぇっ!!」



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