32
始まりの森から命からがら逃れてきた塔の者達は、太陽宮の敷地内にある離宮に部屋を与えられていた。離宮は森に囲まれており、始まりの森の塔にいた者たちにとって、似たような環境は心休まるものだった。太陽宮から日に一度、医師が訪れ体調を確認したのち戻っていく。
そしてある日、新たに塔から逃れてきた者が加わった。
その者たちは最初に塔から逃れてきた長たちと同じように、ぼろぼろのローブに身を包み空を駆けてきた。 長たちは一様に逃れてきた者たちを歓迎し、お互いに生きて再会できた事に感謝した。
「また生きて会えようとは。」
眦にうっすらと涙を浮かべた長は喜んだ。
逃れてきた者たちの手を強く握った手は震えていた。
* * *
太陽宮には守りの結界があり、日々王宮魔導士が魔力を注ぎ結界を維持している。
それらは敵意ある者たちの侵入を防ぎ、魔法・物理攻撃から太陽宮と人々を守る。
だが、そんな結界にも弱点はあった。
自分の意志に反して操られている者の侵入は防げなかったのである。
二人の巫女の心は血の涙を流していた。
世界を見守っていた自分たちが世界を滅びに導くのだろうか?
塔の長が涙を浮かべ自分たちの手を握った。
暖かい手が震えるのを見て、言葉にできない己が、自分たちに真実起きた事を伝えられない己がどうしようもなく辛かった。そんな彼女たちの慟哭は誰に気づかれることもなく時間が過ぎていく。
彼女たちの心を縛るは、瘴気の織り。
人には見えずとも縛られている彼女たち自身は感じることができ、またその瘴気が周りの状況を確認している事にも気づいていた。
焦りは募る。
だが、体が自分の意志に沿ってくれない。
自害しようにも体は言うことを聞いてくれず、図らずも間者のような行動をとる自分たちがいた。意思に反して体が太陽宮へ向かう。
太陽宮に入ってすぐの回廊で声をかけられた。
「姉さ、ま?」
年の離れた妹が王宮魔導士として太陽宮にいるのは知っていたので、会う可能性はあるとは思っていた。巻きこみたくはない、と家族の情が先に来るが、操られている自分には選択権はなかった。
「アンジェラ?」
「やっぱり! 姉様!」
年の離れた妹は自分が塔に入る前と変わらない笑顔で回廊を小走りで駆けてくると、迷いなく自分の胸に飛び込んできた。
「心配してたのよ、塔の方々が酷い恰好で救助されたって聞いて。会えて良かった!」
自分に何の疑いもせずに抱き着く妹が愛おしく、そして、悲しかった。




