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今私たちはセレンティアが誇る太陽宮にいて、陛下への謁見を待っている。
父が陛下のいとこにあたり、デビュタントの年を越えてしまった私に対して
デビュタントの代わりに謁見の席を設けてくださった。お母様が張り切って侯爵家の馴染みの仕立て屋に頼んでくれた、今日のドレスは光沢のあるグレーに青の刺繍が入った奇麗なドレスだった。銀髪と青色の目に合う服装。 アイラは濃い青色に白のビーズがひざ下から裾へかけて散りばめられていて、ビーズがきらきらと日光に反射してきれいである。 大人っぽいデザインで姿勢の良いアイラが着るとはっとするほど奇麗なシルエットになった。
謁見が終われば私も成人したとみなされるらしい。(ん? という事は今はまだ未成年の扱いなのかしら。まぁ、まだ貴族年鑑を覚えられていないから未成年の方が言い訳が聞くかしら。)
いろいろと考え事をしていたせいか、部屋に人が入ってきたのに気づかなかった。
「リンド侯爵、待たせて済まない。 父は後30分ほどで時間が取れる」
聞きなれない声に顔をあげた時、脳裏に誰かの顔がよぎった。それは失った気憶の中にある誰か。
「カイル、アイラ、彼女が君たちの妹かい? はとこ殿、初めまして。 ローレンスだ。」
「初めまして、王太子様。 セイラ・リンドです。 お会いできて光栄です。」
覚えたてのカーテシーで挨拶をする。 ちらりとお父様とお母様を見るとやはり涙ぐんでいる。
私の目が少し遠くなったのを王太子は見逃さなかった。
口の端を上げて笑うと「はとこ殿。ローレンスで良い。君の奇跡を家族が一番喜んでいるよ」とおっしゃった。
兄を見ると伝染したのか兄も涙ぐんでいた。近衛騎士が簡単に涙ぐんで良いのだろうか。
アイラは私の反応が楽しいのか肩を震わせている。
「お兄様は私たちが生まれた時から知っているから仕方ないわよ」
兄と私たちは10歳離れていると思えば、私の事をしっかり覚えていたのだろう。仕方ないのかもしれない。
「見た限りまだ魔力が安定していないようだな。」
「殿下もそう思いますか。 もう1ヵ月経つのですが。」
父が心配そうに私を見た。私の体を包んでいる魔力を見ているようだった。
王太子が来てから15分ほどで、私は謁見へ臨むことになった。
「セイラ、両手と両足が一緒に出ているわよ」とアイラに肘でつつかれる。
兄が小さな妹を見る目で、「セイラ、お兄様がエスコートしてあげよう」と隙なくすっと横につく。
激甘である。兄はまだ婚約者がいないと聞いているので、少し心配になる。 しかもこのエスコートは父と兄で取り合いをし、母とアイラにとりなされ、トランプゲームに勝った兄が勝ち取ったものである。
そしてそっと斜め後ろを見ると、やはり両親が涙目になっている。
何をしても微笑まれるレベルといえばわかりやすいだろうか。
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謁見の間はさすが他国の貴賓を招く事もある重厚な、圧倒される作りだった。
謁見の間の扉の前に立っていた二人の騎士が扉を開く。王座に向かってまっすぐ伸びている
深い紅色の絨毯には緻密なアラベスク模様が織りなされていた。
きらきらと輝く窓には宝石でも散りばめられているのか輝きが凄い。
私はアイラの忠告に気を付け、両手両足が同時に出ないように気を付けつつ、兄にエスコートされながら前へ進んだ。
王座の横にはもう一つ席があり、そこに座っている女性が王妃なのだと伺える。
国王・王妃ともに整った容貌で、二人とも王太子と同じ金髪だった。 目の色は明度が違うが、二人とも緑色だ。
王太子の目の色は淡い水色だったので、親戚のどちらかの目の色かしら?と思考がそれた所で
王が口を開いた。
「よく無事に帰還した。まだ慣れぬこともあると思うが、少しずつ慣れていけばよい」
父より少し年上に見える王は優しい眼差しで言葉を紡いだ、その直後だった。