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時の輪を越えて  作者: 伊藤しずく
始まりの森
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セイラは知らず涙を流していた。

リアと呼ばれた女神の心の声を聞いてしまったせいかもしれない。

胸に切ない気持ちが溢れる。

あんなに心優しい女神が今も瘴気を腕に抱きつつ眠りについているのだろうか。

人間を愛し、人間の行く末を見守るために人界に残った心優しい女神。


その時だった、遠くで自分を呼ぶ声が聞こえた気がした。

耳を澄ませると大声で自分を呼ぶ声がする。

意識を向けた瞬間、ものすごい勢いで体が声の方に引き寄せられた。



「うっ、げほっ」

セイラはあまりの息苦しさに体を九の字に曲げせき込む。

地面に手をつくが、体に力が入らず体ごとどっと地面に倒れ伏す。


「隊長! セイラが息を吹き返した!!」


周りに安堵の声が漏れた。


「良くやった!! これで全員無事が確認取れたな!」


隊長が大声で隊長補佐に返した。


ランセルの部隊は突然の襲撃に全滅しそうになったが、とっさにランセルの張った防御壁により間一髪でなんとか耐え、生き延びたとの事だった。

防御壁を張る寸前に跳ね飛ばされた数人が意識を失ったり、呼吸が止まり仮死状態になっていたらしい。

セイラはその呼吸を止めていたうちの一人だった。

(お父様、お母様、お兄様、そしてカイン兄様には内緒にしておこう。)

と一人誓うセイラだった。


呼吸を止めていた、と言われても実感がない・・・。ただ、呼吸を止めていた時に見ていた夢のようなものがまざまざと思い出された。

夢というには生々しく、現実というには、現実感のない映像だった。


「今日はもう移動は無しだ! ここで野営を行う! みんな体を休めろ。」


朝と比べると覇気が無くなってしまった部隊は言葉少なに野営の準備を始めた。


仮死状態だった部隊のメンバーは、休むように指示が出され、セイラを含む5名は手持ち無沙汰で座っていた。 数日は変調が無いか様子を見るとの事だった。いつもだったら、いろいろ野営の準備の為に動いているのだが、隊長命令なので従うしかない。

隊のメンバーが野営の準備の合間に顔を出しては、無事を喜んでくれるので申し訳なく感じる。


セイラが一番長く仮死状態だった、らしい。 

嬉しくない事実を知ってしまったセイラの眦が下がってしまった。


そんな風に落ち込んでいると仮死状態だった残りのメンバーは何分ぐらい仮死状態だったかで競いあっていたのでセイラは呆れて笑ってしまった。


「俺が一番短くて2分か・・・。」

「俺は5分ぐらい」

「俺たち死に戻りなんだな・・・3分しか息止まってないのに?」

「落ち込むなよ、誰もセイラの15分には勝てないから安心しろ」


後ろから隊長の雷が落ちる。

「お前たち! 元気があり大変よろしい。体調確認期間が終わったら、直々に剣の指導をしてやろう!!」

そしてどこから持ち出したのか、紙の扇子でぱこんぱこん皆の頭を叩いている隊長。

楽しそうである。


叩かれた面々は横でバタバタ倒れて行った。噂通り隊長の指導はすごいらしい。

皆心が折れたのか、「指導は勘弁してー」と涙目である。

セイラが目を泳がせていると隊長がそれは良い笑顔で「セイラ、お前もだからな」と笑ったのであった。

扇子で叩かれるのは逃れられたが、剣の指導は逃れられないらしい。


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