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時の輪を越えて  作者: 伊藤しずく
始まりの森
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セイラは一人暗闇に佇んでいた。


自分達は国境沿いに北上していたはずだった。騎乗していた翼竜はどこに行ったのだろう。

部隊のみんなもどうなったのだろう。そして自分は今どこにいるのだろう。


「いったい何が起こったの?」


自分の出した声が反響して響く。

(ここはどこなのかしら・・・)

魔法で明かりを着けてみる。

周りの景色が露わになってセイラは息を飲んだ。


そこには緻密な細密画で神代の神話が描かれていた。指でなぞってみるとそれは石のようでもあり、冷たい鉱物のようでもある物質だった。


「ここは神殿?」

心なしか少しずつ光を帯びて行っている気がした。

「気のせい?  いや、気のせいじゃない、光が・・・」

それは始め淡い光だったが、どんどん壁画は光を帯びていき眩い輝きを放つ。

セイラはあまりの眩しさに目を瞑った。


小鳥の鳴き声、木々の葉が風に揺れる音に目を開いた。

セイラは周りの景色が外の景色なっていることに驚く。

目の前には美しい湖が広がっていた。湖の後ろには緑に茂る山並み。

「え!」

その山並みはアルタイ山脈で、標高の高さにより山の7合目以上が万年雪で覆われているはずのアルタ山だった。

「雪が無い!」


そうして気づく。自分がいるこの時は自分の生きる「時」ではないのだと。

「私、時の輪を知らないうちに超えてしまったの?」

皆と離れ離れになってしまっただけではなく、時も超えてしまったのか。

青ざめたまま、どうしたらいいのかわからない。立ち尽くしていると、背後から声がした。


「シオ!」

声を発したのは二人の若い女性で美しい銀髪に透き通るような海の色の目をした女性達だった。二人はとても似ていた。双子だろうか?

服装はきれいな光沢のある絹だろうと思われる素材でドレープがいくつも入った裾の長い長衣で腰にベルトを止めていた。 ベルトは宝石で出来ているのかきらきらと輝きを放っていた。

シオと呼ばれた男性は、二人の女性に柔らかい笑みを浮かべ、水を飲ませていたペガサスの背を優しく叩くと「リア、シア」と二人の名を呼んだ。


セイラは息を飲む。

(ペガサス! 神代の聖獣!)


日差しの陰ではっきりと見えなかった顔が近づいてきてハッキリしてきた時、セイラは驚く。その顔は、カインそっくりだったのだ。輝く金の髪に金の瞳。

3人の仲はとても良さそうだった。

セイラが見えていないのか、3人はそれぞれの会話を続けていた。


(私の事が見えていない?)

真横を通り過ぎていく3人に顔を向けるが、目線が全く合わない。


その後セイラの前で映像のように景色がぶれ、違う景色が映される。


それは時の流れを早送りしてみるようだった。時に早く、時に会話が聞こえるほどゆっくりと。

神の時代から人の時代への移り変わり。

人が少しずつ増え、町を作り、いずれそれが街となり、市となり、そして国を成す。

それは長い時間をかけて形成されていった。


人が増えるにつれ、人の好悪の感情が世界を染め上げていく。

良い感情は世界に良い影響を与えていたが、悪い感情は凝り、いつしか瘴気と呼ばれるものになり世界にとって悪い影響を与えるようになっていった。そしてそれは自然にも影響を及ぼす。世界はセイラが最初に見た優しい自然の風景ではなく自然災害の災禍に喘いでいた。

噴火、地震、津波、旱魃、大嵐などが次々と人々を襲った。


それは大地の悲鳴だった。


そして神代の者たちも少しずつ影響を受けていく。

神々はそれを避けるため、一神、そして一神と人界を去っていった。神代の奇跡は少しずつ神話へとなりつつあった。

そんな中、人を愛して人界に残っていた神々の中にも別れは生まれる。

シアと呼ばれた女性とシオと呼ばれた男性が恋に落ち、結ばれる。

そしてリアと呼ばれた女性は二人を祝福したのち、自分は愛する人々を見守ると言い、瘴気を浄化するために人界に残る決意をする。

「いつか、また会いましょう」

そう伝え人界を去る二人を見送った後、リアは瘴気と相対した。


リアと呼ばれた女性の心の声だろうか? 

優しい声がセイラの耳に届く。


『最愛のシオ、そして大切なシア。幸せに。』


そんな声が聞こえた後、その女性は瘴気を深く抱きしめ眠りについた。

彼女の奇麗な銀髪は深い闇色の黒に染まり、眼も閉じる寸前に黒色に染まった。

彼女が長い眠りについたのは始まりの森と言われる島だった。


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