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朝。これからランセルの部隊は国境沿いを北上して魔獣化した動物たちを収拾していく予定である。他の部隊が北から南下しつつ魔獣化した動物たちを収拾していく。お互いが合流した時点で任務終了となり帰城を許されている。
昨日の疲れも見せずに皆整然と翼竜に乗り羽ばたく。北に向かっているせいか風が冷たくなってきていた。知らずセイラは小さく身震いするとローブの首の部分をきつく合わせた。東側にメギナ公国が遠く見える。変わらず黒いドーム型の覆いに囲われている姿が恐ろしい。
(あの子やあの場所にいた人たちの家族や知り合いは・・・)
セイラは首を振ると悪い方向へ向かっていた思考を振り払った。
(止め、止め! 今は自分の出来ることに集中しよう。)
ランセルの部隊は着実に歩を進め、魔性化した動物たちを収拾していった。
「ここ数日で空気が戻ってきたな。」
「あぁ、そうだな。これで国境沿いの人々も安心して過ごせるだろうな。」
元々が実力主義の王宮魔導士の部隊は、貴族と平民の混合部隊である。
もしかしたら国境沿いに故郷や親戚のいる魔導士もこの部隊にいるのかもしれない。
北上し始めて1週間が過ぎていた。
平和を取り戻しつつある状況に部隊は気を張りつつも和やかなムードに包まれていた。
油断、があったのかもしれない。あともう少しだ、という安心感があったのかもしれない。
それは地面からいきなり吹き上げ隊全員を覆った。 一瞬の出来事だった。
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水面に映る光景を見ながら巫女姫で在った者は邪悪な笑みを浮かべる。
彼女は水面を人差し指で弾く。水面に映っていた光景がぶれ、水面に波紋が走った。
「なかなか楽しませてくれるではないかえ。」
後ろを振り返り巫女であった者2人に命ずる。
「命からがら逃げおおせた風を装い、王宮へ入っておれ。」
命じられた二人は無言のまま頷くとその場を去り、空へ飛び立った。
女は滅びを愛する者。人の苦しみ、悲しみ、そして嘆きは彼女を恍惚とした気分にさせる。
「お前たちの心の苦しみも私には美酒でしかないわ。」
無言で佇む巫女たちに告げる巫女姫であった存在は、彼女たちの心の苦しみの声を聞き微笑むのだった。




