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耳元で誰かの大きな声がする。
「あぁ、神よ。こんな事が本当にあるなんて。あなた、このペンダントは生まれた時に二人に作ったものだわ」
「永遠に失われたと思っていた娘が・・・本当に戻ってきたのか? 信じられん」
(誰が話しをしているの? 体が鉛のように思い。なぜこんなに眠いのかしら。あら、でも私死んだのじゃなかったかしら。え、生きている?!)
セイラは声の方を向いて目を開けてみた。
そこにはもう一人自分をのぞき込む自分がいた。
「え、私?!」
もう一人の自分は私が起きたのに気付くと後ろの壮年の男女に声をかける。
「お父様、お母様、目を覚ましたわ!」
二人は女性の両親らしい。がその二人は私が目を覚ましたと知るとベッドに駆け付け、
ぎゅうぎゅうと私を抱きしめた。
「えっ、あの?!」
男性は白髪交じりの金髪をしており緑の目じりには涙が浮かんでいる。
女性は未だ艶やかな黒髪に青い目の美しい女性で、同じく彼女の目にも涙が浮かんでいた。
「初めましてって言うのもおかしいけれど、初めまして。そしておかえりなさい。セイラ。姉のアイラよ」戸惑う私にもう一人の私は私に告げた。
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アイラが私を見つけ、屋敷に運んでくれてから1ヶ月が過ぎていた。
私はこのリンド侯爵家に次女として生まれたが、生後数か月で姿を消した、らしい。リンド家はこのアーケィディア大陸一の王国、セレンディアの侯爵家である。
名門侯爵家の娘だった為、当初は誘拐が疑われたらしいが、塔の長が屋敷を訪ね「時の輪」が廻ったと悦明したらしい。
神の御業と言われた両親は長に私の安否を尋ねたらしいが、「神の身許に行かれた」と答えらえたそうだ。時の輪が廻った際に消えた子供は2度と帰ることはないといわれており、両親の悲しみは深かったと。そんな私がリンド家に再び現れてからのこの1ヵ月は本当に大騒ぎだった。
初めて会う兄、祖父母。私は覚えていないけれど、兄や祖父母は私を覚えており、失ったと思っていた妹(孫娘)が返ってきたと一様に涙していた。
私はというと消えていた間の事を覚えておらず、自分がどこにいたのか、何をしていたのかを思い出せずにいた。またリンド侯爵家の娘として生まれた記憶もない。塔の長は「記憶が戻るかはわからない」とおっしゃっていた。記憶はないが所作や振る舞いは貴族のものという事だった。私としてはマナーなどを急いで覚える必要がなかったのは幸いだった。またリンド侯爵家の娘としての記憶はないけれど、自分の面差しが双子の姉にそっくりな事、また両親、兄の面差しが自分と重なることから親族なのは確かだと思う。
わからないことは姉のアイラが教えてくれるので、そう困った事にはなってないのも幸いだった。
ただ時の輪を巡ったのに戻れた人という事で奇跡の人扱いされ、たまに私を見て涙ぐむのは良いとして拝む人がいるのは何と言っていいのか。 対応に困る。
「アイラ、笑っているわね」
肩を震わせて笑っている姉を睨む。
「ふふふ、だってあなた、思っていることが顔に全部出てるんだもの」
幸運にも私とアイラは性格の合う双子だった。不思議と考えていることがお互いにわかる。兄もそんな二人を見ているのが楽しいのか優しい微笑みを浮かべている。両親に至っては家族5人がそろっているのは奇跡としか思えないらしく、涙ぐんでいる。というか、私の帰還後涙腺が壊れている。