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「さて、今週末はお楽しみの山での野宿訓練を行うぞ!」
朝一番にエドもとい、師匠は笑顔で告げた。
(誰も楽しみになどしていないぞ!! )カイン少年の目は絶望に染まった。
(まだ慣れていなのに今度は山! しかも野宿!! 狼や熊が出るって聞いた! 王都の父上、母上、兄上、助けて!!)
カインの心の悲鳴が王都に届くわけもなく・・・今日もひばりが元気に鳴いていた。そろそろ初夏である。周りはまったくもって長閑である。
アレクが元気に挙手をした。
「はい、父上! 持って行って良いものは?! 僕、おやつを持って行きたい!」
(遠足かっ)とつい心の中で突っ込んでしまうカインである。ただ悲しいかな、カインも成長期なのでおやつを食べられるものなら食べたい。 そんな思考回路に陥っているカインはいつの間にかローゼンタイン家の家族に馴染みつつあるのだったが、知らぬは本人だけだったりする。
山での修行もとい野宿は思っていたより楽しかった。山の中は緑に溢れていて、王都育ちのカインには何かと物珍しく、隣を歩く師匠の知識はすごいものだった。山の中に生えている草木について教えてもらったり、迷子になった時などの方角の確認の仕方、朝夜での確認方法の違い。川の探し方、内容は多岐にわたっていた。
「王子は今魔力を封じられているが、アレクも同じだぞ。」
師匠が焚火に薪をくべながら、カインに言った。 ぱちぱちと火が爆ぜて目に眩しい。初夏とは言っても山の朝夜はまだ冷える。焚火の火はとても心地よく3人を暖めていた。
「え?」
カインは予想外の言葉に目を丸くする。
「腕輪をつけてないですよ?」
アレクは腕輪をつけていない。魔力封じには腕輪が必要だと思っていたカインは驚いた。
「この子の場合は、俺が封じている。ちょいとコツがあってな。俺でもできる。 この子も魔力が多いから、今は封じて精神を鍛えさせている。カインと一緒だな。まぁ、お前さんの方が大変だが。」
今日の夜は師匠に教えられながら取った魚に塩を振って焼いている。後は屋敷から持ってきた芋を蒸したり、山になっている木苺など見つけるたびに摘んでは袋に入れていた。
「そろそろいいか・・・。ほら、魚が良い感じに焼けているぞ。」
師匠が串で刺した焼き魚をこちらに向けた。
「父上、僕も!」
横から魚が焼けるのを楽しみに見ていたアレクが声を上げた。
「お前の目の前の魚も食べごろだぞ」
アレクが歓声を上げて焼けた魚を取り上げた。
「僕の方が大変?」
話を戻すと師匠は頷きつつ自分も焼けた魚を口に運びつつ答える。
「そうだな。始祖返りの魔力量だろう? 大変じゃないわけがない。お前は知らないだろうが、その腕輪は王家の宝物庫にあったものだぞ」
「え?!」
カインは驚いて声が出たが、話を聞きながら魚をふうふう言いながら口に運んでさらに驚いた。
(塩を振っただけなのにこんなに美味しいなんて!)
「はははは、今は食事が優先だな!」
お腹いっぱいになった二人、カインとアレクは焚火の傍で寝てしまった。やれやれと苦笑しながらエドは二人を一人ずつ仮の寝床にしている洞窟へ運ぶ。
そして後ろを振り返ると苦笑しながら声を放つ。
「お三方、カインが心配なのはわかりますが、気配が漏れていますよ?」
しばらくしてごそごそと音がしたと思うと木の陰から声が聞こえてきた。
「父上、だから言ったでしょう。エドには気づかれるって。」
「仕方ないだろう・・・王妃が心配してだな。」
「あら。酷いわ。あなたもロイドも一緒に来るって言ったじゃない。」
ばつが悪そうな顔をした3人が姿を現した。ちなみにこの3人はこのセレンティア王国の王家の面々である。とても位の高い方々である。通常、山の中には間違ってもいないはずの方たちである。
姿を現した王妃はまっすぐ2番目の息子の傍に向かうと寝顔を見てほっと息をついた。
「笑っているわ。どんな夢をみているのかしら」
隣に追いついた第一王子のロイドは眠る弟王子の頬を触り「あぁ、あのぷにぷにほっぺはもう堪能できないのだな・・・」と嘆いている。何歳の時のカインを思い出しているのだろうか。
王は無詠唱で防音の魔法をカインとアレクを包むように発動させた。
「疲れて眠っているのだから、起こすのはかわいそうだしな。」
3人の様子を見て苦笑していたエドは3人に向けて笑顔で言った。
「少し腹ごしらえしてから王都へ戻っては?」
3人は大賛成した後、焚火の前を陣取り焼き魚を堪能して帰っていった。もちろん転移魔法を発動させて。その後3人で誰にも告げずに城を抜け出したため、宰相に怒られたとか怒られなかったとか。




