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セレンティア王国、太陽宮、夏の盛りに第二王子カインは生まれた。
始祖返りの魔力を持って生まれた王子は乳児期、王宮魔導士10人がかりで織りなした
結界内で育てられた。 魔力の発現時が予測不可能だった事と周りへの被害を防ぐ苦肉の策だった。
結界内でさえ、泣くと揺りかごが揺れたり、物が浮いたり、王子の機嫌が良い時は、室内に虹がかかったりといった事が起きた。
幸運だったのは母親である王妃が動じなかった事だろう。
子供の個性と受け止め、問題が深刻化する前に一つ一つ対応していった結果、王子の魔力は一応の落ち着きを見せた。更に魔力を封じる腕輪を付けたことにより周りへの心配は無くなったが、このままでは魔力のコントロールが覚束ないという懸念が生じた。難儀である。
子供を手元で育てたいという王妃のたっての願いにより10歳までカインは王宮で育てられた。
カインが10歳の誕生日を迎えた日、国王夫妻はカインの魔力封じの腕輪を新しい物に付け替えた。
「これからはこの腕輪をつけるのよ」
優しく微笑む王妃の顔を見た後、王子は目をぱちぱちとさせて腕にはめられた腕輪を見た。
大人用にできていたはずの腕輪は、手に填めた途端大きさを変化させ10歳の王子の腕にぴたりとはまるサイズとなった。
古語を習っている王子でも読めない腕輪に書かれている文字は神代の文字だという。
(継ぎ目のない腕輪はどうやって外すのだろう?)
首をかしげて腕輪をしげしげとみていると
「それはあなたのお父様か私、後はエドしか外せないわよ。これからあなたは魔力の制御を覚えないといけないわ。 魔力に振り回されない生活を覚えなさい。」
「魔力に振り回されない生活?」
隣の王が口を開く。
息子の頭を撫でながら目線を合わせる。
「そうだ。 お前はこれからローゼンタイン家のエドの元で暮らすことになった。
エドの元で剣術を習い、精神を鍛えなさい。」
翌日カインはローゼンタイン家がある所領に居を移した。
有体に言ってエド=ローゼンタインは規格外の人物だった。
性格は豪放磊落、騎士道を貴び、男気溢れる野性味のある男だった。
剣の腕は神聖と呼ばれるほどの腕前で、エドの剣さばきは素晴らしくカインには太刀筋すら見えなかった。
そんな彼はこれから滞在することになったカインを見つめると
「カイン王子、これからは王子としてではなく、弟子としてあなたを遇する。きつい事もあるだろうが、息子のアレクと共に頑張ってくれ。」
7歳になったばかりのアレクはカイン王子をきらきらとした瞳で見つめる。
3つ年上のカインがこれから一緒に過ごすというのがとても嬉しいのだろう。
「アレク、カインだ。これからよろしく」
短く挨拶をすると笑顔が返ってきた。
「カイン兄上、よろしくお願いします!」
父親に激しく稽古をつけられたであろうアレクは、頬に泥を付けたまま笑った笑顔は年相応だった。